おいしく“たべる”。<連載>

そうだ、今こそ日本茶を飲もう。

撮影/藤井由依[Roaster] 取材・文/森本亮子

ここ数年、若い世代を中心にお茶がブームを呼んでいます。中目黒にオープンした「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」2階のカフェでは、ティバーナ™やアレンジティーが楽しめ、季節のドリンクも大人気。実はお茶って、心にも身体にも良いことがたくさんあります。
そこで今回は“日本茶アーティスト”茂木雅世さんに日本茶について教えていただきます。

もっと気軽に、自由に。
日本茶をポップに楽しもう!

茂木雅世さんは「ポップなお茶道」を信条に、幅広い世代に日本茶の魅力を発信し続けています。

日本茶ブームの理由は何だと思いますか?

私が“日本茶アーティスト”として活動を始めたのが10年前。はじめ3年ぐらいは茶器を入れたリュックを背負って全国をまわり、いろんな方にお茶をふるまう小さなお茶会を集中的にやっていたんですが、「淹れるのが難しくて堅苦しそう」「年配の方が飲むもの」といったイメージを皆さんがまだ持っていた気がします。

でも最近はおしゃれな日本茶カフェや日本茶スタンドが増えて、「ファッション×お茶」「ストリートカルチャー×お茶」みたいに掛け合わせて“自由にお茶を飲む場所”を提案する人が増えました。「コーヒーをオシャレに淹れる自分になりたい」という感覚がそのまま日本茶にも反映されて、「お茶ってクールだな」って思ってくれる人がグッと増えた印象です。

日本茶がファッションアイコンになりつつあるんですね。

もともと日本人のライフスタイルに寄り添う普遍的な飲みものなので、ブームをきっかけにこれまで日本茶を飲んでこなかった若い人も「お茶っておいしいね」って改めて思ってくれているんでしょうね。

ズバリ、日本茶の魅力とは何でしょう?

「お茶にしましょう」という言葉を発するだけで、その場が和やかになりますよね。癒やし効果やリラックス効果がありますし、カテキンによる抗酸化作用やアンチエイジング効果、さらに口内をさっぱりさせるので虫歯予防にも効果的と言われています。

良いことづくしなんですね。

そうなんです! でも一番良いのは、人との会話をつくってくれること。お茶は人を繋ぐ飲みもの、縁をつくる飲みものと昔から言われますが、茶葉を蒸らすため1〜2分待ちながら人と話せるのが良いなあと思います。それに「皆で一緒にお茶を飲んだ時間」っていうのは、「同じ釜の飯を食べる」にも似た、良い記憶になってくれます。

お茶についてキラキラとした表情で話す茂木さん。日本茶への深い愛がひしひしと伝わってきます。

茂木さんはどのように日本茶にハマったのですか?

母がお茶好きで、毎日お茶を飲む家庭だったんです。食事もおやつも、お供はお茶。幼稚園児の頃からお茶を淹れるのが私の担当で、「お湯を入れて、もう少し待たなきゃいけなかった」「茶葉の量が少なかった」とか母から色々特訓されました(笑)。反対に、上手に入った時はとても喜んでくれて、「お茶を1杯おいしく淹れるだけで人はこんなに喜んでくれるんだ!」という感覚がずっと心にありました。いつもお茶がそばにある生活でしたね。

幼少期から慣れ親しんだ日本茶を仕事にしたきっかけは?

前職でパソコンと向き合う忙しい日々のなか、ストレスで心も身体もズタズタになっていた時、ふと自分で淹れたお茶を飲んだらものすごくおいしくて泣けたんです。「お茶って、過去の記憶とリンクしたり、感情を揺さぶってくれたり、まるで音楽や小説みたいな感覚で楽しめる飲みものなんだな」と気づいて。その時に感じたトキメキや楽しさを伝えたいなと思って始めたのが、“日本茶アーティスト”という活動でした。

好みの茶葉とは、
どうすれば出合える?

自分好みの茶葉に出合うにはどうすれば良いですか?

緑茶、ほうじ茶、玄米茶、国産紅茶など、お茶にはいろいろな種類があり、緑茶ひとつを取っても品種はさまざま。ふだん自宅でお茶を淹れる習慣がない人は、まずは外できっかけをつかんでから自宅でトライする、という流れが良いかもしれません。今は日本茶カフェや日本茶スタンドが増えていますから、ふらっと寄って好きな味を見つけてみてはいかがでしょう。「あのお茶はおいしかったな」という記憶が増えれば自分の好みの傾向が分かりますし、「昨日はこのお茶がおいしかったけど、今日はこっちの気分だな」と気分とリンクすることもけっこうあるんですよ。

お茶と気分がリンクするとは?

たとえば、雨の日などの頭が重い日には、すごくスモーキーな京都の「炒り番茶」を私は飲みたくなります。香りはちょっと焚き火のようですが、味はスッキリ爽やか。脳が目覚める感じがして好きです。テンションを上げたい朝や気合いを入れたい時には、静岡・牧之原台地の「深蒸し茶」をガツンと濃いめに。

気分転換にはフレーバーティーのような少し変わった品種がオススメ。華やかなお茶は頭を活性化してくれ、自由なアイデアを出せる気がします。たとえば「静7132」という品種は、飲むと桜餅のような香りがふわ~っとするから不思議。あとは、水出しにしてワイングラスで飲むとマスカットのような味がする静岡・藤枝の「藤かおり」という品種もあります。

「安い茶葉でも丁寧に淹れてあげれば、十分おいしく入りますよ」と茂木さん。

お値段もいろいろですが、高い茶葉を買ったほうが良いのですか?

高いお茶がおいしいとは限らないと個人的に思っていて。活動を始めた頃、試しに100グラム8,000円のお茶を買ったことがあるのですが、当時の私は上手に淹れられなくて悔しい思いをしました。日々の暮らしのなかなら、気軽に飲めるお茶が良いと思います。私は山口県の100グラム1,000円弱の「かりがね茶」を常備しています。「玉露」などの茎をブレンドしていて、忙しい時でも熱湯でおいしく淹れられるからラクチン。ビギナーさんにもイチオシです。

自宅で保管する際、おいしさをキープするコツは?

①背の低い茶筒で常温保存、②なるべく早めに飲む、が2大鉄則です。未開封のものは冷凍庫に入れて保存してもOK。ただし開封後は、冷凍庫にも冷蔵庫にも私は入れていません。お茶の葉は酸素に触れた瞬間から、どんどん劣化していくと言われています。空気に触れにくい浅めの茶筒を選び、早めに飲みきってください。

開封後の茶葉を、ジッパー式のポリ袋に入れて保管するのはどうでしょう?

入れた後に空気をしっかり抜くならナシではありませんが、茶葉は乾物なので、開けた際に湿気を一気に吸い込んで劣化したり、ほかの食品の香りが移ったりするので、あまりオススメしません。ちなみにお茶を淹れた時、お茶の表面に「毛蕈(もうじ)」といううぶ毛のような繊維がたくさん浮いていたら、茶葉が新鮮な証ですよ。

それは初耳! お茶表面の繊維、ホコリかと思ってました…!

背の低い茶缶や茶筒もオススメ。「最近はかわいいものがたくさん売られているので、お気に入りを見つけてみて」

劣化したり、賞味期限が過ぎてしまった茶葉の救済策はありますか?

自宅で焙じて「ほうじ茶」にするのがオススメ。火を通すので劣化していてもおいしさが蘇りますし、香りも良いんです。

強火で30秒ほど加熱したフライパンを濡れふきんの上に2秒置いた後、フライパンの上に茶葉を均一に敷きます。コンロに移し、点火しない状態で蓋をして2分30秒蒸らします。その後、蓋を取り、強火で1分ほど茶葉が焦げないようにこまめに混ぜながら焙じます。火を止めて、煙がおさまるまで1分ほど余熱を通したら、フライパンから茶葉を取り出し、バットに広げて冷ませば出来上がり。ほうじ茶を簡単に作れる「焙烙(ほうろく)急須」という焙煎急須も3,000円前後で売られていますよ。

では、ここからは家庭でも日本茶をグッとおいしく淹れられるちょっとしたコツをレクチャーしてもらいましょう!

コツを押さえて、
家庭でもおいしい日本茶を!

お茶をおいしく淹れる一番のポイントは、最後のひとしずくまでしっかり出すこと。紅茶のお作法では「ゴールデンドロップ」と呼ぶように、1滴に旨みが凝縮されています。お茶が出きるまで待つのに少し我慢がいりますが、このひと手間で格段にお茶がおいしくなるのだとか。「乾物である茶葉をしっかり開かせて抽出し、最後まで丁寧に出しきることを意識してみてください」

まずはお湯を沸かす作業。お茶と相性が良いのは軟水。ミネラルウォーターを使う場合は硬度をチェックして(硬水は白濁しておいしく入らない場合も)。水は沸騰させてカルキなどの匂いを抜ききることが大切。しっかり沸騰させることができるやかんや、水がまろやかになる鉄瓶などを使ってみても良い。
茶葉を急須に入れる。茶さじやスプーンを使って適量を。薄め、濃いめなど自分の好みの量を見つけよう。標準サイズの急須(マグカップ1~2杯相当)の場合はカレースプーン1杯強が目安。
ここでお湯を直接急須に入れるのではなく、いったん湯飲みに注ぐのがポイント! 湯飲みやマグカップの8分目までお湯を注ぎ計量。こうすることで器も温まり、さらに茶葉を抽出しやすい適温までお湯の温度を下げられる。
器を手のひらで持ってみて、ギリギリ触れられるくらいの温度まで下がったら(目安はお湯を入れてから5秒後)湯飲みから急須にお湯を移す。温度は茶葉の種類によるが「ちょっと良い茶葉を買ったな」という時は70℃、「普通の茶葉かな」という時は80℃が目安。蓋をして1分待ち、膨らんだ茶葉が急須のなかで泳いでいればOKサイン。雑味や苦味が出る場合もあるので、急須はゆらさずに。
旨みが凝縮された「最後のひとしずく」まで丁寧に出しきれば完成。複数人分を淹れる場合は、濃さを均等するために「回し注ぎ(まわしつぎ)」を行う。湯飲みを並べ、「1、2、3、4」の順に均等に注いだら、今度は「4、3、2、1」の順で戻り、最後の1滴が出きるまで繰り返す。
ちなみに、2煎目を楽しむ時のコツはこちら。手のひらで急須を「ポン!」と叩き、注ぎ口に寄っていた茶葉を離す(写真のように茶葉がひとかたまりになれば、1煎目、最後の1滴まで上手に出しきれた証拠)。茶葉のない部分にお湯を注ぎ、1煎目と同様にお茶を淹れる。
「淹れるひとときも味わいもひっくるめて、お茶ライフを楽しんでみてくださいね」

いつものお茶にプラスワン!
簡単フレーバーティーに挑戦

いつものお茶に飽きた時には「ちょい足し」がオススメ。お茶は繊細な飲みものだからこそ、香りや味を少し変えるだけで一気に印象が変わるんです。

オススメちょい足し① 「冷たい緑茶+ミント」

ミントが爽やかに香るクールティー

濃いめに淹れた緑茶を、氷がたっぷり入ったグラスに注ぐ。または水出し用ティーボトルに緑茶を入れ、冷蔵庫で一晩冷やしてもOK。その後、冷茶にミントの葉をぷかりと浮かべるだけでオシャレなクールグリーンティーに。ミントの香りと緑茶の味わいが爽やかに調和した1杯。

オススメちょい足し② 「冷たい緑茶+ライム」

ライムが加わるだけでフレッシュに味変!

冷たい緑茶をグラスに注ぐ。果肉と皮の間に切り目を入れたライムを、軽く搾りながら、グラスに果汁を付けるように縁を1周させる。緑茶の味わいはそのままに、ライムの香りを楽しめる小技の効いたティードリンク。さらに、絞ったライムを中に入れると一気にフレッシュな味わいに!

オススメちょい足し③ 「温かい緑茶+カモミール」

カモミールが華やかさをプラス!

緑茶、乾燥カモミールの順に急須に入れる。お湯を入れてハーブの色が出れば完成。ハーブの量はまずはひとつまみから始め、徐々に好みの量をつかむと良い。カモミールの優しい香りをまとい、気持ちが華やぐ味わいに。「ローズ、ラベンダー、レモンバームなど、その日の気分に合ったハーブをちょい足ししてみて。香りが鮮烈なバジルは避けたほうがベター」

オススメちょい足し④ 「温かい緑茶+桃」

スイーツ感覚で楽しむ「桃緑茶」

急須に茶葉、サイコロ状に切った桃を入れる。桃の量は好みによるが、まずは1/3個位から始めてみよう。
お湯を注いで1分待ち、お湯が少し白濁すれば出来上がり。桃のスイートな香りをほのかに感じつつ、後味はスッキリ上品。「和紅茶に桃、リンゴ、水を入れて冷蔵庫で一晩寝かせるのもオススメ。秋には巨峰も良いですよ」

オススメのちょい足し術はほかにもありますか?

炭酸でつくるスパークリングティーです。急須に茶葉を入れて、お湯の代わりによく冷やした無糖の強炭酸水を注いで3~5分待てば、スパークリンググリーンティーの完成。炭酸水だけだと茶葉が抽出しにくいので、茶葉にお湯を少し垂らして湿らせておくと出やすくなります。私は夏場によく飲むのですが、すごくおいしいですよ。その他、日本茶を焼酎やジンなどで割ると大人のティーカクテルになります。

音楽や洋服を選ぶように
日本茶を日常に取り入れて!

「まずは一度お茶を淹れてみて、『おいしいな』と思ったらOKだし、『あんまりおいしくないな』と思ったら、淹れ方を少し工夫してみるだけでも変化がすごく分かると思います。9~10月には熟成した深い味わいの『秋新茶』も登場しますし、ほうじ茶などの香ばしいホットドリンクもオススメです」

読者に向けてメッセージをぜひ!

お茶を淹れる時間は「句読点を打つこと」だと思っています。お茶を淹れたり飲んだりする時だけはスマホやパソコンから離れて、「今日はこういうことを失敗しちゃったな」「明日はこれをしてみようかな」とかぼんやり考えてみる。「何もしないをする」というのは、今すごく贅沢なことですよね。そういう時間を日本茶とともにつくってみると豊かな気持ちになれると思います。

お茶がそっと寄り添ってくれるんですね。

お茶は一番身近な「ホッとする」存在。たとえば「ああ、山に行って癒やされたいな」と思っても、実際に行くのはハードルが高い。でも“山をいただく”のはデスクでも気軽にできる。お茶は自然の恵みをいただくものですから、産地で茶摘みの工程を見ていると、「手に届く時は乾燥しているけど、またお湯で葉っぱに戻して山をいただくんだな」という感覚になるんです。

今、私たちはスマホやパソコンなどのデジタル機器に囲まれて暮らしているからこそ、お茶を淹れることは、花を活ける、手紙を読むといったことと同様、アナログ的な要素に惹かれるのではないでしょうか。せかせか忙しいこの時代にお茶がブームになっているのには、ちゃんと意味がある。一過性で終わらずにカルチャーとして長く続いてくれるといいなと願っています。音楽や服を選ぶように気軽にお茶を選んでもらえたら。あまり難しく考えずに、日本茶ライフを楽しんでみてくださいね。

INFORMATION

茂木雅世
日本茶アーティスト、ティーエッセイスト、煎茶道東阿部流師範。2009年から活動を開始し、イベント、ワークショップ、企業とのコラボレーションやプロデュース、雑誌連載、テレビ出演など、多方面で活躍中。日本唯一のお茶専門プログラムであるFm yokohama 84.7「NIPPON CHA茶CHA」では最新のお茶情報を発信中。著書に「東京のほっとなお茶時間」、監修本「やまとなでしこお茶はじめ」など。
URL/ocharock.amebaownd.com
Twitter/twitter.com/ocharock 

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