おいしく“たべる”。<連載>

豆乳の美味しさを「体験」する。

撮影/有坂政晴  取材・文/赤木百[Roaster]

ソイラテにも使われている豆乳。女性ホルモンに近いとされるイソフラボンが豊富であることから特に女性に人気が高い豆乳ですが、そもそも何からどのように作られているのかご存知ですか。「イソフラボン」という栄養素名を知っていても、豆乳自体がどのように作られ自分の口まで運ばれているのかを説明するのは簡単ではありません。そこで、豆乳のルーツと作り方を学ぶため、東京都中野区の沼袋商店街で明治30年から続くお豆腐屋・尾張屋さんを訪れました。

お豆腐を作る過程でできる「豆乳」。五代目店主の堀野博さんは、豆乳の売れ行きが急激に伸びたのはここ10数年のことだと言います。 「前は専用のカップもなくて、お客さんが自分で空き瓶を用意して買いに来てたんです。そのうち豆腐屋の組合で豆乳が流行ってるって話が出て、本格的に売るようになりました」 流行りものだと思っていた豆乳ですが、売り上げは伸び続けているのだとか。

昔は手作業だった豆腐作りは現在ではほとんどが機械で行われています。一晩水につけられた大豆が臼で挽かれ始めました。使用するのは佐賀県のふくゆたかと北海道のとよひびきというこだわりの大豆。大豆独特の青臭さが少なく、甘みの強い品種だそうです。 「うちで販売してる豆乳は絹ごし用の豆乳豆乳はね木綿より絹ごしの方が濃いんです

挽いてペースト状にした大豆を、パイプを通して大きな圧力釜に送り、100℃で3分程煮ます。煮終わり、蓋を開けると、部屋の中はお豆腐の香りでいっぱいに。それを掘野さんが目で見て濃度を微調整したあと、濾して、液体と搾りかすに分けます。このとき絞られた液体が豆乳。搾りかすはおからとして美味しく利用されます。絹ごし用の濃厚な豆乳、不思議なもので日によって濃度が変わるのと、お店を共に切り盛りされている奥様は言います。 「濃い豆乳ができると〈本日は超濃厚〉って看板を出すんですけど、好きな方だと2本買っていかれたりしますね。初めての方には豆乳ってこんなのだったの? って言われることが多いです。市販の豆乳と味が全然違うので」 搾りたてを頂いた豆乳は、濃厚なのにお豆特有の青臭さがなく、とろりと口当たり滑らか。大豆本来がこんなに甘いものだったなんて驚きでした。

「食べること」について、
もう一度考えよう。

開店してすぐ、お店にはお客さんが入ってきました。なかには豆乳目的の常連さんもいらっしゃるのだとか。 「豆乳は更年期とか体調が変化しやすい年齢の方が買うことが多いですね。ひとりね、体調を悪くして豆乳を飲み始めて、もう3年くらい通ってる方がいるんですけど、目に見えて元気になってるんです。その方は毎日来るの。だから、まだ来てないのに残り1つになっちゃったときは、その方用に取っておくんですよ」

尾張屋さんのお豆腐や豆乳がご近所に愛されるのは、「イソフラボンが豊富」という理由だけではありません。材料の産地が明確で、機械を使いつつも昔と変わらないやり方で作り、ご夫婦がお客さんと会話しながらひとつひとつ販売するからこそ、美味しく、安心していただけるのだと感じました。自分が口にするものだからこそ、誰の手でどのように作られているのか少し意識して食べる、身体が素直に美味しいと感じる感覚を研ぎ澄まして食べる。すると「食べること」がただお腹を満たすためだけの行動ではない、より豊かな行為なのだと気付くことができました。

尾張屋豆腐店

創業は明治30年。代々受け継がれる昔ながらの 製法で豆腐作りを続ける現在五代目

住所/東京都中野区沼袋 1-45-5
西武新宿線 沼袋駅より徒歩5分
電話番号/03-3386-4477
営業時間/10:00~19:00
定休日/日曜日・祝日

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