“からだ”をつかう。<連載>

腸をととのえて
身体も心もキレイに健康に!

撮影/藤井由依[Roaster] 取材・文/井口啓子

最近、美容&健康のカギとして度々話題に上がる「腸活」という言葉。便秘、むくみ、肌荒れ、冷え性、そして、肥満やぽっこりお腹まで、誰もが気になる身体のお悩みを解消するヒントが、実はすべて腸に隠されているというのです。とはいえ、何がどう大切なのか、いまいちピンと来ない…という人も多いはず。そこで今回、「腸もみ」のスペシャリストである真野わかさんを迎えて、腸が心身におよぼす多大な影響と、腸を健康に保つための秘訣、そして自分で簡単にできるマッサージ「腸もみ」についてレクチャーしていただきました!

腸は単なる消化器官にあらず!
心身の健康を司るラスボスだった!?

養腸セラピストの真野わかさん。腸もみに関する著書も多く、メディアの美容・健康特集でも引っぱりだこ。

最近いろんなところで「腸は大切」という話を耳にするようになりましたが…。

ひと昔前までは腸って単なる消化器官のひとつに過ぎないと思われていたんですが、ここ10年ほどで飛躍的に研究が進みました。まだまだ謎の多い臓器ではありますが、ただ栄養素を吸収して便を作って出す管ではなく、そこには数百兆個もの腸内細菌が棲みついていて、身体全体の免疫機能や健康に大きな影響を与えているようだとわかってきたんです。腸は小腸と大腸を合わせると全長約7〜9m、総面積はテニスコートほどにもなると言われる臓器で、人体の免疫細胞の70%ほどが集中しています。神経細胞も脳の次に多いし、ホルモンを産生している臓器でもある。「第2の脳」とも呼ばれる、重要かつ複雑な臓器であることが医学的にも解明されてきたんです。

真野さん自身が腸の大切さに気付かれたきっかけは何だったのでしょう? 

セラピストの仕事に就いた15、16年前、お世話になっていたリラクゼーションサロンに「腸セラピー」というメニューがあって、腸って揉んだりできるんだ! と衝撃を受けて。最初は半信半疑だったんですが、実際やってみるとすごく効果があったんですね。実は私、赤ちゃんの頃から便秘や虚弱体質で悩んできたんですが、腸もみを始めて便秘が解消され、風邪もひかなくなったし、体型も以前はぽっちゃりだったんですが、余計なお肉や脂肪が取れてスッキリしてきて。うちの母も腸もみ以外は何もしてないのに10キロ近く痩せたんです。

それはビックリです!

そこから腸について本格的に勉強し始めたんですが、実は腸もみ自体は江戸時代から「按腹法」という療術法があったり、台湾やタイでも民間療法としてあって。腸の大切さが医学的に解明されたのは最近ですが、腸は健康の源だという認識自体は昔からあったものなんですね。

冷えや便秘、倦怠感まで、さまざまな悩みを抱えた人が遠方からも真野さんを訪ねてくるとか。

腸が元気になると
身体も心もキレイに健康に!

真野さんが提唱されている「養腸」とは、具体的にどのようなものなのでしょう?

簡単にいえば「腸をととのえることで、心身ともに元気に美しくなろう」というご提案ですね。それも薬や腸内洗浄といった人工的な方法ではなく、なるべく自然な方法で。具体的には「腸を揉む」「食事」「心のありよう」の3つを同時に整えていくことで、腸を元気にして、身も心もより健やかになれるようにお手伝いしていきます。

腸もみと聞くと、なんだか痛そうですが…。

腸もみという言葉にギョッとされる方もいますが、体調が悪いときに無意識にお腹に手を当てたり、不安なときにお腹をなでてもらうと落ち着くように、腸は“手当て”の原点。実は人間の身体の中で腸だけが揉める臓器なので、毎日やさしく揉んであげれば、血管を介して全臓器が活性化されます。強引に刺激を与えるのではなく、とにかく心地よく腸をリラックスさせるのが腸もみの極意。具体的な方法は後ほどレクチャーしますが、腸はとっても“ビビリ”なので、さすって緊張をゆるめることで、血行をよくしてやる気を出してあげる感覚ですね。

真野さんの養腸指南書はわかりやすい言葉で腸への愛情たっぷりに書かれていて、読めばがぜんチャレンジしたくなる! 

そう聞くと一気に、いたわってあげなきゃ! という気になってきました。食事に関してはどうでしょう。腸にいい食事ってあるのでしょうか?

発酵食品は免疫機能を高めたり、腸にいる悪玉菌の働きを抑えてくれるのでおすすめ。中でも、腸にはその人が生まれた場所に近いところでとれた食べ物がいちばんいいと言われるので、納豆や味噌は日本人には合うと思います。穀物もお米で、できれば精製していない玄米とか五分づき米を。それにお味噌汁や漬物を添えたり、動物性よりは植物性タンパク質の豆腐を付けたり、食物繊維が取れる野菜や海藻類を足すといいですね。

いわゆる和定食のような食事ですね。

もっとザックリ言うなら、腸に負担をかけない食事が理想です。人間と一緒で、腸も仕事が増えると疲れて活力を失うので、なるべく消化が良くなるようきちんと嚼んで食べる。現代人はあまり嚼まずに丸呑みで早食いする傾向があるので、どうしても量を食べすぎる。そうするとますます腸に負担がかかって悪循環になるんです。

たくさん食べなきゃ元気が出ない! というわけではないんですね。

腸が自分だったら? と考えると、わかりやすいと思います。食べる量が多いのは“残業どっちゃり”、刺激物が多いのは“パワハラ”みたいな(笑)。それと同じ意味で、冷たいものの摂取をほどほどにすることで、腸への負担も軽減できます。暑い時期はなかなか難しいですが、キーンと冷えたものは最初のひとくちだけ楽しむようにして、あとは常温にするとか、ちょっと気をつけるだけで夏バテも防げますよ。

レンタルサロンなどで施術を行うこともあるという真野さん。「まずはヒアリングとカウンセリングをして、個々のお悩みにあわせて腸を揉んだり、腸が元気になる食事のポイントや、少しでも心が楽になるような考え方をお伝えしています」。養腸セラピストの育成にも積極的で、教え子は日本各地に!

あともうひとつの「心」も、腸と関係があるのでしょうか…?

腸と心は切っても切れない深い関わりがあります。わかりやすいのが、緊張したらお腹が痛くなるという現象で、これは脳が自律神経を介して、腸にストレスという刺激を伝えるからなんです。最近「脳腸相関」という言葉が使われるように、脳と腸って実は密接に影響を及ぼし合っていることがわかってきて。逆に、腸に不調が生じると脳で不安感が増したり、脳で感じる食欲にも消化管から放出されるホルモンが関与するという報告もあります。最近では、腸内に常在する細菌も脳の機能に影響を及ぼすことがわかってきて、腸の善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることも証明されたんです。

だから「養腸」してあげることが大事なんですね。

「腸を揉む」「食事」「心のありよう」。いずれかひとつでも効果は期待できますが、3つ一緒だとやっぱり相乗効果が高いですね。腸は食べ物を吸収する場所なので、いくら身体にいいものを食べても腸が弱っていたらちゃんと吸収できないし、逆に腸が元気でも負担が掛かるものばかり食べていたら腸は弱る。緊張したらお腹が痛くなるし、お腹が痛くなると心も弱まる…。みんな繋がっているのでトータルに整えていくのが望ましいですね。腸もみもコツさえつかめば誰でも簡単にできますし、腸もみと同様の効果があるエクササイズもあるので、ぜひでチャレンジしてみてください。

真野さんは「養腸」以外に特別な運動やケアはしていないそうですが、こんなにお腹美人!

毎日の生活に取り入れたい!
簡単エクササイズ

まずは日常動作の延長で効果が得られる、簡単な腸トレーニングをご紹介。「足踏み」ならデスクワークの人でも椅子に座ったままできるし、たとえば朝、歯を磨きながらでもできるのでぜひ習慣に。「片足立ち」をしたり、「雑巾掛け」など拭き掃除をするのもおすすめだとか。腸と同時に、骨盤の内側にある腸腰筋も刺激されるので、内臓の位置が下がってぽっこりお腹や垂れ尻になるのも防ぎます。

「足踏み」は、背筋を伸ばして直立して、そのまま片方の足を膝から垂直に曲げて上にあげます。反対の足も同様に上げて、交互に足踏み。急がずゆっくり、リズミカルに、腸を刺激するように膝を蹴り上げるのがポイント。気持ちよければ何度でも続けて、たまに片足立ちで静止してもOK。猫背や反り腰にならないよう気を付けて。
こちらは、長時間の立ち仕事などで下がってしまった腸を、正しい位置に戻すエクササイズ。仰向けに寝転んで両膝を立て、手を軽く組んで下腹部に当てます。そのまま腰を上にグッと浮かして。骨盤の内側の筋肉をしっかり伸ばすイメージで両足を踏ん張って上げると、下腹部もスッキリ、垂れたお尻もキュッと上がります。

腸をもんで心身共にリフレッシュ!

「腸もみ」は、強ければ強いほど効くわけではないので、痛いと感じるほど揉むのはNG。あくまで心地よいと感じる強さで、呼吸のペースにあわせてゆっくりと。食前食後はなるべく避け、起床後、あるいは入浴中か入浴後、就寝前がおすすめ。

腸もみ・その1
冷え・むくみにお悩みなら「小腸もみ」

夏場に気を付けたいのが、冷えとむくみ。いつも手足が冷たい冷え性さんはもちろん、自覚がない人でも実は腸が冷えているケースは少なくありません。腸が冷えると血液循環が悪くなり、代謝も下がるため脂肪が付きやすく、むくみ体質に。さらに免疫機能も下がるので疲れやすかったり、病気にかかりやすく治りにくい身体の状況を作ってしまうとか。女性の場合、腸の奥には大切な子宮や卵巣もあるので、冷えていいことはひとつもありません。腸を揉んで身体の表面も内臓もあたたかくしてあげましょう。

\HOW TO 小腸もみ/

STEP1

両手を重ねた状態で、おへそを覆い隠すような形でお腹の上に置きます。

STEP2

手の位置を変えずに、手首を回転させながら時計回りに円を描くようにお腹に圧をかけます。1周5~6秒を目安にゆっくりと続けて。

\ここがポイント/

小腸もみは、仰向けに寝転がるか、楽に座った状態で行って。腹筋を使ってしまうと腸に圧が届かなくなるので、お腹がゆるむような姿勢で。両手をおへその上に置き、この状態で深呼吸できる体勢ならOK。服の上からでも大丈夫です。

\ここがポイント!/

腸を刺激する際は、手を親指側から小指側に少しずつ傾けて、ぐるぐると手首を回転させて、手の位置自体は変えないのがポイント。お腹を真上からではなく、横側から押し揉んで刺激することで、気持ちよく腸を動かしていきます。

腸もみ・その2
便秘にサヨナラ!
毎日のお通じにお悩みなら「大腸もみ」

便は老廃物ですから、便秘は身体の中に生ゴミを溜め込んでいるようなもの。そのまま放置しておくと不快や倦怠感だけでなく、腸から血管を通じて毒素などが全身に回って、肌荒れや口臭、嘔吐や頭痛の原因になる恐れもあります。逆に、腸をやさしく刺激してあげれば、腸本来の正常な動きができるようになって毎日のスッキリが促せます。

\HOW TO 大腸もみ/

STEP1

前述と同じように仰向けに寝転がって、今度は両手で逆三角形を作ります。利き手を下にし、人差し指、中指、薬指の3本の指の腹が重なるように手を合わせて。

STEP2

指の腹の重なった部分で、①右の骨盤の内側、②右の肋骨の下、③おへそとみぞおちの中間、④左の肋骨の下、⑤左の骨盤の内側の順番に押しもみを。最低一周、気持ちよければ何周でも。

\ここがポイント!/

押しもみする際は、息を吐くタイミングで押して、息を吸うタイミングで離して。腸の内容物が流れている方向にあわせて、時計回りに押す位置を動かしていくのが基本。

\ここがポイント!/

5番目に押しもみする「左の骨盤の内側」の奥には、便を一時的にためておくS状結腸があるので、小さく円を描きながら丁寧に押し揉むと、スッキリとしたお腹が目指せます。

\ここがポイント!/

左のように指の腹を使って、やさしく押し揉んで。右写真のように指を立てるのはNG。この便秘対策用の腸マッサージは、腸にほどよい刺激を与え本来の動きに近づけるものなので、お腹がゆるいタイプの方はやさしくなでてあげるのがベター。

腸とのコミュニケーションで
健康も未来も決まってくる!

“良い腸”とは柔らかくてあたたかい状態だそう。「不調を抱えた方の腸は触ってみると冷たくて硬いんです。私は毎日揉んでいるので柔らかいですよ」という言葉に甘えて真野さんのお腹を触ってみると、つきたてのお餅のように柔らかくあたたかでビックリ!

「腸もみ・食事・心を整える」以外にも、日常生活の中で気を付けた方がいいことはありますか?

規則正しい生活を送ること。あとは、湯船に浸かることも大切です。夏はシャワーで済ましてしまう人も増えますが、クーラーなどで身体が冷えていることが多いのでしっかりあたためることは大事ですし、水圧による刺激で腸がほどよくマッサージされる効果も。湯船で深呼吸すれば自律神経も整いやすくなるので、週に何回かは湯船に浸かる習慣を付けてほしいですね。

改善した方がいいクセや習慣などは?

姿勢には気をつけてほしいですね。猫背になると呼吸が浅くなって、横隔膜がしっかり動かないため内臓の動きも弱まりますし、内臓の位置も下がってしまう…。いい姿勢をキープして深い呼吸をするように意識してみてください。あとは、寝る直前までスマホを見るのも良くない。電子機器の発する光の情報は脳に強い刺激を与えるため、交感神経を優位にしてしまい腸のリラックスしようとする動きを妨げます。脳の疲れが溜まれば腸内環境にも悪影響があるので、寝る2時間前にはスマホ断ちするのがベターですね。

ちょっとした日々の心がけで、腸の健康が変わってくるんですね。

腸って“かまってちゃん”なところがあって、不調があると下痢とか、お腹まわりに脂肪が付くとか、身体にわかりやすい形でアピールしてくるんですよ。逆に、良い食事を与えたり、腸を揉んで愛情を注いであげると、腸も腸内細菌も喜んで良い仕事をする。腸といかに上手にコミュニケーションをとるかで健康も未来も決まってきますので、ぜひ1日1分でも自分の腸と向き合う時間を作っていただきたいですね。

INFORMATION

真野わか
養腸家、セラピスト。腸にまつわるカウンセリングや施術をおこなうほか、講演、メディア出演、スクール講師など多岐に渡って活躍。『1日3分腸もみ足裏もみダイエット』など、養腸に関する著書も多数。一般社団法人養腸Brew理事、日本養腸セラピー協会会長。
URL/http://mano-libre.com/

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