“からだ”をつかう。<連載>

五感で森に触れる、森林セラピー体験。

撮影/栗原大輔[Roaster] 取材・文/山下俊太[Roaster]

みなさん、突然ですが「森林セラピー」って聞いたことありますか? 生活習慣やメンタルヘルスへの関心が高まっている中、森林セラピーは単に『癒されたい』という漠然とした要望だけでなく、『健康になりたい』『ストレス解消の方法を知りたい』という、より積極的なニーズにも応えられるセラピー・メソッドとして注目を集めているんです。

では、実際に体験しちゃおう! ということで、“東京の秘境”と呼ばれている奥多摩の森林セラピー基地を訪ねました。案内をしてくださるのは齋藤美保子さん。登山好きが高じて森林セラピーガイドの資格を取得したのだとか。

「森林セラピーを一言で言えば、医学的な証拠に裏付けされた森林浴効果のことです。ここ森林セラピー基地は、科学的な実験によって癒し効果や病気の予防効果が認められた、専門家お墨付きの森。 “科学的”といっても、そんなに身構えることはありません。森の中を歩いたり、深呼吸をしたり、ティータイムを楽しんだり。気楽に森に触れているうちにしっかりリラックス効果が得られるんですよ」

今回のコースでは、香りの道「登計トレイル」という、日本初の森林セラピー専用ロードを歩きます。

香りの道「登計トレイル」プログラム

  • 1. 健康チェック
  • 2. ガイドウォーク
  • 3. 座観
  • 4. ストレッチ&深呼吸
  • 5. ティータイム
  • 6. 最後にもう一度、健康チェック

1. 健康チェック

コースに入る前に、自分の体の状態を知るところから始まります。血圧測定と唾液アミラーゼモニターで、ストレス度をチェック。プログラム終了後にも行い、比較することで数値上での効果を確認できます。

※専用シートで少量の唾液を採取し、消化酵素α-アミラーゼの数値を測るもの。一般的に、数値が高いとストレス度も高い。

果たして、ストレスは解消されるのか!? 楽しみです。

2. ガイドウォーク

次はいよいよ森の中へ。齋藤さんを先頭に、セラピーロードを進んでいきます。香りの道「登計トレイル」は約1.3kmほどのコースの途中に、広場や水療法を行うスポットなどがあります。

「森の中を歩くと聞くと、迷いやすい・薄暗い・疲れるといった心配をなさる人もいるかもしれません。でも、このコースは『森のリビングルーム』と呼ばれるほど、安全に気軽に、誰でも歩けるように設計されています。道の途中にはひらけた場所も多く、ベンチもあちこちに設置してあります。車椅子の方でも体験できるよう、バリアフリーのロードや、モノレールも設置されているんですよ」

コースの地面にはウッドチップが敷き詰められていて、低反発マットのような踏み心地。道は平坦に整えられているので安全。これなら足腰への負担も少なく、歩き進むことができそうです。

コース前半には広葉樹、後半には針葉樹が群生していて、面白い植物を見つけるたびに、齋藤さんが立ち止まって説明をしてくれます。写真はクサギという木の葉っぱ。漢字で書くと「臭木」で、独特の臭いを発する木とされているけれど、ピーナッツバターのような香ばしい香りは、齋藤さんのお気に入り。

「ただ歩くだけでは面白くないので、森を楽しんでもらえるよう、途中で見かける植物や生き物の紹介をするのも、セラピーガイドとしての私の仕事。香りのする木に、実際に触って嗅いでもらったりと、五感を使って自然に触れていただけるよう工夫しています。当然、季節によって生える草や咲く花は違ってきますので、ぜひ森林の表情の変化も楽しんでほしいです」

こちらはシロダモという植物。枝先の若い葉だけ、大人の葉と比べて緑色が薄く、表面のツヤも強くないのが分かります。触ると柔らかく、葉っぱとは思えないような不思議な感触です。齋藤さんいわく「ビロードのようなやさしい手触り」。ふだんの生活では、自然の植物に触れる機会はそんなにないもの。新鮮な感覚です。

3. 座観

少し進むと、ひらけた場所に座観を行えるベンチがあります。「座観」とは文字通り、座ってながめること。

「このベンチと背もたれになっている壁の傾斜は、座るとリラックスできる姿勢になるよう設計されているんです。空気の澄んだ夜には星空浴を楽しむこともできますよ」

爽やかな日の光を全身に浴び、目の前に広がる緑々しい森林をながめていると、ついウトウトしてしまいそう。

4. 深呼吸

次に向かったのは谷へせり出た形状の、ウッドテラス。今度はここで奥多摩式森林呼吸法と呼ばれる深呼吸を試します。健康増進を目的とした特別な呼吸法で、森林や滝などが近くにある場所で行います。

足幅を肩よりやや広く構えて、リラックス。そして丹田(たんでん)と呼ばれる、へその下約3cmほどのところに手を当てます。目は軽く閉じ、あごを少し引いて体の力を抜きます。

丹田が膨らむのをイメージしながら7秒かけて鼻から息を吸い、5秒間息を止める。そして、10秒かけて口からゆっくり吐き出していきます。

「呼吸って、普段はあまり意識しませんよね。息を吸う時は森のエネルギーも一緒に吸うイメージを、吐く時は体の老廃物も出て行くのを意識するのが重要です。『森のエネルギー』と言いましたが、有効な物質が樹木から出ているのは事実。針葉樹林から多く発散される、フィトンチッドという揮発性の有機化合物があるのですが、これが免疫力を上げ、気持ちを落ち着かせてくれる効果を持っています」

本誌では、これまでも「瞑想」「呼吸法」を取り上げてきましたが、改めて呼吸の大切さを実感です。

この場所は下に水流もあり、マイナスイオンもいっぱい。耳の後ろを手のひらで覆うと、川のせせらぎだけ大きなボリュームで聞こえてくるから不思議!

「ここは聴覚でも森を感じることのできるスポット。水の流れる音、風が木の葉を揺らす音、鳥のさえずりなど、心を落ち着かせてくれる自然の音であふれています。耳の後ろを手のひらで覆う聞き方は、日常でも試してみると新しい発見があるかもしれませんよ」

深呼吸を行ったウッドテラスの近くには、セラピーステーションと呼ばれる休憩施設が建っています。IHを備え付けられたキッチンがあり、地元で採れたキノコや芋を使った料理教室を行うこともあるとか。

腕の部分浴が体験できるコーナーもあり、冷水によって安らぎを得ることができます。気温が下がってきたとはいえ、ウォーキング中の体に、水の冷たさが気持ちいい! 取材班一同、腕をまくってクールダウン。

5. ティータイム

プログラムの最後はこの場所でティータイム。

「お茶は、メディカルハーブとアロマセラピーの専門店でオーダーメイドされた、奥多摩森林セラピーオリジナルブレンドハーブティー。ブレンド茶葉は季節によって変わります。お茶菓子は奥多摩の福祉施設で手作りされたクッキー。地元の温かみに触れながら、ゆっくりくつろいでくださいね」

この広場では森林ヨガを行うこともあるとか。ティータイムを終えたら、送迎車で出発地点まで戻って、再び健康チェック。ちなみに取材班は、存分に森のエネルギーを浴びたおかげで、血圧も唾液中のアミラーゼもすっかり正常値に。夜もぐっすり、良質な睡眠をとることができました。日常を離れて、ひととき自然の中に身を置くことで、心身ともにすっきり。ストレスが緩和されたようです。

「森林セラピーは科学的な裏付けのある療法ですが、参加される人には難しいことを考えずに気軽に楽しんでほしいです。目で木々をながめて、音を聞いて、葉っぱを手にとって香りを嗅いで、疲れたらおいしいお茶とクッキーで一休み。五感全部で森を感じれば、自然と癒されるはずです。都会のせわしない生活のなかで、ちょっと安らぎが足りないかなと感じたら、ぜひお試しください!」

奥多摩の基地では、日帰りでも森林セラピーを体験できますが、山荘に宿泊できるプランや、森林ヨガとそば打ち体験とがセットになったツアーなど様々なコースが実施されています。森林セラピーの認定を受けた施設は、北海道から沖縄まで国内に60ヶ所以上あるので、身近なスポットをぜひチェックしてみて!

INFORMATION

東京都奥多摩町 森林セラピー基地
連絡先:一般財団法人おくたま地域振興財団
住所/東京都西多摩郡奥多摩町氷川215-6 奥多摩町役場 地下2階フロア
URL/http://okutama-therapy.com

CONTENTS