“からだ”をつかう。<連載>

今こそ実践!
噂のロングブレス、最新事情。

撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太

俳優の美木良介さんが考案し、大きな話題を呼んだ「ロングブレス」。ダイエット効果ばかりに注目しがちですが、実はほかにも、心と身体を健康に導くさまざまな効果があるそうです。マスク生活によって呼吸が浅くなったり、在宅時間が増えたことで心身ともに不調に陥りやすい今日この頃。「そんな今こそ、ロングブレスを実践するべき」と提唱する美木さんに、呼吸の大切さと、withコロナ時代にぴったりな最新の呼吸法を教えてもらいました。

ダイエットだけじゃない!
腰痛・肩こりにも効果あり?

コロナ禍は私たちの健康にさまざまな影響を及ぼしています。たとえば、外出自粛の影響で運動不足に陥り“コロナ太り”してしまった人も多いのでは? また、テレワークの増加により姿勢が崩れ、腰痛や肩こりに悩んでいる人も少なくないはず。在宅時間やマスクの着用機会が増えたことで、ストレスを抱えている人もいるかも……。

でも、心配する必要はありません。「実はそうしたお悩みの大半は、『呼吸』を意識するだけで解決するからです」と言って胸を張るのは、ロングブレスダイエットでおなじみの美木良介さん。たかが呼吸で? と思う人もいるかもしれませんが、実際に美木さんは最近、コロナ禍における健康対策プログラムを企業や個人に提供し、多くの成功実績を上げているらしいのです。

52歳のときに持病の腰痛をこじらせ、ほぼ動けない状態になってしまった美木さん。寝ながらでもできるリハビリとして、強く長く息を吐く呼吸法でインナーマッスルを鍛えつつ、徐々に運動も取り入れたところ、わずか40日間で腰痛とメタボが一気に解消したそう。その成功体験を体系化したものが、いわゆる「ロングブレス」です。

呼吸を意識すると、なぜ健康にいいのか? 美木さんに解説してもらいます。

「人間の身体には約60兆個の細胞があると言われていますが、細胞の中のミトコンドリアが元気な人ほど健康体とされています。ミトコンドリアを元気にするのに必要なのが、酸素。そして、細胞すべてに酸素を送り届けられるのは、ずばり『呼吸』だけなんです。つまり、普段から“強く長い呼吸”を意識すれば、酸素をしっかり供給でき、細胞を活性化させられるというわけです」

強く長い呼吸を何度も行うと、身体の内側からポカポカと火照ってくるような感覚になりますが、それも健康にいいことなのだとか。

「たったの1〜2分、呼吸を強く長くするだけで体温はグンと上がります。実は体温と免疫力って、比例するんですよ。お年を召した方の免疫力が低めなのは、年齢を経ると、体温が低くなるから。でも、高齢者を含むどんな方も、呼吸をしっかりすることで体温を高め、免疫力を上げることができるんです」

体温が上がるくらいにしっかり呼吸をすれば、血流もアップ。その結果、血管が詰まって起こる、脳や心臓の病気を防ぐ働きも高まるそうです。

「人間は一般的に加齢とともに呼吸する力が衰え、その結果、体温が低下して病気にかかりやすくなると言われています。だから普段から、意識的に呼吸を強くしたり長くしたりしてトレーニングをすることが大事。それが健康寿命を延ばすことにつながります」と美木さん。

強く長い呼吸をすることによって得られる健康効果を、効率よく引き出すために、美木さんが考案したのが「ロングブレス」。10年ほど前、テレビなどで実演する美木さんの姿を見た人も多いでしょう。当時は「3秒吸って、7秒吐く」というのが定番メソッドでしたが、7秒で吐き切るのは初心者には少し難しい場合も。そこで現在は、「3秒吸って、15秒吐く」を推奨しているのだとか。

まずは基本の呼吸法
「3秒吸って、15秒吐く」

それではさっそく、実際に最新版のロングブレスをやってみましょう。

まずは息を「吐く」ことに慣れるため、基本の呼吸法「鼻から3秒で吸って、口から15秒ゆっくり吐く」を6セット繰り返すことから始めます。これは、初心者でも気軽に取り組めるよう、美木さんが最近考えたメソッド。「7秒で一気に息を吐くことが難しい方でも、15秒かけてゆっくり吐き切ることならできるはずです。静かに行う呼吸法なので、外出時の時間が空いた時などに、マスクを着用したまま気軽にできますよ」

以下の3点を意識しながら、チャレンジしてみましょう!

  1. ① 丹田(おへそから指3本下(約5cm下)の箇所)を意識する。
  2. ② お尻を締める。
  3. ③ お腹をへこませたまま、強く長く息を吐く。
丹田を意識することにより、腹圧がかかりやすくなり、インナーマッスルが効果的に鍛えられます。「まず丹田に両手の指を添えて位置を確認。さらにお尻を締め、お腹を凹ませれば、より丹田を意識しやすくなります」
お尻を締めやすくするため両足のかかと同士をくっつけて直立。手の平を丹田の周辺に当て、お腹がへこんでいることを確認しながら、鼻から3秒息を吸い、口から15秒息をゆっくり吐く。この一連の動きを、6回繰り返します。「口から吸うと浅い呼吸になるので、必ず鼻から吸いましょう。無理なく続けることが大事なので、1日6回行うだけでもOKですが、時間や体力に余裕がある方は同じ動作を何度も繰り返してみましょう」
椅子に座って実践してもOK。「ほっぺたを膨らませながら息を吐くと、表情筋も鍛えられ一石二鳥です。ほうれい線の緩和も期待できますよ」。「3秒吸って、15秒吐く」呼吸法は静かに行えるので、マスクをしていれば電車の中などでも、他人に気付かれずこっそりできます。

基本の呼吸法に慣れたら
「3秒吸って、7秒吐く」に挑戦

基本の呼吸法「鼻から3秒吸って、口から15秒吐く」に慣れたら、今度はおなじみのロングブレス「鼻から3秒吸って、口から7秒強く吐く」に挑戦。吐く時間が短くなるため、より力強く吐く必要がありますが、その分、効果も上がります。両手を大きく動かしながら計6回。こちらも、1日6回だけでも効果的ですが、余力があれば何度も実践しましょう。

まずは両足のつま先を少し外側に向けてから、片足を半歩前へ踏み出し、お尻を締めます。そのまま両腕を前から上げながら、鼻から3秒息を吸います。「その際、全体重を後ろ足にかけると、丹田に意識を置きやすくなります。ただし、上体を大きく反らせてしまうと腰が痛くなることもあるので、右写真のように前側の足と背筋が一直線になるよう心がけてください」
次に、吸った息を止めたまま、頭上に伸ばしていた両腕を、手の平を外側に向けた状態で左右に広げ、肩甲骨を寄せながら上半身を開き一時停止(左写真)。その後、両手で大きなボールを横から潰すような姿勢(右写真)を保ったまま、口から一気に7秒息を吐きます。「息を吐く際は、指先やお尻を含め全身に力を入れます。口から『プーッ!』という音が鳴るくらい、勢いよく吐き出しましょう」。これを6回(左足前で3回、右足前で3回)繰り返したら終了。1日に何度行ってもOKです。

ロングブレスの健康効果は多岐に渡りますが、中でも一番有名なのは、ダイエット効果です。

「実際、体重はかなり落ちやすくなりますよ。上記のメソッドを習慣的に行った結果、1ヶ月で10kgくらい落ちる人も多いです。また大幅に食事の量を減らすようなダイエットだと、痩せた際に皮膚がたるんでしまうことがありますが、ロングブレスならその心配もなし。なぜならインナーマッスルを鍛えることにより、内から引き締めつつ絞り込んでいきますので、体重は落ちても筋肉量は増える。結果、美しいボディラインが実現するんです。ロングブレスは、呼吸をする際に顔の筋肉も使いますから、フェイスラインの引き締めも期待できますよ」

美木さん自身はロングブレスを始めた当初、わずか40日間で体重が13.5kg落ち、体脂肪率も25%から6%まで激減したとか。コロナ太りにお悩みのあなたは、ロングブレスを開始してみてはどうでしょう?

美木さんの近著を紹介。写真左は、テレワーク中の「ジャパネットたかた」の全社員のために開発し、大反響を呼んだエクササイズを集めた「ジャパネットの社員が毎朝実践する ロングブレス 1週間即やせプログラム」(DVD付き)。写真右は、高齢者向けのメソッド集「DVDでよくわかる!120歳まで生きるロングブレス」。ロングブレスを取り入れることで、脳梗塞の後遺症が改善されスムーズに歩けるまでに回復した、石原慎太郎氏が帯文を寄せている。

そのほかにも、今こそうれしいこんな健康効果もあります。

「テレワークの導入で増加しているお悩み、腰痛や肩こりの改善にも役立ちます。私自身、ロングブレスでインナーマッスルを鍛えることによって、重度の腰痛が完治しました。お腹の中には腹横筋という腹巻状のインナーマッスルがあり、そこを鍛えると“自前のコルセット”ができて、腰が保護されるんですよ。また、ロングブレスを行いながら一緒に肩甲骨を動かすエクササイズ(詳細は後述)をすれば、肩こりも解消されます」

さらに、深く長い呼吸を意識すると、ストレスの緩和や身体を休めるために働く副交感神経が優位になり、精神をリラックスさせる効果も期待できるそう。コロナ禍で心が不安定な人は、ロングブレスを実践して気持ちの落ち着きを取り戻しましょう。

テレワーカーにオススメの
最新エクササイズを紹介

美木さんのロングブレスは、時代のニーズに合わせて日々進化しています。在宅勤務や外出自粛などの影響で運動不足になりがちな今こそ実践したい、呼吸とストレッチを組み合わせた最新のエクササイズも紹介しましょう。

まずは左写真のように、両足のつま先をやや外側に向け、かかと同士をくっつけてお尻を締めます。そして、手の平を下にして両腕を重ねます。続いて右写真のように、つま先立ちをしながら胸を開き、息を吐きます。その後、かかとを着地させながら両腕を戻し、息を吸います。これを30セット。速度にはこだわりません。注意点は、つま先立ちをした瞬間も、かかと同士を離さないこと!

「これを行うと、普段なかなか鍛えることができない身体の背面にある筋肉を鍛えられるほか、“第二の心臓”と言われるふくらはぎが活発に動くことで、全身の血流がよくなります。また、肩甲骨を使うので、肩こりの解消にも最適なんです」

テレワークで座っている時間が長い人に、特にオススメのエクササイズだとか。

最後に座禅をプラスすると、一気にストレスが軽減され、心が前向きになるそう。「通常の座禅では鼻から吸った息を鼻から吐きますが、『鼻から5秒吸って、5秒息を止めてから、口から10秒吐く』を推奨します。そのほうが丹田を意識しやすいからです。丹田を意識すると、“癒やしのホルモン”と言われるセロトニンの分泌が促されます」。目を閉じ、お腹をひっこめたまま、余計なことは何も考えずに3分間続けましょう。

「ロングブレスは身体にいいので、毎日続けるべきだし、1日に何度やってもいい」と美木さんは言いますが、目的に応じたベストタイミングはあるようです。

「まず、睡眠が浅くて困っている方は、就寝前に行うのがベスト。就寝中に何度も目が覚めてしまう方は、寝ている間に体温が下がっていることが多いです。寝る前にロングブレスを実践して体温を上げておけば、深く眠れると思います。また、痩せたい方は、朝食前がゴールデンタイム。朝は血糖値が一番低く、脂肪をエネルギー源とするため、その時間にロングブレスをすると脂肪が燃焼されやすいからです」

唯一、ロングブレスに適さない時間帯も。「それは食事の直後です。お腹いっぱいだと丹田に力が入りづらいですし、消化に使われるべき血液が、筋肉を動かすために使われてしまい、結果として消化不良を招くこともあるからです。少なくとも、食後1時間は空けるようにしてください」

毎日の習慣にすれば
心身共にいいことづくし

ロングブレスを習慣化するコツはあるのでしょうか?

「成功体験を持つことが一番。人間の身体はほぼ脳に支配されていますから、脳が達成感を覚えないと、なかなか習慣化できません。『痩せたい』でも『美しくなりたい』でも『若返りたい』でもいいので、まずは自分の“なりたい像”を本気で思い描きながら取り組んでみる。結果、少しでも成果が見られれば、その成功体験を脳に印象づけられるので、自ずと習慣化できるはずです」

63歳とは思えない引き締まったボディと肌ツヤ。「食事制限は一切していない」と言うから、まさにロングブレスの賜物!

ロングブレスを習慣化すると、血流がよくなり、免疫力が向上し、病気になりづらい引き締まった身体になるばかりか、メンタルも前向きに。「中でも、免疫力を高めることは、最大のコロナ対策になりうる」と美木さんは力を込めます。

コロナ禍により心身に不安を抱える人が増えていますが、ため息をつくのではなく、今こそロングブレスで力強い息を吐き、ダメージを吹き飛ばしましょう!

INFORMATION

美木良介
1957年、兵庫県生まれ。高校時代は野球部に所属し、甲子園に2度出場。大学卒業後に歌手デビュー。84年にNHK連続テレビ小説「心はいつもラムネ色」で俳優業をスタート。30歳の頃に140kgのベンチプレスに失敗し、腰痛持ちに。52歳のとき、腰痛治療の過程で「ロングブレス」を独自開発。以来、ロングブレスダイエットの指導者としてメディアに引っ張りだこに。
URL/http://www.longbreath.jp/

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