おいしく“たべる”。
干す&冷凍でさらに栄養アップ!? きのこの魅力を大解剖!
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“からだ”をつかう。<連載>
撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太 イラスト/かざまりさ
あなたは1日にどのくらいの時間、座っていますか? 1日に座っている時間は、日本人が世界で一番長いと言われています。オフィスで長時間のパソコン作業、自宅でじっとテレビを見たり、スマホをいじったり…。知らず知らずのうちに陥っている「座りすぎ」状態による身体と心への健康被害は、実は想像以上に大きいようです。最近メディアでも注目されるようになった「座りすぎ」問題。その実態と対策について専門家に聞きました。
最近、「座りすぎ」による健康被害が、テレビなどでたびたび取り上げられるようになりました。腰痛や肩こりのみならず、命に関わる重大な病気、さらにはメンタルヘルスの悪化にまでつながる危険性があることが、さまざまな研究の結果、明らかになってきたのです。
この20年間で世界的にIT化が進み、日本においても身体をあまり動かさない仕事が増えました。現在、国内で働く人の60〜70%がデスクワーカーで、平均すると仕事中の70%もの時間を座って過ごしているのだとか。
日本における「座りすぎ」研究の第一人者である早稲田大学スポーツ科学学術院教授・岡浩一朗さんは、こう言います。「座ること自体が悪いわけではなく、座りすぎることが問題なのです」。「座りすぎ」はなぜ健康に悪いのか? そのリスクを回避するためにPTRは何を心がけるべきなのか? 岡教授に教えてもらいましょう。
「座りすぎ」の問題は、近年、世界的に蔓延している「身体活動不足」と密接に関わっているようです。「身体活動不足」とは、労働・家事・通勤といった日常生活に伴う軽い運動など、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作(いわゆる「身体活動」)が、充分に行われていない状態。なんとそれは、全世界で死亡原因の4位、日本では3位と報告されるほど深刻化しています。
「WHO(世界保健機関)では、成人の場合、健康のために1日30分の中高強度の身体活動を週5日、子供は1日60分行うことを推奨していますが、最近の調査によると、成人の23%、青少年の81%が、その基準を満たしていないことがわかりました。技術革新に伴う機械化・自動化の影響で、人々の身体活動は減少し、結果として座る時間が増えてしまった。便利な時代になったのは喜ばしいことですが、それと引き換えに健康リスクは年々高まっているのです」と、岡教授は警鐘を鳴らします。
日本人の身体活動の減少を顕著に表すのが、下のグラフ。「たとえば昔は、テレビのチャンネルを変えるときや部屋の電気を消すときには、その都度立ち上がっていましたが、今は親指一本で何でも済む時代。ロボット掃除機や全自動洗濯物たたみ機まで出回り始め、家事で動く機会も減りつつあります。また、エスカレーター、エレベーター、ムービングウォーク(動く歩道)の普及や、座り心地のいい椅子の開発、長時間勤務のデスクワーカーの増加なども、活動量減少の要因と言えるでしょう」
さらに気になるデータもあります。オーストラリアの研究機関が世界20カ国を対象に「平日の総座位時間(覚醒状態で座ったり寝そべっている時間)」を調べたところ、なんと日本は世界最長の「1日7時間」であることがわかりました。「私の最近の調査では、日本人の1日の平均的な総座位時間は8〜9時間。これはかなり危険な数字と言えます。なぜなら、さまざまな研究結果を調べてみると、『1日8時間以上座っている人は、罹患リスクや死亡リスクが高まる』ということを裏付けるデータが多く見つかるからです」
日本で暮らすPTRは、これを他人事と捉えず、当事者意識を持つべきでしょう。
「座りすぎ」が及ぼす深刻な健康被害。そのメカニズムを岡教授はこう解説します。「長時間座り続けていると、全身の筋肉の70%を占める下半身の活動が停止状態に陥ります。もっとも大きな太ももの筋肉や、『第二の心臓』と言われるふくらはぎの筋肉が働かないため、代謝が低下して肥満や糖尿病のリスクを招くほか、血流が悪化し、高血圧の原因にもなるのです」
肥満、糖尿病、高血圧が重なると、メタボリックシンドロームの危機が訪れます。メタボ状態になるとその先には当然、心臓病や脳卒中、がんのリスクも見えてくる…というわけです。なお、「座りすぎ」に深く関わるがんとして挙げられるのは、主に「大腸がん・乳がん」だそう。
また「座りすぎ」は、労働者の生産性やメンタルヘルスなどにも悪影響を及ぼすのだとか。「朝から座りっぱなしの体勢でずっと働き続けて、夕方にイキイキとした気分でいられますか? そんな生活を毎日続けていたら、疲労感が蓄積されて生産性が下がりますし、メンタルにも不調をきたします。最近の調査によると、高齢者がずっと座りっぱなしでいると、認知機能が落ちることもわかってきました」
「運動は身体にいい」ということは誰もが知っていますが、「座りすぎは身体に悪い」ということはまだまだ広くは知れ渡っていません。自分が気をつけるだけではなく、家族や周囲のPTRにも注意喚起をしてあげるとよいでしょう。
「座りすぎが身体に悪いなら、運動すればいいのでは?」と考え、スポーツジムなどに通い始める人も多くいます。もちろん、何もしないよりはいいに決まっていますが、その手の人が陥りがちな「身体活動不足」もあるので要注意。「ある程度運動をすると達成感があるため、それ以外の時間は何もせず座ってばかりになってしまう人が意外と多いのです。そういう人を『アクティブ・カウチポテト』と呼んでおり、比較的健康リスクが高くなることが知られています」
「アクティブ・カウチポテト」に似た言葉を、もう一つ紹介します。平日は座りっぱなしで働いている分、週末だけ罪ほろぼしとばかりにジム通いやゴルフなどに精を出す人のことを「ウィークエンド・ウォーリアー」(週末戦士)と呼ぶそうです。岡教授いわく、「こちらもアクティブ・カウチポテト同様、いっときの達成感で満足してしまいがちで、週単位で見た場合の活動量が足りていない人が多い」とのこと。
では、一体どの程度、身体を動かせば充分と言えるのでしょう? その目安について岡教授は、こう述べます。「WHOでは、一般的に『週あたり150分の中高強度の身体活動』を推奨しています。一方、日本では『週あたり420分(1日60分)』という数値目標を掲げています。そのため、余暇時間にウォーキングをしたり、スポーツクラブなどに行って運動するのはもちろんのこと、オフィスや自宅でも座りっぱなしを長時間続けるのではなく、こまめに立ち上がって動いたり、階段を使って移動するなど、身体活動の機会を増やすことが大切なのです」
「身体活動の機会を増やす」ために、PTRは日頃から具体的に何を心がければよいのか? まずは、オフィス勤務のPTR向けの対策を教えてもらいました。
「仕事中、座り続けていることが多いオフィスワーカーの理想は、一回に座ったまま過ごす時間が30分を超えないようにすること。つまり30分に1度の頻度で、2〜3分のブレイクタイムを設けるのがオススメです。その場で立ち上がって軽いストレッチをしたり、足踏みをしたり、あるいは廊下を散歩する程度でOK。何度も立ち上がることが許されない環境の場合は、座ったまま足を動かす運動(下参照)を同頻度で行うとよいでしょう」
そのほか、「電車通勤をやめて自転車通勤にする」「同僚間の簡単な連絡は、メールだけではなく口頭でも伝えることで歩く機会を増やす」などの対策も有効とのこと。「要は、一か所にじっと座り続けない(同じ体勢を長時間にわたって続けない)よう気をつければよいのです。日常のさまざまな場面で『ちょこまか動く』機会を増やしましょう」
続いては、店舗勤務のPTRへのアドバイス。岡教授は、「勤務中ほぼ動きっぱなしの人は比較的活動量が足りているので、休日や自宅にいるときぐらいは休んでもいい」としながらも、こう付け加えました。「でも、できることならオフの時間も適度な運動をしていただきたい。たとえば家でテレビを見ている最中、CMになる度に立ち上がって屈伸したり、少し動くことなどを習慣づければ、さらに健康が促進されるでしょう」
PTR個人ではなく、職場全体で取り組める対策もあると言います。「たとえば、私の研究室にも置いてありますが、スタンディングデスクを導入してみるのも手でしょう。予算的に難しいのであれば、プリンターの位置をデスクから遠ざけるなど、あえて不便なオフィスレイアウトにし、否応なしに歩かざるを得ない環境を作るのも一つの方法です」
最後に岡教授が、すべてのPTRに向けて、身体活動を継続する秘訣を教えてくれました。
「筋トレ、ジム通い、ジョギングなどの高強度な身体活動は、それだけ効果も大きいのですが、プライベートな時間に好きでもない運動を継続して行うのは難しいという人も多いかと思います。そこで私がオススメするのは、通勤中や仕事中の『動かざるを得ないポイント』を見つけて、その『質と量』を変えることです。駅まで歩かざるを得ないなら、モタモタ歩くのではなく、早歩きしてみる。電車に乗らざるを得ないなら、座らず、立ってみる。別の階に行かざるを得ないなら、エレベーターやエスカレーターに頼らず、階段を使ってみる。その程度のことであれば、どなたでも無理なく継続できるのではないでしょうか」
「座りすぎ」は流行り廃りの問題ではないため、その対策は各々が、日常的に続けることが大事です。ちなみに岡教授は、「エスカレーターに乗る際は必ずかかとを浮かせて、ふくらはぎを鍛えるようにしている」とのこと。そうした細かい身体活動のチャンスを、あなたも日常の中から見つけてみませんか?
岡浩一朗
早稲田大学スポーツ科学学術院教授。博士(人間科学)。1970年岡山生まれ。1999年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了。早稲田大学人間科学部助手、東京都老人総合研究所介護予防緊急対策室主任などを経て、2012年より現職。子どもから高齢者までを対象にした生活習慣改善支援、特に身体活動・運動の習慣化および座りすぎ是正対策に関する研究に従事。
URL/http://ptkeiichi.m48.coreserver.jp/www.koka.tokyo/
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