“からだ”をつかう。<連載>

美容にも健康にも!
春からはじめる万能デコルテケア

撮影/菅原景子 取材・文/高野瞳
  イラスト/蔵元あかり(Roaster) モデル/eri

デコルテに手を添える女性

冬場に蓄積された冷えによる血行不良やむくみなどが原因で、顔色がどんよりしがちなこの時季。長いマスク生活の影響もあって、顔のたるみが気になる方も増えているのでは…? そろそろはじまる新年度に向けて、健康的な顔色とすっきりしたフェイスラインで印象アップにつなげたいところ。
そんな願いを叶えてくれるのが、実はデコルテのケア。今回は、話題の書籍『呼吸と自律神経が整う 最強デコルテほぐし』の著者でもある石垣英俊さんに、デコルテケアの大切さや、簡単に実践できるセルフケアをレクチャーしていただきます。

美容と健康だけでなく、心もケア。
デコルテケアが大切なワケとは?

「デコルテは、解剖生理学や東洋医学の観点から見ても、重要な部位なんです」と話す石垣さん。美しく健やかな心身を保つために、デコルテケアが大切な理由とは? 「鎖骨の内側には、リンパの合流地点となる『静脈角(じょうみゃくかく)』があり、首の前や側面には神経やリンパが密集しています。また肩甲骨の間の背骨まわりには、呼吸器、循環器系、消化器系と関連するツボがあり、自律神経との関連が深いところでもあります。そのためデコルテには、体と心の健康状態があらわれやすい。デコルテはすぐ触れられるし、目で見ることができる。日々セルフケアすることで、不調にも気づきやすく、病気の予防にもつながるというわけです」

肩こりや姿勢の悪さ、顔のたるみや歪みなどの改善に加えて、ストレスケアや自律神経を整えることにも有効であるというデコルテケア。呼吸が浅いと感じたり、食欲不振に悩んでいたり、風邪を引きやすかったりと、健康面でお悩みを抱えている人は、男女問わずぜひ取り入れてほしいケアだと言います。

ソファに座り笑顔の石垣英俊さん
鍼灸マッサージ師/心身健康科学修士/カイロプラクティック理学士/応用理学士として活躍している「神楽坂ホリスティック・クーラ」代表の石垣英俊さん。東洋医学を中心に、心と体に関する学びを続けるなか、10年以上前からデコルテケアの重要性に注目してきたそう。
石垣さんの著書
石垣さんの著書には『ココロとカラダの地図帳 プロが教えるストレスケア73』『コリと痛みの地図帳 プロが教えるマッサージの処方箋72』『呼吸と自律神経が整う 最強デコルテほぐし』などが。これらを通して、心身の不調を解消するセルフケアの大切さや、簡単にできて効果抜群のメソッドを提案しています。

自分で触って変化に気づくことが、
ヘルスケアの第一歩

「第一印象は顔で判断されると言われるけれど、実は顔のパーツだけでなく、デコルテも第一印象を大きく左右します」と石垣さん。では、「美しいデコルテ」とはどんな状態のことを指すのでしょうか。
石垣さんいわく、それは「骨格的な歪みが著しくなく、窮屈すぎない」状態。ショルダーラインや鎖骨の左右差が少ない、首が縮み過ぎていない、肩部分に不自然な盛り上がりがない、といった、バランスよく窮屈感がないデコルテが望ましいそう。
美しいデコルテを目指すには、まずは自分で触ってみることから。「体の感覚はとても正直なので、昨日より少し柔らかくなったとか、いつもより緊張しているというように、体の小さな変化に気づけるようになることが、ヘルスケアの第一歩です」。もし歪みや緊張を感じたら、さっそくセルフケアを試してみましょう。

鎖骨まわりだけじゃない!
デコルテにある主な筋肉やツボを確認

一般的には鎖骨まわりを指すことが多いデコルテですが、石垣さんはもっと広範囲だと考えています。もともとデコルテの語源は、襟が大きく開いたドレスデザインである「ローブ・デコルテ」であることから、前側(表)だけでなく、背中側(裏)もデコルテの一部だそう。「さまざまな文献や資料を確認すると、この“裏デコルテ”の重要性がわかってきたんです」

体の前側と裏側
表デコルテにはA.僧帽筋(そうぼうきん)、B.胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)、C.広頚筋(こうけいきん)、裏デコルテにはD.天柱(てんちゅう)、E.膏盲(こうこう)、F.天宗(てんそう)などが。いずれも姿勢や肩こり、顔の血色などに関わる重要な筋肉やツボ。

むくみ解消や肌ツヤアップ…
デコルテケアで叶う、うれしい効果

リンパ液や血流の流れを改善したり、緊張した筋肉をゆるめたりすることで、美容面と健康面、どちらの改善も期待できるのがデコルテケア。ここからは、具体的な効果例を見ていきましょう!

"美容面"で期待できる、3つの効果

1 むくみ・たるみの解消
鎖骨にはリンパが集まる「静脈角」があり、そこに老廃物が溜まって詰まることでむくみやたるみの原因に。デコルテケアで顔や首まわりのリンパ液の流れがよくなると、むくみが改善されるので、連鎖的に起こっていた顔のたるみも緩和。フェイスラインや首まわりがシャープな印象に。
2 肌ツヤ・血色がよくなる
リンパ液とともに血行が改善されると、肌への栄養も行き渡るようになり、血色のよい透明感のあるツヤ肌に。
3 骨格の歪み・姿勢の改善
「胸鎖乳突筋」など姿勢保持に関わる筋肉をほぐし、首や肩、背中の緊張をゆるめることで、自然と頭や肩の位置が整う。顔の左右差、肩の左右差などが改善されて、バランスの取れた美しい姿勢に。

"健康面"で期待できる、3つの効果

1 呼吸が楽になる、不眠の改善
デコルテに集まった「呼吸筋群」の過緊張をゆるめることで、深い呼吸ができるように。気持ちも落ち着くようになり、慢性的なあがり症や不眠の改善にもつながる。
2 首肩こり・頭痛などが改善
「僧帽筋」や「肩甲骨」をゆるめると、滞っていた血流がスムーズになり、こりも解消。首や肩のこりはもちろん、それらが引き起こす頭痛や疲労感などから解放されることも。
3 胃腸やメンタルの慢性的な不調の改善
「膏盲」など内臓の働きをサポートするツボが多いデコルテ。ほぐしたり、ツボ押ししたりすることで、胃腸の調子が良好に。また、自律神経に関わる「天柱」というツボもあるので、メンタルの安定にもつながる。

隙間時間にできる!
お悩み別のお手軽デコルテケア

デコルテケアの効果や大切さがわかったら、さっそく実践! すぐに取り入れられる簡単なデコルテケアをご紹介します。
デコルテケアのうれしい点は、短時間のケアでも効果が得られやすいこと。毎日長時間しっかり行わなくても、不調を感じたときに、緊張して固くなっている部位や、左右差を感じる部位をほぐすだけでもスッと体が軽くなるのを感じる方が多いそう。まずは、仕事の休憩中やお風呂上がりのリラックスタイムなどに2〜3日続けてみて、体の変化を感じてみましょう。

女性にセルフマッサージの仕方をレクチャーする石垣さん
普段は鍼灸按摩マッサージ指圧師として活躍する石垣さん。今回はセルフでできる指圧やマッサージをレクチャー!

"美容面"のお悩みにおすすめのケア

顔のむくみ・血色不良にお悩みなら
斜角筋(しゃかくきん)ほぐし

耳たぶの裏から肩の付け根にかけて伸びている「斜角筋」は、頭を支える大事な筋肉。姿勢の悪さやスマホの見過ぎなどでここが固くなると、首は縮まって短く見え、フェイスラインがぼやける原因に。ケアで血流を良くしてむくみを解消しましょう。

首にある斜角筋をなぞるようにマッサージ
HOW TO CARE

人差し指から薬指までの指先〜第一関節あたりを「斜角筋」に垂直に当たるようにして圧をかける。痛気持ちいい程度の強さで3秒程度押したら離し、少し下にずらしてまた圧をかける動きを3箇所に行う。これを左右それぞれ3〜5回往復して。このケアにより呼吸もしやすくなるので、緊張しやすい場面やプレゼン前にもおすすめ。

顔のたるみや左右差にお悩みなら
胸鎖乳突筋つまみ

耳たぶの後ろから喉ぼとけの下までつながっている、太く浮き出た「胸鎖乳突筋」。ここが固まると、首のハリ・こりの原因になり、顔のたるみにもつながります。ケアすることで、顔のたるみのほか、歪みや左右差の解消にも効果的。

首にある胸鎖乳突筋をつまむようにしてなぞるマッサージ
HOW TO CARE

左を向いて右の「胸鎖乳突筋」を確認し、まずは耳下あたりを親指と人差し指で3秒程度掴んだら優しく離す。頸動脈が近いので、前側をグッと押しすぎないように。ひっぱったり、揉みほぐしたりせず、掴むだけにするのがポイント。上からずらしながら3箇所、左右それぞれ3〜5往復を目安に。フェイスラインがすっきりするので、人に会う前や休憩中など、気になったときにいつでもトライ!

二重顎やぼやけたフェイスラインに
お悩みなら
顎下すっきり舌骨筋(ぜっこつきん)
ストレッチ

二重顎や、フェイスラインのぼやけの原因になるのが、顎の下にある「舌骨(ぜっこつ)」を支えるように張り巡らされている筋肉「舌骨筋群」の過緊張。この筋肉を鍛えながら、首の前側から鎖骨にまで広がる「広頚筋」をストレッチすることですっきりしたフェイスラインに。

舌を上顎につけるイラスト
HOW TO CARE

舌先を口の中の上顎に当て、両手をクロスして鎖骨あたりを手のひらで下に少し引っ張るように押さえたら、目線を天井に向けて顎を突き出すように顔を上げる。斜め上に顎をあげてストレッチするとより効果がでる。

"健康面"のお悩みにおすすめのケア

緊張や睡眠の質にお悩みなら
後頭部のツボ押し

長時間のデスクワークなどによる緊張や眠りの浅さを解消したいときに。うなじの生え際にある2本の太い筋肉の両外側にある「天柱」のツボを左右ほぐすと、首〜頭部の不調解消にも。

首の後ろ側にある天柱というツボを寝ながら指で押す女性
HOW TO CARE

左右の人差し指〜小指までの指先を丸めて、指先を合わせてM字を作る。合わせた指先を後頭部にある天柱に垂直に当てたら仰向けになり、頭の重みを使って圧をかける。顎を上げすぎないように注意しながら、頭を横に傾けて圧をかけ、左右同じように行う。左右5秒ずつ3〜5往復。寝る前に行うと睡眠の質の向上も期待できる。

頭痛にお悩みなら肩ほぐし

首から肩や背中の上部にかけてつながっている「僧帽筋」は、緊張しがちな筋肉。猫背や巻き肩で前に引っ張られ、さらに緊張することで、肩こりや頭痛の原因に。頭痛を感じるときは首のマッサージは控え、「僧帽筋」をゆるめることで痛みの軽減を目指しましょう。

肩にある僧帽筋をつかみ横になる女性
HOW TO CARE

仰向けになり、肩の上にある「僧帽筋」を反対側の手で掴む。掴まれている方の腕は伸ばして手のひらを下にしておく。そのまま可能であれば30秒キープ。仰向けになることで「僧帽筋」がゆるんで掴みやすくなる。体を起こしたまま行う場合は、腕を台の上に置いたり、電車のつり革を掴んだりして、「僧帽筋」をゆるめてから行うと掴みやすい。

"こり"のお悩みにおすすめのケア

首・肩こりにお悩みなら
肩甲骨の真裏ほぐし

裏デコルテである肩甲骨まわりは、背面のケアの重要箇所。手が届きづらい場所なので、手ぬぐいとテニスボールを活用してほぐしてみましょう。

手ぬぐいとテニスボールで、かんたん! 肩こり解消グッズ

身近なものでできる、裏デコルテのケアグッズをご紹介。自宅だけではなく、職場にもひとつ置いておけば、休憩中にケアができておすすめ。

広げた手ぬぐいにテニスボールを包む手順
1.手ぬぐいを広げ、真ん中にテニスボールを置く。2.手ぬぐいの上下の端を折り畳んで、テニスボールを包む。3.両サイドの端を中央で結んでテニスボールを包み込む。4.しっかりと結んで、形を整えたら完成。これを使って以下のケアを実践してみましょう。
背中にある天宗というツボ(肩甲骨の外側)に手ぬぐいで包んだテニスボールをあて、壁に寄りかかる女性
HOW TO CARE

肩甲骨の真裏にある「天宗」というツボに、手ぬぐいに包んだテニスボールを当てて壁に寄りかかり、上下左右に体を小さく動かしながらほぐす。これを左右それぞれ3〜5往復ずつ行う。痛い場合は、上下に動かずに圧をかけるだけでもOK。少しずらしてまわりもほぐすとより効果的。足は壁から10〜50cm程度離して壁にもたれかかるようにし、軽く膝を曲げると行いやすい。

背中のこり、胃腸の不調にお悩みなら
肩甲骨のキワほぐし

肩甲骨のすぐ内側にある「膏盲」は、背中のハリやこりにダイレクトにアプローチしてくれる即効性のあるツボ。胃腸の不調にも効果が期待できる。「膏盲」の場所を確認するときは、両手を体の前で交差させ、手のひらを肩の横に当てると肩甲骨が開き、キワ部分が分かりやすいのでおすすめ。

背中にある膏盲というツボ(肩甲骨の内側)に手ぬぐいで包んだテニスボールをあて、壁に寄りかかる女性
HOW TO CARE

肩甲骨の内側のキワ「膏盲」に、手ぬぐいで包んだテニスボールを当て、先ほどの「肩甲骨の真裏ほぐし」と同様、壁に寄りかかり、上下左右に背中を動かしながらほぐし、左右それぞれ3〜5往復ずつ行う。痛い場合は圧をかけるだけでもOK。足は壁から10〜50cm程度離して壁にもたれかかるようにし、軽く膝を曲げると行いやすい。

頑張りすぎず、
自分のペースを大切に

「セルフケアが大切と言っても、自分のライフスタイルやペースに合っていないと、なかなか続けるのは難しいもの。いきなり頑張りすぎずに、心地よいペースを見つけることも大切です」と石垣さん。ストレッチやツボ押しも、気持ちいいと思えるちょうどいい強さや回数で行うこと。最初から強くせず徐々に刺激を強めていきながら、自分にとってのよい加減を把握していきましょう。

最後に、「できれば薬に頼らずに、自分で自分の体の医者になるのが理想的」と石垣先生は話します。日頃から自分の体をよく観察して、ちょっとした心身の不調や変化に気づくこと、そして、自分の健康状態のバロメーターを見つけておくことが大切だそう。まずは、デコルテに触れてみることから。なかなか変化がわからないという方も、毎日触れることで、昨日より柔らかくなったな、昨日よりすっきりしてきたなというように、小さな違いに気づけるはず。ケアする前後の感覚を細かく比較しながら、自分のデコルテを観察し、知っていきましょう。

INFORMATION

石垣英俊
心身健康科学修士、鍼師、灸師、按摩マッサージ指圧師、オーストラリア政府公認カイロプラクティック理学士、応用理学士。「神楽坂ホリスティック・クーラ®」代表。2004年に開業し、体の痛みや不調に悩んでいる人々へ、よりよい施術、環境、アドバイスを提供すべく研鑽を積んでいる。著書に、『呼吸と自律神経が整う 最強デコルテほぐし』(大和書房)など。
神楽坂ホリスティック・クーラ公式WEBサイト
URL/https://www.holistic-cura.net/

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