“からだ”をつかう。<連載>

声の力で接客力向上!  プロが教える発声&話し方トレーニング

撮影/菅原景子 取材・文/和栗恵 イラスト/蔵元あかり

顔の脇に手を添え、声をだす素振りをする阿部恵さん

接客業において大切なのは「第一印象」。清潔感があり、親しみの持てる“見た目”はお客様にとって安心感をもたらします。しかし、見た目とともに重要なのが「声」であることは意外と知られていません。心理学の世界では「印象の4割は声によるもの」ともいわれているのだとか。聞き取りやすい発声や話し方に改善することで、相手に与えるイメージはよりよいものになり、接客レベルがアップするはず!

では、どのようなことを意識すれば、よりよい発声ができるのでしょうか。元アナウンサーで、現在はスピーチコンサルタントとして活躍する阿部恵さんに、発声のポイントや、自宅や隙間時間でできるトレーニング方法を教えていただきました。

第一印象をよくする
声の使い方とは?

相手に言葉を伝える際に大切にしたいこと、それは、“聞き取りやすさ”であると阿部さんは考えています。

「聞き取りやすさを高めるために必要な要素は、『ボリューム』『テンポ』『明るいトーン』『間(ま)』の4つです。

相手に聞こえない声で話しかけても伝わりませんし、大きすぎると相手を威圧してしまうだけ。早口でまくしたててしまうのはよくないですし、ゆっくり過ぎると相手をイライラさせてしまう可能性があります。また暗いトーンで『こんにちは…』なんて言ってしまったら、お客様は『大丈夫かな…』と心配になってしまうはず。

ほどよい音量、ほどよいテンポ、明るい声で話しかけることで、相手は心を開いてくれますが、さらに言葉と言葉の間に適度な『間』をとることで、相手が話の内容を理解する時間を作ってあげることができ、お互いに心地よい会話をすることができるようになるんです」

また、相手に合わせて話し方を変えることも、接客業においては大切なことだと阿部さんは続けます。
「小さなお子様やご高齢の方は、ゆっくり話してもらった方が聞き取りやすいと感じることも多いです。相手によって、理解が追いつくくらいのペースで話すよう、心掛けてみてください」

阿部恵さん
中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社し、MCやキャスターとして活躍してきた阿部恵さん。国会議員の政策担当秘書に転身した後、スピーチコンサルタントとして独立。聴衆を惹きつけるスピーチ力の強化など、議員・政治家に特化したコンサルティングも行っています。
阿部さんが、ご自身のメソッドをまとめた一冊『1日1トレで「声」も「話し方」も感動的に良くなる』(日本実業出版社)
『1日1トレで「声」も「話し方」も感動的に良くなる』(日本実業出版社)は、これまでに6,000人以上の方に指導を行ってきた阿部さんが、ご自身のメソッドをまとめた一冊。コミュニケーション力アップにお役立ち。

声はずっと同じではなく、加齢により発声や話し方に違いが出てくることも。
喉や口の筋力が低下し滑舌が悪くなったり、更年期により声がかすれたりすることもあるのだそう。

「話しづらくなったな、相手から聞き返されることが増えたな、と思ったら、それは加齢のせいかもしれません。声を出すために必要な筋肉を鍛えることで、こうした現象は防ぐことができます。本を音読するなどし、口の周りの筋肉の衰えを防ぐといいでしょう」

シチュエーション別
発声・話し方のコツ

さまざまなシチュエーションでの発声・話し方のイラスト

ここからは実践的なテクニックをお届け。お客様はもちろん、他者とコミュニケーションをとる際は、必ずしも対面であるとは限りません。そこで阿部さんに、さまざまなシチュエーションでの発声・話し方について、コツや注意するべき点を教えていただきます。

マスクをつけているとき

「マスクをつけていると、声の通り道を塞ぐため、自分が思っている以上に声が小さく届きます。普段の会話よりもボリュームを上げるよう意識して話すといいでしょう。口をタテに大きく開けるようにすると、自然と声が大きくなり、マスクをつけていても聞き取りやすい発声になります。

なお、『笑顔』を保つことも大切です。これは某航空会社で働く方にお聞きした話なのですが、客室乗務員がマスクをしていたところ『目が笑っていなくて怖い』とお客様から言われたそう。笑顔とは、口、目、そして心で作るもの。マスクで口元が隠れているからと手を抜くことなく、マスク越しでも伝わる笑顔を心がけてみてください」

オンラインミーティング

「オンラインミーティングでは、パソコンのカメラではなく画面を見るため、顔が下に向きがち。顔が下を向いていると、必然的に声が低く小さくなり、滑舌も悪くなってしまいます。マイクが声を拾ってくれるだろうと油断せず、相手に正しく声を届けることを意識しましょう。

ポイントは『弧』を描くように声を届けるということ。いつもより遠くに声を届けるイメージで、少し上に向かって話しかけるようにするといいでしょう。
また、カメラのすぐそばに自分が好きな“推し”の写真を貼るのもおすすめです(笑)。そこに向かって話すようにすると、心がウキウキするので自然と声が高く明るくなり、聞き取りやすい声で話すことができるんです」

ドライブスルー・電話

「ドライブスルーや電話での会話は、相手の顔が見えず感情や空気感を読みとりにくいもの。こうした場合はテンポを抑え、フレーズとフレーズの間に『間』を置き、ゆっくり、はっきりと言葉を伝えるようにするといいでしょう。
また、対面で話すとき以上の笑顔で応対するのがポイント。顔が見えなくても、笑顔は不思議と伝わるものですからね。

ドライブスルー店舗でインカムを使用する際は、マイク位置のチェックも忘れずに。声は発する場所からまっすぐ前に向かって、伝わる性質があります。声の通り道の延長線上にマイクが来るよう、位置を調整してみてください」

なお、接客中の会話においては、相手を“置いてけぼりにしない”ことが大切であると阿部さんは考えているそうです。

「人は誰しも『自分が知っていること』に対して“相手も知っているに違いない”という気持ちになりがちです。たとえば新商品の名前が長く難しい場合など、自分はすでに知っているので“当たり前のこと”として捉え、ついつい早口で伝えてしまいがちな方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、相手にとって初耳である場合、早口で伝えてしまうとまったく通じないばかりでなく、相手に苦手意識を植え付けてしまうことも。
自分には聞き慣れた言葉だとしても、ゆっくりはっきりと伝えるよう心掛けてみてください」

簡単な発声トレーニングで
接客力を向上させよう

続いて、日常の中で取り入れることができる、阿部さん流の発声・話し方のトレーニング方法をお届けします。コミュニケーション上手になって、お客様との楽しいひとときを築くために、自宅でできる発声トレーニングを行ってみましょう。

声が通るようになる! バスケットボイストレーニング

バスケットボイストレーニングをする人のイラスト

「外で大きな声を出すことに気恥ずかしさを感じる方は、まずは家で、“物”を相手に声の出し方を練習してみましょう。
やり方は簡単。自分から1m、2m、3m離れたところにそれぞれ目印として、ゴミ箱やザルなどバスケットゴールに見立てた入れ物を置きます。そうした入れ物が無ければティッシュの箱でもコップでも目印になればなんでもOKですが、少し大きめの物のほうが見やすくてわかりやすいかもしれません。

入れ物を置いたら、まずは自分の立ち位置から1m先の入れ物をバスケットゴールだと思って、声を投げ入れるイメージで『お~い』と発声します。
続いて2m、3mも同様に『お~い』と声を投げ入れてみましょう。距離に応じてどれくらい声を大きくすればいいかがわかってくればOK。何度か繰り返して慣れてくれば、自然とシチュエーションに応じたボリュームで声が出せるようになるでしょう」

緊張を緩める!あくびを3回してみよう

あくびをする人のイラスト

「こちらは緊張しやすい方、あがり症の方へのメソッドです。
聞き取りやすい声を出すためには、体の緊張をほぐし、緩めることが大切。緊張しているということは『交感神経』が優位になっているということで、緩めるためには『副交感神経』を優位にする必要があります。
副交感神経を優位にするには、ストレッチが有効ですので、人から見えにくいところであくびを3回くらい連続して行いましょう。口は『あ』の形にし、声を軽く出しながら長めのあくびをすると効果的です。
こうして喉をしっかりストレッチすれば、喉が緩んで声帯が開放され、よい声を出せるようになります。

なお、声帯は乾くと声が出しにくくなります。仕事中だと難しいこともあるかもしれませんが、喉を乾かさないように飲み物を飲み、接客することをおすすめします」

難しく考えず、丁寧に
それが美声への第一歩

難しく考えず、丁寧にすることが美声への第一歩と話す阿部恵さん

「発声や話し方のメソッドは多くありますが、そこまで難しく考える必要はありません。ノンバーバル(言葉を使わない)なコミュニケーションもありますので、丁寧にアイコンタクトをとったり、心からの笑顔を心がけたりするだけでも印象は違ってくるでしょう。
お客様と話す際は、相手が“主役”だと思うこと。そうマインドセットするのも有効な手段。主役に快適に過ごしてもらうためにはどうすればいいかを考えれば、接客技術も自然と上達しますし、接客時の発声や話し方も丁寧かつ美しいものになっていくと思いますよ」

INFORMATION

阿部恵
中部日本放送(CBC)のアナウンサーとして活躍後、アメリカのワシントン大学に1年間留学。帰国後にTBS情報番組のレポーターを経て、国会議員の政策担当秘書に転身。その後、スピーチ講師として元総理大臣夫人や政治家、一部上場企業の社長や役員など、エグゼクティブへの指導を数多く担当。2018年からは議員・政治家に特化したスピーチコンサルタントとして、聴衆を惹きつけるスピーチ力強化に力を入れ、2020年に『合同会社Confill』を設立。企業研修も含め、6,000人以上にスピーチ指導を行う。2022年より、iU情報経営イノベーション専門職大学で客員教授を務める。
URL/https://confill.jp/profile

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