“きもち”をたかめる。<連載>

幸福度1.35倍の入浴術

撮影/栗原大輔[Roaster] 取材・文/山下俊太[Roaster]

いよいよ冬も本番、仕事帰りの夜はすっかり冷え込む季節になりました。疲れと冷えで消耗した身体への一番のご褒美といえば、温かいお風呂。しかし、浴槽のお湯張りがおっくうで、普段はシャワーしか浴びないという人も多いのではないでしょうか。

「実は、湯船につかることを習慣にしている人は毎日シャワーで済ませている人に比べて、1.35倍も幸福度が高いと言われています。入浴はまさに心身の健康を保てる身近な健康法。今回ご紹介する入浴術を実践して、この冬を健康的に過ごしましょう」と、語るのは理系美容家のかおりさん。大学院で物質工学を修了し、理系らしいアプローチで美容を研究。入浴アドバイザーやダイエット検定1級など、健康や美容に関する資格も多数取得しています。

一番の入浴効果は血流促進と疲労回復!

「入浴の一番大きな効能は血流促進効果。身体が温められると血管が拡がり、血液循環がよくなります。体内にたまった老廃物を回収するのも血液の役割ですので、疲労回復にも大きく関わってくるんです。また、入浴によって体温が上昇すると体内酵素のはたらきが活発になり、基礎代謝や免疫力もアップ。基礎代謝がよくなると、1日のエネルギー消費量が増えるのでダイエット効果にもつながります」

入浴前のマッサージでデトックス効果アップ

「入浴前にできる簡単なマッサージを紹介します。ちょっとした工夫で入浴効果を高めることができるんです。老廃物の排出を担うリンパ節は、お風呂に入るとはたらきが活発に。よりデトックス効果を促すために、あらかじめマッサージしていきます」

リンパ節は鎖骨、わき下、耳の下、脚の付け根、膝裏、くるぶしの後ろなどにあります。今回は鎖骨とわき下、膝裏の3箇所をピックアップ。

1.鎖骨の上のくぼみを3~5回ほど指でプッシュ。

「リンパ節は、身体の老廃物を取り除いてくれるフィルターのような器官。刺激することでより活性化します。鎖骨のリンパ節は役割が大きいので、特に押さえておきたい箇所です」

2.わきの下のくぼみを3~5回プッシュ。

「ここには腋窩(えきか)リンパ節があり、腕や手に向かって延びるリンパ管が通っています」

3.膝裏のくぼみを3~5回プッシュ。

膝裏には足に延びるリンパ管が通る、膝窩(しっか)リンパ節があります。立ち仕事が多い人は特に意識したい部分。ここをしっかり刺激して、疲れやむくみを解消しましょう。

「気になる部分だけでも毎日続けることが重要です。脚が疲れていたら脚の、腕や肩が疲れていたらわき下のリンパ節を指圧しましょう」

次は褐色脂肪細胞という、肩甲骨の周辺にある細胞を刺激。溜め込まれた脂肪を燃やすはたらきを持っています。

1.肩に手を置く。
2.円を描くように、肩を5回前に大きく回す。
3.今度は後ろに5回、同じように肩を回す。

「入浴前にコーヒーを飲むのも効果的。ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が、脂肪燃焼の手助けをしてくれます。ただし、夜は覚醒作用のあるカフェインが入っていないものがオススメです」

これで、入浴前の準備はバッチリ! 次は、入浴中のストレッチと頭皮マッサージをチェックしていきましょう。

湯船で全身の筋肉をリラックス

「プールなどでも体験したことがあると思いますが、水中では浮力作用がはたらきます。人は寝る時でさえ身体を支えるために一部の筋肉を使っているのですが、お風呂につかるとそれらの筋肉も弛緩。その上、筋肉は温められると柔軟性が高まりより伸ばしやすくなります。ですので、湯船はストレッチにもってこいの場所なんです。また、疲労を取るなら半身浴よりも全身浴。入浴時間は湯温40度前後だと10~15分で十分です」

湯船につかりながら、まずは首のストレッチを行いましょう。

1.首を左右いずれかに傾ける。
2.手の平を耳の上あたりに置く。
3.首の筋肉を、無理なく自然に引き延ばす。
4.首を反対側に傾けて、同様に筋肉を引き延ばす。

首回りの血流改善や筋肉の疲労回復は、肩こりの解消にもつながります。

「シャンプーをする時には頭皮マッサージをしてみて。頭皮表面の血流を促進させます。疲労回復だけでなく、髪が育ちやすい環境も整えてくれますよ」

両手の指で頭皮を左右、前後と動かすのを5セットずつ。頭頂部と側頭部に分けて行う。

「頭頂部の頭皮は動きにくいので特に念入りに。ちなみに、シャンプー時は髪ではなく頭皮を洗うようにしましょう。髪についた油分やほこりは、泡に触れるだけで簡単に流れ落ちます。過剰な洗浄は、かえって髪へのダメージになるので気を付けましょう」

側頭部の場合は、親指が後頭部のくぼみにかかるように手を置き、頭皮を動かすのがコツ。

「髪や身体を洗浄するときに、きれいにしようと意識するあまり洗いすぎてしまう人が多いのが残念。入浴にはそれだけで清浄作用があるので、汚れやすい足の指やわきの下などを除けば、洗浄剤はほとんど必要ありません。また、脚の静脈は心臓から遠いうえに重力に逆らわないといけないため、普段は血流が悪くなりがちですが、お湯の中では重力から解放され水圧によって静脈の流れがよくなります。脚の疲れやむくみを解消するために、入浴中に足首を回すのもオススメです」

最後に入浴後のケア。お風呂から上がった後も気を抜けません! お肌の状態は、入浴後のデイリーケアで差がつくのだそう。

お風呂上がりはこれをすると完ペキ!

「浴室から出て身体の水分を拭き取ったら、すぐに保湿クリームを塗布しましょう。入浴後は身体表面の水分が一気に蒸発しますので、むしろ入浴前よりも肌が乾燥してしまうんです。なので、肌荒れを予防するためにも、お風呂上がりの保湿ケアは欠かせません。自分の好きな香りのものを選んで、香りからもリラックス効果を得ましょう」

「実はお風呂から上がった後も、入浴の効果は続いているんです。水圧を受けていた状態から大気圧へ戻ると血管が圧力から解放され、血流の勢いがより強まります。このタイミングでもマッサージが有効。保湿クリームを塗りながら軽くマッサージをしましょう」

手足や首筋を指の腹で、心臓のある方向へとなでるように指圧します。こうすることでリンパ管を刺激。リンパ管は皮膚のすぐ下にあるので、軽く触れるくらいで十分なマッサージ効果があります。

「皮膚と脳は、同じ外胚葉(がいはいよう)から形成されているので、皮膚へのマッサージは脳にもいい影響を与えるんです。お風呂上がりに限らず効果があるので、日ごろ時間がある時に腕やひざをマッサージする癖をつけてしまうのもいいかもしれません」

入浴後はベッドでぐっすり

「副交感神経優位でリラックスした状態は、良質な睡眠のための条件でもあります。オススメしたいのが入浴してから30分後の就寝。血管が拡張して手足の先まで体温が上がった状態でベッドに入って、熱を放出しながら眠りにつくのが理想的です」

本誌で、以前に取り上げた「睡眠」と同様、この時になるべく避けたいのが就寝前にスマホやパソコンを長時間操作すること。画面から発せられるブルーライトが、せっかくのリラックス状態を刺激してしまいます。寝る際にはなるべく部屋の電気を暗くして、スマホなどの機器の使用は控えましょう。

「1日の疲れを解消した状態で次の日を迎えることは間接的に、仕事の効率アップやポジティブな気分で過ごせることにもつながるはず。今回紹介したマッサージなどは無理に全部をやろうとせず、できるものからやっていきましょう。ささいなことでも、毎日続けることが大切なんです。幸福度の高い生活を送るためにも、さっそく今日からでもお湯を張ってみませんか?」

改めて入浴の効能を再認識。いつもはシャワーだけという人も、まずは湯船につかる習慣をつけるところから始めましょう。翌朝も寒さに負けず元気よくスタートできるはずです。

INFORMATION

かおり
理系美容家。入浴検定1級やダイエット検定1級、コスメコンシェルジュインストラクターなど、健康や美容に関する資格を数多く取得。幅広い知識を生かして、美容情報サイトやセミナーなどで情報を発信している。
URL/http://rikei-biyouka.com

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