おいしく“たべる”。<連載>

冬こそ水分不足に要注意!
「水」を飲んで不調を解消

撮影/菅原景子(Roaster) 取材・文/岡林敬太

水を習慣的に飲むと健康にいいとは聞くものの、毎日しっかり摂取できている人は、意外と少ないのではないでしょうか。特に冬場は、寒さにより水を敬遠しがちで、知らず知らずのうちに水分不足に陥っていることも。その結果、肌荒れ、肥満、便秘、風邪……と、さまざまな不調を招いてしまう可能性もあるのです。あなたを今悩ませている体調不良はもしかすると、水を飲むことで解消されるかもしれませんよ!

乾燥が気になる冬場こそ
積極的に水分補給を!

人間の身体の半分以上は水分でできていて、それが足りなくなると健康にさまざまな悪影響が出ると言われています。つまり、失われた水分は日々しっかり補給する必要があるということ。しかし、ミネラルウォーター専門スクール「アクアデミア」の校長・山中亜希さんによると、「多くの人は飲む水の量が足りていない。特に冬場は要注意」だとか。

「夏はみなさん進んで水を飲みますが、冬場は『汗をあまりかかない』『身体が冷える』『寒い中トイレに何度も行くのが面倒』などの理由で、水分摂取を敬遠する人が多いです。でも冬も、基本的には身体から排出される水分の量は変わりません。汗をかかなくてもその代わりに尿になって、ほぼ同じ量の水分が出ていっているのです。また、冬は空気が乾燥しているため、皮膚から気づかないうちに水分が奪われています。ですから寒い時季こそ、積極的に水を飲むことが、健康の秘訣です」

水を飲むとどのような健康効果があるのか? 山中さんに教えてもらいましょう。

「昔は水を飲むのが苦手だった」という山中亜希さん。かつて、輸入した水を大量に余らせる事態が発生し、仕方なく自分で飲み続けることに。「その結果、慢性的な便秘や風邪症状が解消されたほか、二日酔いにもなりづらくなり、水の大切さを身をもって体感しました」。以来、水の研究に没頭。その知識を世に広げるべく、「アクアデミア」を開校したそうです。

山中さんによると、水には主に、健康と美容に関わる3つの働きがあるそうです。

その1……血流を良くする。
「水を飲むと血流がよくなり、全身に酸素や栄養素が届きやすくなります。その結果、代謝がアップして体温も上昇し、冷えにくい身体になります。また、便通もよくなるのでダイエット効果を見込めるほか、お肌のターンオーバーも促されることでしょう」

その2……老廃物を排除する。
「人体から不要物を排出してくれるのは、汗、尿、便、呼気などに含まれる水分です。水分が足りないと老廃物をためこむことになり、体調不良や肌荒れなどの原因になります」

その3……恒常性を保つ。
「恒常性とは、環境の変化に対し、生体を安定した状態に保とうとする仕組みのこと。たとえばウイルスなどの外敵が身体に入ることを防いだり、気温が高い場所にいても平熱を保ったりする働きが挙げられます。最近、新型コロナウイルスの医療現場にいる方々が積極的に水を飲んでいるのは、恒常性を保つ目的もあると考えられます」

必要な水分を摂ることは、健康や美容を保つために欠かせない習慣と言えるのです。

山中さんが校長を務める「アクアデミア」では、「アクアソムリエ」の資格を取得するための講座を実施しています。アクアソムリエとは、ミネラルウォーターや水に関する正しい知識を身につけた人のこと。美容業界や食品業界で働く人などが主に資格を取得しているそうですが、仕事に関係なく、趣味が高じて取得する場合も多いそうです。

美容と健康のために、
1日1.5〜2ℓの水はマスト

では、私たちは健康を保つために、1日にどの程度の水を飲めばよいのでしょう?

「成人が1日に排出する水分は、汗、尿、便、不感蒸泄(発汗以外の皮膚および呼気からの水分喪失)の水分などを合わせて、約2.5L。これに見合った水分量を、水や食べ物などから補給する必要があります」

1日の食事から摂取できる水分は平均0.8〜1Lで、さらに代謝水(脂肪などが燃焼する際に体内でできる水)が0.3Lあり、合計すると1.1〜1.3Lに。単純計算だと、あと1.2〜1.4Lの水を飲めば2.5Lに到達しますが、それはあくまで「最低限の目安」だとか。

「食事では十分な水分量を摂取できないことが多いので、結論としては1日につき『1.5〜2L』程度の水を飲むことをオススメします」

上記の量は「常温安静時」の目安。激しい運動をした日などは、これよりも多くの水を飲む必要があります。脇の下が常に乾いていたり、尿の色が濃かったり、足がつりやすい場合は、体内の水分が足りていないシグナルなので、当てはまる人は特に気をつけましょう。

ペットボトルに換算すると、1日に500mlを4本、もしくは2Lを1本飲めば十分。「水分以外の要素が含まれているお茶やジュースではなく、なるべく水で水分を摂りましょう」

コップに移して飲めば
より美味しく感じられる

1日につき1.5〜2Lの水。これを無理なく飲むコツは、「ガブ飲みしないこと」だと言います。

「一気に飲むと身体に吸収されずに排出されてしまったり、腎臓にダメージを与えかねないので、1回約200mlを、1日8〜10回に分けて飲むとよいでしょう」。また、水を美味しく飲むために、「ペットボトルからコップに移す」ことも山中さんは推奨しています。

「ペットボトルに直接口をつけて飲むと、ペットボトル独特の臭いがすることも。また、たとえば食事中にペットボトルから直飲みをすると、口から雑菌が移って、ボトルの中の水の味が変わってしまいます。飲む分だけコップに移せば、いつでも清潔な水を摂取できますし、お気に入りのウォーターグラスなどを使えば、より美味しく感じられるでしょう」

朝起きたら、朝食を摂る前に「コップ1杯の水」を飲むのも良いのだとか。「寝起きすぐの水は『命の水』と言われるくらい大事。朝は身体が乾燥しているため水の吸収率が高く、寝ている間に濃縮された血液をサラサラにしてくれると同時に、からっぽの胃腸に刺激を与えることで便意を促してくれます」。ただし寝起きは口の中に雑菌が多いので、水を飲む前に口をゆすぐか歯磨きをするように。

軟水は日本人向き
硬水はダイエットの味方

「水はどれを飲んでも同じ」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。実はさまざまな種類があり、それぞれ含まれるミネラルや風味が異なるそうです。山中さんに解説してもらいましょう。

「私たちが普段飲む水は『軟水』と『中硬水』と『硬水』に大別できます。3種の違いは、硬度の違い。硬度とは、水1Lあたりのカルシウムやマグネシウムの含有量によって決まる値のことで、含有量が少ないものが軟水、多いものが硬水となります。硬度の分類にはさまざまな基準がありますが、日本では一般的に100mg/L以下が軟水、101~300mg/Lが中硬水、301mg/L以上が硬水と言われています」

軟水にはどのような特徴があるのでしょう?

「軽い口当たりと、さっぱりした風味が特徴です。日本の水道水や国産のミネラルウォーターはほとんどが軟水なので、日本人には軟水が合うと言われていますが、摂取できるミネラル(カルシウムやマグネシウム)はあまり多くはありません」

一方、硬水の特徴は?

「口当たりが重く、牛乳のようなまろみと、やや金属っぽい苦みを感じます。便通を良くするマグネシウムが多く含まれているため、ダイエット中の人などに人気。海外産のミネラルウォーターのほとんどが硬水になります」

その両者の中間的な存在が、中硬水ということになります。

「硬水より飲みやすく、軟水よりミネラルが含まれているのが特徴。沖縄には水道水が中硬水の地域もあるんですよ」

「硬水は味にクセがあるため最初は戸惑う人も多いですが、1週間ほど飲み続ければ違和感はなくなる場合もあります。もし下痢になったりしたら、それは『その水が合わない』ということなので、もう少し硬度の低いものなどに変えてみましょう」

コンビニやスーパーに行けば、多種多様なミネラルウォーターが売られています。その中からどれを選んだらよいのかわからない人は、商品のラベルに記載された栄養成分表示を見てみましょう。表示義務はないものの、多くの商品には「軟水」「硬水」などの種別や、硬度の数値が記載されています。

「硬度がすごく高いもの、特にマグネシウムの量が多いものは、人によっては下痢の原因にもなるので要注意ですが、それ以外ならひとまず飲み続けてみて、口に合うかどうかで判断すればよいと思います。『硬度がこれくらいだったら自分に合うな』という目安がわかってきたら、『朝はこれ、昼はこれ』といった具合に、シーンによっていろいろな銘柄をセレクトしてもよいでしょう」

山中さんは、食事の補助的な役目として硬水を飲むことが多いとか。

「ほとんどの日本人はカルシウムやマグネシウムなどのミネラルの摂取量が足りていないことが、最近の国民健康・栄養調査の結果からも分かっています。私は特に、『今日の食事では野菜や海藻類が足りていないな』という日に、硬水でミネラルを補給するようにしています」

炭酸水には目覚め効果
白湯にはリラックス効果が

「水は味気ないから苦手」と感じる人は、炭酸水を試してみてはいかがでしょう? 炭酸水とは、二酸化炭素(炭酸ガス)が溶け込んだ状態の水のこと。水よりも喉越しがよく、無糖なので炭酸飲料よりもヘルシーです。炭酸水を習慣的に飲むと痩せる、反対に太るなど、さまざまな情報が飛び交っていますが、実際のところはどうなのでしょうか?

「炭酸水は胃腸に膨張感を与えるため、食事の量を減らせるとの声がある一方で、炭酸水を少量飲むと食欲が増進するという実験結果もあるため、人によりけりといったところでしょう。ちなみに私の周辺には、お風呂上がりのビールを炭酸水に変えただけで1ヶ月に4キロ痩せたという人もいますよ。カロリーや糖質がゼロでありながらビールに似た喉越しがあるため、代替品として上手く使えばダイエット効果もあると思います」

炭酸水は、寝起きにもオススメだとか。「シュワッとした刺激で気持ちよく目が覚めて、『今日も1日頑張ろう!』という気になれます」。また、「特に夏場に飲むと美味しいですよ。清涼感があるので、暑気払いにも最適です」と山中さん。

「寒い冬に冷たい水を飲むのは抵抗がある」という人には、白湯がオススメです。

「一度沸騰させてから適温まで冷ましたものを白湯と呼ぶことが多いですが、沸騰させずにただ温めるだけでもOKです。白湯には水と同じ効能があることに加え、身体を温めて冷えを軽減する効果もあります。胃腸を温めると代謝が促進されるので、ダイエットにも最適。また、冷たい水は目を覚ます覚醒作用があるのに対し、白湯は神経を鎮めてくれるリラックス効果もあるので、寝る前に飲むとよいでしょう」

白湯はやかんや鍋、電気ポット、電子レンジなどがあれば簡単に作れます。沸かす水は水道水でもミネラルウォーターでも構いません。

水道水で白湯を作る場合は、やかんの蓋を開けたまま沸騰させ、塩素やトリハロメタンなどの不要物を蒸気と共に取り除きます。5分程度の加熱だとトリハロメタンが逆に増えてしまうことがあるので、必ず10分ほど加熱すること。ミネラルウォーターで白湯を作る場合は、100℃を超えると、ミネラルが沈殿したりやかんに付着したりして体内に吸収しづらくなるため、沸騰する前に火を消しましょう。
コップ1杯程度の白湯を、寝る前に飲む習慣を身につけてみては? 「血流が促され、全身のむくみも改善されやすくなりますよ」。立ち仕事で足がむくみがちなPTRはぜひお試しを。

水道水でも手頃な水でもOK
無理のない範囲で継続を

水は、一生付き合っていかなければならないもの。「だからこそ自分に無理のない範囲で飲み続けることが大事」だと山中さんは言います。たとえばミネラルウォーターの価格はピンキリですが、高いものにこだわった結果、たまにしか水を飲まないようでは意味がなくなってしまいます。

「水を買うことに抵抗がある人は、水道水でも構いませんので、まずは毎日飲む習慣を続けてみてください。それまで水を飲んでいなかった人ほど、効果がすぐに現れますよ」

「日本で売られている水は輸入品を含め、すべて厳しい安全基準をクリアした商品ばかりなので、価格が手頃なものももちろん安全です。日本の水道水も、高い品質基準が設けられているのでそのままでも飲めますが、家庭用浄水器を通すとより安心でしょう」と山中さん。

まずは毎日習慣的に飲むことからスタート。水が身体にいいことを実感できれば、さらに健康になりたいという思いが湧いてきて、ミネラルウォーターの飲み比べをしてみたり、状況に応じて炭酸水や白湯を取り入れてみたりと、いろいろな飲み方を試したくなってくることでしょう。

「ちなみに私は健康への投資と自分へのご褒美を兼ねて、『今日はものすごく疲れたな』というときだけ特別に、少々お高い水を買うようにしています。みなさんも、水を継続して飲めるように、そのときどきで工夫して楽しんでもらえたらと思います」

寒さが厳しくなり、水を飲むのがおっくうになりがち。そんな真冬こそ積極的に水を摂取し、健康的に過ごしましょう。

INFORMATION

山中亜希
輸入食材専門店に勤務するうち、食材の輸入に興味を持ちイタリアに留学。そこでおいしいミネラルウォーターに出合う。その後、東京・西麻布のミネラルウォーター専門店「AQUASTORE」の立ち上げに携わり、イタリアにてアクアソムリエの資格を取得。2008年4月、アクアソムリエ認定スクール「アクアデミア」を開校し、校長に就任。「日本アクアソムリエ協会」理事としても活動し、ミネラルウォーターの正しい知識・情報の普及のために、セミナーや講演、企業へのコンサルティング業務などを行っている。
URL/http://aquasommelier.jp(日本アクアソムリエ協会/アクアデミア)

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