“からだ”をつかう。<連載>

姿勢改善、肩こり解消、小顔まで?
骨盤を意識すれば、体が変わる。

撮影/菅原景子 取材・文/金城和子
  イラスト/蔵元あかり(Roaster) ヘアメイク/鈴木 翠

naoko

長時間の立ち仕事などで無意識に重心が偏ることで、姿勢の悪化やそれにともなう骨盤の歪みが生じることが問題視されています。そこで今回は、腰などに負担がかからない“きれいな姿勢”を保つために重要な「骨盤ケア」について、骨盤矯正パーソナルトレーナーのNaokoさんにお話を伺いました。骨盤と姿勢の関係性をはじめ、仕事の合間にできる手軽な歪み改善ストレッチも教えていただきます。

骨盤の歪みケアは、
きれいな姿勢を保つカギ

スマートフォンの長時間使用や仕事や、家事の立ち作業で、いつの間にか姿勢が悪くなり、肩がこったり、腰が痛くなったりすることはありませんか? 実は、それらのほとんどが骨盤の歪みが原因なんだとか。「骨盤を最適な角度に正せば、症状は改善されやすくなりますし、無理なく美しい姿勢がキープできるようにもなりますよ」とNaokoさん。「だからこそ自分の骨盤の状態を把握し、歪みをリセットすることが大切です」と続けます。

「骨盤は、背骨〜頭を支えている大きな骨格です。そもそも人間の骨盤は、四足歩行から二足歩行に進化する過程で上半身を支える必要性が出てきたため、現在の形に発達しました。つまり上半身のほとんどを支えている部位なので、そこに歪みが生じると腰痛をはじめとする上半身のトラブルが出てくるんです」

naoko
ヨガやピラティス、解剖学、整体、エステ手技など、さまざまな視点から体づくりを学び、独自の整体メソッドを開発したNaokoさん。ストレッチやトレーニングに関する著書も多数出版している。

なぜ骨盤が大事なの?
その構造と役割とは

上半身と下半身を結ぶ骨盤は、お尻の中央にある「仙骨(せんこつ)」、頚椎(けいつい)の最下部に当たる「尾骨(びこつ)」、そして2枚の「寛骨(かんこつ)」によって構成されています。まずはその役割とベストな角度について知りましょう。

寛骨、仙骨、尾骨、股関節
Q. 骨盤の役割ってなんですか?
A.「骨盤は背骨と股関節につながっているので、歩いたり座ったりするときに全身のバランスや姿勢を保つ役割があります。そのため私たちが生活するうえで、骨盤の状態はとても重要なんです。さらに骨盤の内部には膀胱や、女性なら子宮といった内臓が収まっているので、骨盤の歪みは内臓の健康状態にも深く関わってきます」
Q. 骨盤の適正な角度を教えてください
A.「生まれつきの骨格差があるため人によって若干違いますが、日本人の平均的な骨盤の角度は、横から見たときに後ろに向かって上に30度傾いているのがベスト。骨盤が前後に歪んで、適正角度からオーバーすると、反り腰になったり、猫背のクセがついてしまったりするんです。後ほど紹介するストレッチをするように心掛けていると、だんだん骨盤周りに筋肉がついてきて、次第にその人にとって適正な角度に正されていくはず」
骨盤の角度30°

“骨盤が歪む”ってどんな状態?
その原因と体への影響

そもそも“骨盤が歪んでいる”とは、どういう状態なのでしょうか? 歪みの原因や、体への影響についてNaokoさんに教えていただきました。

Q.「骨盤が歪む」ってどんな状態?
A.「骨盤とは、4つの骨がガチっと固まっている『骨格』のことを指すので、実は骨盤自体が歪んでいるわけではないんです。骨盤の周りにある関節(仙腸関節と股関節)の可動域が狭くなったり、関節の動きが一方向に偏って周辺の筋肉の動きにも偏りが生じると、骨盤が歪んで見えます。つまり、骨盤が歪んでいる=周辺の関節や筋肉が偏ってしまっている、ということなんです」
Q. 骨盤が歪むとどんな影響が……?
A.「骨盤は、いわば上半身を支える土台なので、ここが歪んでしまうと姿勢が悪くなり、腰痛や肩こりが起こります。くわえて骨盤のなかにある膀胱や子宮などの臓器にも不調が出ることが多いですね」
Q. 骨盤が歪む原因って……?
A.「すべての人に共通するのは、骨盤を安定させる筋力がついていないこと。つまり骨盤周辺、特にお尻とお腹の筋肉、関節をうまく動かすことができていないのが原因です。歪みを直すためにはまずそれらを解消すると同時に、生活習慣や座るときのクセを意識することも重要です」
Q. 骨盤の歪みを直すポイントは?
A.「骨盤を支えている股関節をほぐし、お尻とお腹に筋肉をつけること! 骨盤と足をつないでいる股関節は、体のなかで一番大きな関節。この関節は可動域が大きいため、周りにいろいろな筋肉が複雑についています。なので股関節がほぐれると、おのずと普段使っていないお尻やお腹の筋肉も動くようになり、土台となるお尻の筋肉がつくように。すると骨盤がその人にあった位置で自然に安定するので、上半身の疲れが減少していくのを実感できると思います」

歪みを正すと、
姿勢改善以外にも思わぬ効果が!

これまでに12,000人以上の女性たちにボディメイクやメンタルケアを行ってきたNaokoさんいわく、「骨盤をケアするメリットは、姿勢がよくなったり、上半身のトラブルが改善されたりするだけではないんです」とのこと。担当してきた生徒さんたちに聞くと、「骨盤の歪みを正したら、思いもよらない症状が改善された!」と驚く方も多いそう。なかでも多かった声、ベスト6はこちら!

数々のストレッチ本
これまでにも数々のストレッチ本を手がけており、著書累計は40万部を超える。姿勢に関わることはもちろん、くびれ、美脚効果など股関節やお尻周りのケアも長年注目しているそう。

骨盤ケアの6つのメリット

1 姿勢が良くなる
「自身の骨盤の適正角度を保つことができれば、その上につながる背骨の角度も自然とベストな位置に保たれるので、常にきれいな姿勢がキープできます。気が付いたら背中が丸まっていたり首が前に出ていたりする人は、骨盤の周りにある筋肉がゆるんでいる証拠。しっかりケアすれば、ストレスなく美しい姿勢で過ごせるようになりますよ」
2 お尻が上がる&お腹がへこむ
「骨盤を支えているのは、股関節と筋肉。筋肉に関してはお尻の筋肉が約60パーセント、それに連動して伸び縮みするお腹の筋肉が約40パーセントの割合なので、骨盤の歪みを改善するストレッチでは主にこの2つの部位を動かします。そうすると、おのずとお尻&お腹がひきしまって、ヒップアップやぽっこりお腹の解消につながってきます」
3 バストアップする人も
「②で解説したようにお尻とお腹の筋肉にアプローチするので、自然と背筋も引き上がり、女性の場合バストラインがきれいにアップします。バストアップは大胸筋を鍛えるというイメージがありますが、背中が丸まると大胸筋は縮まる性質があるので、実は背筋から鍛えていくことが大事なんです」
4 顎関節の歪みも解消!
「骨盤が歪んでいると(実際にはその周りの筋肉の動きや関節の可動域に偏りがあること)、ズレたぶんの帳尻を合わせようと骨盤よりも上の骨にズレが生じてきます。そのため顎の関節がガクガクしたり、噛み合わせが悪くなる方も多いんです。なので通院しなければいけないほど重症でない場合は、骨盤ケアによって上半身全体の歪みが改善される傾向にあります。あわせて血流もよくなり、顔の脂肪が燃焼されて小顔になったという声も聞きますね」
5 下半身太りや代謝の低下を解消
「姿勢が悪い人は、日常生活において太ももの前側の筋肉にしか負荷がかからない状態になっています。骨盤ケアのためにお尻の筋肉を鍛えると、お尻の付け根〜太ももの後ろ側の筋群(ハムストリングス)や、足の内側の筋肉が自然とうまく使えるようになるので、足が健康的にすらっと引き締まってくるのが実感できるはず。O脚も改善できたと、効果を感じられる生徒さんが多くいます。いろいろな筋肉が動くようになることで代謝もよくなり、結果的にむくみも取れてくるはずです」
6 生理痛の改善
「姿勢が悪いと、お腹の筋肉をハンモックのように支えているインナーマッスル(腸腰筋)がゆるんでしまい、お腹周辺の血の巡りが悪くなります。すると骨盤のなかにある子宮などの内臓が冷えるため、女性の場合、生理痛に。骨盤の角度を直すと、生理痛も軽くなったと言われる生徒さんが多いのはこのためです。骨盤の歪みを改善することで、こんな風にさまざまないいことがあるんですよ!」

1分で分かる!
骨盤の歪みチェック法

“骨盤の角度を正すストレッチ”を学ぶ前に、まずは自身の歪み具合を確認してみましょう! 「鏡の前でやってみると、より分かりやすいですよ」

座って行う方法

座った時の足の角度マルとバツ

左右の足裏をくっつけて、ひざの高さをチェック!

「座って背筋を伸ばし、足裏をくっつけます。その状態で左右のひざの高さがそろい、かつ、ひざの高さを床に対して45度以下まで下げることができれば、骨盤がいい状態である証。反対にひざを床に近づけられなかったり、床に対して45度以上の高さがあったりする人は、股関節が硬く、骨盤の歪みにつながりやすくなります。ひざの高さに左右差がある場合も、左右のバランスを調整していく方が、全体のバランスも良くなります」

立って行う方法

立った時の足と膝の角度マルとバツ

スクワットをして、ひざとつま先の向きが同じか確かめる

「足を肩幅の2倍を目安に開き、つま先を外に向けます。そのままお尻を下に引き、背中はまっすぐのままひざを曲げます。つま先とひざを同じ方向に向けたままこの動作を行えたら、骨盤の角度が安定しています。ひざを曲げたときにつま先と同じ方向にひざを向けられない方は、股関節の硬さ、偏りがあるので、このあと紹介するストレッチで改善していきましょう」

なお、「歩いていて膝が痛いなど、日常生活で痛みを感じる方は、このような膝を曲げるワークはやめて、医療機関で診てもらうことをおすすめします」

休憩中に手軽にできる
歪み改善ストレッチ4選

デスクワークでも立ち仕事でも「長時間同じ姿勢でいることが、骨盤が歪む一番の原因」だと話すNaokoさん。「可能であれば1時間ごとに体を動かすのが望ましいです。例えばトイレ休憩のついでに軽く体をほぐしたりストレッチをしたりするなど、動作が変わるタイミングでちょっとしたケアを取り入れることを心がけてください」

数あるなかから、仕事の合間に取り入れられる手軽なストレッチをピックアップしていただきました。「骨盤の周りをほぐし、鍛えることもできるストレッチです。こまめに5分程度やるだけでも骨盤のメンテナンスになりますし、足の疲れも取れて調子がよくなりますよ!」

「股関節から大きく回す」ストレッチ

イスを支えに右足を大きく股関節から回す1,2,3

「足を大きく回して、股関節をほぐしながら鍛えます」

「体が硬い人は低い位置でも構わないので、まずは足をひざから前に上げ、股関節を回して外側へ大きく開き、回します。慣れるまでは一往復するごとに足を床につけて、休憩してもOK。頑張れる人は連続で回してみると運動強度が上がります。足先は外向きにし、ひざから回さないように注意しましょう! 股関節がほぐれて気持ちいいだけではなく、お腹とお尻の筋肉も鍛えられますよ。椅子や机に手を置いて体を支えると、軸が安定して足が回しやすいと思います」

「側面伸ばし」ストレッチ

イスを支えに体の側面を伸ばす1,2

「深呼吸しながら、体の側面をぐーっと伸ばします」

「片手を椅子に添え、足を前後に開きます。前の足のひざは軽く曲げ、後ろの足は気持ちいい程度に伸ばしましょう。その体勢ができたら、手を上に引っ張り上げるようにして体の側面をぐーっと伸ばし、そのまま30秒〜1分間キープ。このとき、しっかりと息を吐きながら行うことで腹筋にもアプローチできます。手をまっすぐ伸ばすのがきつい人は、ひじを曲げても大丈夫。足も伸びるので、座り仕事の人は特に足がスッキリするはずです」

「股関節をほぐす」ストレッチ

イスに座り右足を左足に乗せ、膝に手をあて地面に向かって押す

「この動きだけで、股関節が簡単にほぐれます!」

「片方の足首を、もう片方の足のひざ上あたりに乗せれば準備OK。息を吐きながら上に乗せた足のひざを軽く押してあげると、股関節周辺の血流がよくなって足のむくみによく効きます。足を乗せるだけで精一杯なほど体が硬いのであれば、足を乗せて体をゆらゆら揺らすだけでも股関節がほぐれます。約1分を目安に取り入れてみてください」

「座りながらでも簡単にできる!」ストレッチ

イスに座りペットボトルを足の間に挟み、踵を上げる

「ペットボトルを使った “ながら”ストレッチです」

「ひざの間にペットボトルを挟んでスペースを作ることで、ひざが内向きにならず骨盤がまっすぐな状態になります。数分挟んだままにするだけで、股関節がほぐれます。トレーニングもしたい場合は左右の椅子の座面をつかみ、つま先を床につけたまま、かかとを上げ下げしてみてください。一見シンプルな動きですが、骨盤の歪みを整えるとともに、太ももの内側の筋肉が鍛えられ、むくみも取れるストレッチです」

日常生活のなかでできる
気軽な歪み対策

マメにストレッチをするのはちょっと面倒……という人に向けて、今からでも気軽にできる「3つの心掛け」を教えていただきました。日々の生活のなかでできる歪み対策を取り入れてみましょう。

心掛け1 …仙骨と背もたれの間に支えを置く
「椅子に座るときは、お尻の割れ目の上辺りにある「仙骨(せんこつ)」の後ろに支えを置くと、骨盤がいい角度に保たれてきれいな姿勢が自然に保てます。結果的に支えがなくても、その体勢がクセ付いたらいいですね。おすすめは、丸めたタオルなどある程度硬さがあるもの。ほどよくお腹に力が入った状態になるので、体がリラックスしすぎず仕事の集中力も上がります。大きめのクッションなどは、背骨全体をカバーしてしまうのでNGです」
心掛け2 …スマートフォンやパソコンは目線の高さに
「人間の頭は4〜6kgほどの重さがあり、さらに15度下を向くごとに、首には約6kgの負荷がかかると言われています。なので、スマートフォンを見るときは、なるべく目線をまっすぐな状態にしてください。パソコンを使うときには目線の高さで固定できるスタンドなどを取り入れるといいですよ」
心掛け3 …椅子やベッドのマットレスにこだわる
「自宅や職場で座るときは、背もたれがあって座面がほどよく固い椅子を選びましょう。ソファのように座面が柔らかい椅子は後ろ側が低くなっている造りが多いため、骨盤が後傾して前屈みになり腰に大きな負担がかかります。ベッドのマットレスも同じく、固めのものがベター。畳に布団を敷いたときくらいの固さがある、高反発のマットレスが理想ですね。柔らかいベッドよりも硬めのものの方が日本人の背骨には合っている場合が多いです」

歪みを正すと、さまざまないいことがある「骨盤」。ストレッチや歪み対策にトライしてみると、思いがけず生活の質が向上するかもしれません。

INFORMATION

Naoko
整体トレーニングサロン、(株)ナオコボディワークス代表。20代から肥満や肩こり、腰痛、外反母趾などの不調に悩まされ、ボディメンテナンス分野に興味を持つ。出産をきっかけにヨガやピラティス、解剖学、整体、エステ手技を学び、独自の整体メソッドを開発。最新刊『寝たままペタ腹! 股関節ほぐし』(主婦の友社)など著書は累計40万部を突破。
URL/https://www.naokobodyworks.com/

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