おいしく“たべる”。<連載>

甘酒パワーで、夏バテ知らずの元気習慣!

撮影/藤井由依(Roaster) 取材・文/岡林敬太

“飲む点滴”とも称され、近頃話題になっている甘酒。なんとなく身体には良さそうだけど……でも実際、どんなもので、どのように飲むといいのか、よくわからない人も少なくないはず。そこで今回は、甘酒探求家の藤井寛さんをお招きし、甘酒の効果や、オススメの飲み方、自家製甘酒の作り方、そして美味しいアレンジ法までを教えてもらいました。夏バテしがちな今の季節、日々の習慣に甘酒をプラスして元気に過ごしましょう!

ノンアルコールだから
仕事前に飲んでもOK!

外出自粛による運動不足に加えて、夏バテも心配な今日この頃。自宅にいながらにして、何か身体にいいことを始めたいと思っている人も多いのではないでしょうか。そんなあなたにオススメするのが「甘酒」です。

ここ数年、健康意識の高い人の間で、甘酒がブームになっています。「私、お酒は飲めないんだけど……」という声も聞こえてきそうですが、市場に出回っている甘酒の多くは実はノンアルコールなので、子供から大人まで安心して飲めます。そして、甘酒を飲むことを習慣化すると、身体にさまざまな好影響があると言われています。

そこで今回は、甘酒で夏季の体調を整えるコツや、自家製の甘酒を作る方法、さらには甘酒を使った夏らしいアレンジレシピなどを学んでいきましょう。講師はこの方、「あまざけ.com」を運営する甘酒探求家の藤井寛さんです。

小学4年生で甘酒の美味しさにハマって以来、自家製の甘酒を作り続けてきた藤井さん。その経験と知識を生かして、甘酒専門サイト「あまざけ.com」を立ち上げ、甘酒探求家として活動中です。発酵あんこの研究家としても知られ、今年2月には「発酵あんこのおやつ」(WAVE出版)を出版しました。

それではまず、「甘酒とは何なのか?」について、藤井さんに解説してもらいましょう。

「甘酒とは、日本古来から飲まれている甘味飲料で、米麹を発酵させて作る米麹甘酒(アルコール分0%)と、酒粕に砂糖を加えて作る酒粕甘酒(アルコール分1%未満)に大別されます。現在、一般的に広く普及しているのは米麹甘酒です。米麹甘酒は麹菌の酵素によってデンプンがブドウ糖に変わった飲み物で、お酒に由来する要素はなく、天然の甘さを楽しめるのが魅力です」

この記事では米麹甘酒を「甘酒」として話を進めていきます。甘酒は“飲む点滴”とよく言われますが、そのゆえんは何なのでしょうか?

「小腸での吸収がとても速いからです。普通の食品は口腔内から小腸間で消化分解され、腸壁から吸収されていきますが、甘酒は麹菌の酵素によってすでに分解されているため、飲めばすぐに血流に乗り、それがエネルギーとして全身に行き渡ります。甘酒には代謝を促すビタミンB群やアミノ酸が多く含まれていますが、その成分も点滴とほぼ同じなんですよ」

そのほか、腸内環境を改善し便通を促す食物繊維やオリゴ糖も豊富に含まれているそうです。

疲労回復効果が大きいため、スポーツドリンクの代わりに甘酒を取り入れるアスリートも増えているそう。疲れが溜まっているPTRは試しに飲んでみては? ノンアルコールなので、仕事前のパワーチャージにも使えます。

冬に身体を温めるために飲むイメージのある甘酒ですが、藤井さんいわく「夏に向けた体調管理や夏バテ防止にこそ最適」とのことです。

「江戸時代や明治時代の医者が書いた文献にも、『夏の暑さで体調がすぐれないお年寄りや子供は甘酒を飲むといい』といった記述が見られます。医療が今ほど発達していなかった時代から、甘酒は夏バテ防止ドリンクとして庶民に親しまれていたんですよ。江戸から大正にかけては市中を売り歩く“甘酒売り”も流行。京都や大阪では夏の夜だけ売り歩いていたとか。そうしたことから、俳句の世界で甘酒は夏の季語にもなっています」

時代は変わっても、人体の構造と甘酒の効果は変わりません。日毎に暑くなるこれからの季節は、甘酒習慣を始めるのにちょうどいいタイミングと言えそうです。

好みの銘柄を見つけて
朝一番に飲んでみよう!

スーパーマーケットなどの清涼飲料水のコーナーに行けば、色とりどりの甘酒が並んでいます。こちらは藤井さんが特にオススメの商品。

麹の種類や、そこに加える材料によって、甘酒の味や色に変化が出ます。市販されている主な甘酒の特徴を、藤井さんに解説してもらいましょう。まずは最もポピュラーで、古くから日本酒や味噌、しょうゆなどの醸造に用いられている「黄麹」を使った商品から。

「左から3番目の『麹だけでつくったあまさけ』は、原料は麹と水のみなので、栄養成分が高く、雑味のないすっきりとした味が印象的。右端の2つ、小さいボトルが可愛らしい『ちほまろ』と『白神ささら』は、いずれも乳酸菌により発酵させた商品で、乳酸の酸味が加わった甘酸っぱい味わいで美味しいです。ピンクのラベルの『あまざけ』は、もち米を使った甘酒で、さらりとした上品な味わい。左から2番目の『いわて雑穀甘酒』は、雑穀をバランスよくブレンドした商品で、穀物の風味が持ち味。糖度は高めです」

続いては右から3番目、沖縄の宝と言われる「黒麹」を使った『黒あまざけ』の味はというと……「黒麹にはクエン酸が多く含まれているため、さわやかな酸味が印象的。甘ったるくなく、すっきり飲みやすい甘酒です」。最後は漢方や紹興酒を作るときに活用される「紅麹」を使った『くらしき塩屋の紅こうじ甘酒』について。「紅麹ならではの赤みと、しっかりした甘さが特徴です。糖度が高めなので2、3倍に希釈して(水やお湯で割って)飲むといいでしょう」

「甘酒の匂いが苦手な人もいますが、醸造元が酒造メーカーか、しょうゆ蔵か、味噌蔵か、麹屋かによっても香りの傾向は異なるので、それぞれ飲み比べてみれば好みの系統が見つかるかも。甘酒の粒々が苦手な人は、ブレンダーなどで潰してから飲むといいですよ」

上記で紹介した商品以外にもスーパーにはたくさんの甘酒が並んでいるため、どれを買ったらいいのか店頭で迷ってしまう人も多いことでしょう。そこで藤井さんに、市販の甘酒を選ぶ際の「簡単チェックポイント」を教えてもらいました。

「多くの人がまず気になるのが、『この甘酒の甘さって、どの程度なの?』ということだと思います。それを見極めるポイントは、成分表示にある100gあたり(もしくは100mlあたり)の『炭水化物』の数値。この数値が高いほど甘くなります。20~25gが標準的な甘さ。それが甘く感じる人は20g未満の商品を選べばOK。40g以上の甘酒はとろみが強く糖度も高いですが、それは希釈して飲むことを前提とした商品ですね」

『麹だけでつくったあまさけ』の成分表示を見てみると、「炭水化物25.5g」とあります。つまりこれは「ほぼ標準的な甘さ」ということ。写真には写っていませんが、「原材料名」の欄には「米麹」とあるので、ノンアルコールの米麹甘酒。「酒粕」と書かれている商品は酒粕甘酒になります。

健康にいい甘酒。その効果を最大限に発揮するためには、いつどのように飲めばいいのでしょうか?

「時間的には朝に飲むのがベストです。というのも、起きた後に甘酒で血糖値を上げると、体内時計がリセットされ、さわやかな気分で1日のスタートを切れるからです。ただし、甘酒単体だと血糖値が急上昇するおそれもあるため、なるべく朝食と共に摂取しましょう」

では逆に、「この時間帯はNG」「こういう飲み方はダメ」などの注意事項は?

「寝る3時間前を過ぎたら、飲むのを控えましょう。血糖値が上がって興奮状態になり、睡眠の妨げになることもあるからです。また、飲みすぎにも要注意。甘酒400mlのカロリーは、白ご飯200g(お茶碗大盛りくらい)とほぼ同等。それを踏まえて、1日に飲む量を考えましょう」

実は簡単!
自家製甘酒の作り方

甘酒は、自宅で気軽に手作りすることもできます。藤井さんが考える、一番美味しくて簡単な作り方をレクチャーしてもらいました。家にいる時間を楽しく健康的に過ごしたいあなたは、ぜひともチャレンジしてみましょう!

乾燥米麹、ケトル(電気ケトルでも、火にかけるタイプのヤカンでも、沸騰できれば何でもOK)、スープジャー(蓋付きで保温性の高いものなら、魔法瓶やステンレスタンブラーでも可)、温度計、計量器を用意しましょう。乾燥米麹はスーパーの漬物売り場や乾物売り場で購入できます。慣れてきたら目分量でも作れるので、計量器はマストアイテムではありません。

STEP1

余計な菌が混ざると正常に発酵せず、酸味が出てしまうので、まずはジャーの中を殺菌します。電気ケトルなどで沸騰させた熱湯を、ジャーに“ほぼ満タン”になるまで注いでください。入れすぎると蓋を閉めたときにあふれてしまうことがあるので注意。

STEP2

熱湯を注ぎ終えたら、蓋をしっかり閉めてからジャーを逆さまに置き、10分ほど放置します。こうすることで、蓋部分まで余さず殺菌することができます。蓋がきっちり閉まっていないと熱湯がこぼれるおそれがあるので気を付けましょう。

STEP3

殺菌用に沸騰させたお湯の残りが、68℃前後まで冷めるのを待ちます。その間に、ジャーの殺菌時間の10分が経過するはず。殺菌を終えたら、ジャーの中のお湯は捨てましょう。

STEP4

殺菌済みのジャーの中に乾燥米麹を入れます。板状の乾燥米麹を購入した場合は、パッケージ袋に入れたまま指でもみ崩し、粒状にしてから入れましょう。今回はジャーの容量が250g(ml)なので、原材料は乾燥米麹約60g、お湯約180g。お湯は乾燥米麹の約3倍量使うと、美味しく仕上がります。後々あふれないようにするために、合計の重量はジャーの容量より少し少なめに。

STEP5

続いて、約68℃に冷ましたお湯をジャーの中に注ぎます。計量器を使わずにおおまかな感覚で作ってもOKです。

STEP6

蓋をきっちり閉めてから、カクテルを作るときのように何度かシェイクしましょう。そうすることによって酵素とデンプンがよく混ざり、効率的に糖化が進行。甘くて美味しい甘酒になります。カバンの中に入れて持ち運ぶだけでもシェイクの機能を果たせます。

出来上がり!

その後、4~6時間ほどジャーを放置して保温を続ければ甘酒が完成します。朝に仕込んだ甘酒をカバンに入れて出かければ、ちょうどお昼どきには仕上がるでしょう。
炊飯器がある場合は、その保温機能を使って簡単に甘酒を作ることもできます。まず、炊飯器に、半分程度の量のお湯(63℃前後)を張ります。次に、ジッパー式食品保存用袋の中に先述の比率(1:3)で乾燥米麹と約68℃のお湯を入れ、封をしてシェイクしてから、炊飯器に投入。炊飯器の蓋を開けたまま4~6時間保温状態にすれば完成です。

香りや甘さが苦手な人は
果物を加えてスムージーに

甘くて美味しい甘酒ですが、独特の風味に不慣れな人も多いはず。そんな甘酒ビギナーにオススメのアレンジメニューもあるそうです。

「今の時季にぴったりなアレンジ法でもあるのですが、甘酒にフルーツを足して、スムージーを作ってみるのはいかがでしょう? 甘酒の甘味にフルーツが加わると、味わいがスカッとさわやかになると同時に、甘酒特有の香りも和らぎますよ」

「甘酒はどんなフルーツにも合うと思いますが、今回は僕の好きなマンゴー、キウイ、オレンジ、バナナを用意しました。一種ずつ使うもよし、組み合わせるもよしです」
スムージーの作り方は至って簡単。まず、フルーツ(ここではオレンジとキウイを使用)を好きな分量皮をむいてカットし、そこに甘酒を適量注ぎます。
あとはブレンダーやミキサーで混ぜるだけ。フルーツが細かくなるまで混ぜるか、粗く残すかはお好み次第です。
甘酒の自然な甘味とフルーツの清々しい酸味が混ざり合った夏らしいスムージーが完成! 砂糖を使っていないため後味さっぱり。氷で冷やすと味が引き締まり、一層美味しく感じられます。
バナナを使うなら、豆乳をプラスしても相性バッチリ。「今回はバナナの食感を楽しむために、あえてしっかりとは潰さず、形を少しだけ残してみます」。バナナに甘酒と豆乳を加え、ブレンダーにかければ完成です。
米から作った甘酒は自然な甘さが魅力ですが、豆乳とバナナを加えることで、よりまろやかな味わいに。食物繊維、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、タンパク質など、それぞれの栄養素が豊富に含まれているので、蒸し暑い夏を乗り切るのに最適な1杯です。

飲みきれなかったスムージーは、冷蔵庫なら翌日まで、冷凍庫なら1ヶ月ほど保存が可能。また、凍らせるとデザートにも早変わりします。

「ジッパー式食品保存用袋などに入れて冷凍庫の中に平置きして凍らせておき、パキッと折って、アイススティックみたいに食べるのが僕は好き。溶けかかったものをカップに入れ、シャーベットのようにスプーンで食べるのもオツですよ」

暑くて自宅にこもりがち…
そんな今こそ甘酒習慣を!

最後にもう一つ、甘酒の意外な活用法を紹介します。

「甘酒は『調味料』としても使えることをご存知でしょうか? たとえば、カレーのちょっとした隠し味として、みりんの代わりに甘酒を入れてみるのも面白い。コクが出て、独特の美味しさを味わえますよ。また、お菓子を作る際に砂糖の代わりに甘酒を使うのもオススメ。砂糖を使うとしつこい甘さになりがちですが、甘酒だとさっぱりとした上品な甘さに仕上がります」

みりんや砂糖の代わりに甘酒を使うと、食物繊維やビタミンB群も摂取できます。味だけではなく、健康面でもメリットがあるのです。

「甘酒を調味料として使う場合は、一気に入れると甘くなりすぎるため、少しずつ入れながら味見を繰り返し、適切な分量を探りましょう」

藤井さんの解説により、甘酒にはさまざまなメリットや活用法があることがわかりました。美味しくて、栄養満点で、夏バテ防止にもうってつけ。市販品も豊富な上、自宅で気軽に手作りもできる。さらには涼しげなドリンクやデザート、身体に優しい調味料としても活躍してくれるのだから、これを生活に取り入れれば、毎日がもっと豊かに、そして健康的になることうけあいです。

例年よりも外出する機会が減りそうなこの夏、あなたも自宅で甘酒習慣を始めてみませんか?

INFORMATION

藤井 寛
「あまざけ.com」の運営者。幼い頃から祖父の漬けた漬物や手作りの味噌、母親が日常的に作っていた甘酒など、発酵食品に親しみのある環境で育つ中で、自身も甘酒作りに目覚める。発酵への興味から、東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科に進学。同大学大学院を卒業後は「甘酒は日本が誇る発酵食品である」という信念のもと、甘酒探求家として各地の甘酒を探し求めるとともに、至高の甘酒が作れるよう日々奮闘中。
URL/http://あまざけ.com/

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