おいしく“たべる”。<連載>

知っているようで知らない
「たんぱく質」って一体何?

撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太
 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素のひとつ、たんぱく質。人間の体に必要不可欠な栄養素ですが、最近の日本人は摂取量が減ってきているらしいのです。不足すると、心身ともにさまざまな不調があらわれるという噂も…。そこで、気になるたんぱく質の基礎知識と効果的な摂り方について専門家に伺いました。

多くの日本人は
たんぱく質が足りていない!

食事制限によるダイエットの流行や、炭水化物中心のインスタント食品の普及などにより、日本人のたんぱく質の摂取量が大きく減少しているそうです。

「筋トレ中でプロテインを積極的に摂っている方を除けば、多くの日本人が“摂るべき量”を摂取できていないのが現状。たんぱく質が不足すると、健康面でも美容面でも悪影響が出るので要注意です」と警鐘を鳴らすのは、管理栄養士の篠原絵里佳先生です。

たんぱく質はなぜ体にとって不可欠なのか? 充分な量を摂るためにはどうすればよいのか? 先生にレクチャーしてもらいましょう。

食生活を通した健康作りに詳しい、管理栄養士の篠原絵里佳先生。たんぱく質をテーマにしたセミナーなども行っています。

まずは、たんぱく質の基礎知識から。「たんぱく質は、生きていく上で必要な三大栄養素のひとつ。摂取したたんぱく質は胃や腸でアミノ酸に分解され、いったん肝臓に貯蔵されてから、体中の組織へ送られていきます」。そして、以下の役割を果たすそうです。

●体の組織を作る。
「筋肉、血液、骨、内臓、毛髪、皮膚、爪など、あらゆる体の組織はたんぱく質を材料として作られています」

●体の働きを調整する物質を作る。
「ホルモン、酵素、神経伝達物質など、心身のバランスを保つ上で欠かせない物質も、たんぱく質からできています。免疫抗体もたんぱく質が素。だからたんぱく質をしっかり摂ることは、コロナウイルス対策にも有効と言えます」

●エネルギー源になる。
「三大栄養素のうち炭水化物が優先的にエネルギー源になりますが、炭水化物が不足するなどエネルギー源が足りない場合は、たんぱく質や脂質もエネルギーとして使われます」

水分を除いた重量に占める、体の各部位のたんぱく質の割合はご覧の通り。たんぱく質は「命の材料」とも言える重要な栄養素なのです。

まさに私たちの体そのものを作っているたんぱく質。だからこそ、不足すると次のような悪影響があらわれます。

●疲れやすくなる・元気が出なくなる。
●吹き出物ができやすくなる。
●肌が荒れ、シミやたるみがあらわれやすくなる。
●髪の毛のハリやコシがなくなり、抜け毛や切れ毛も多くなる。
●爪が割れやすくなる。
●筋肉量が低下して太りやすくなる。
●貧血になりやすくなる。
●骨がもろくなる。
●集中力や思考力が低下する。
●鬱っぽくなるなど、メンタルの不調に陥りやすくなる。
●風邪やインフルエンザといった感染症にかかりやすくなる。
●眠りの質が悪くなる。

このように全身のさまざまな機能が低下して、体調を崩す大きな原因に! 思い当たる症状がある人は、もしかするとたんぱく質不足が関係しているかもしれません。

動物性たんぱく質と
植物性たんぱく質の違い

では、たんぱく質を摂取するためには、何を食べればいいのでしょうか? 食品として摂取できるたんぱく質は「動物性たんぱく質」と「植物性たんぱく質」の2種類に分類され、それぞれ特色が異なります。

●動物性たんぱく質が豊富な食材……肉、魚介類、卵、乳製品など
「動物性は、食材のグラムあたりのたんぱく質含有量が多く、体内での利用効率が高いのがメリット。ただし脂質も多く含まれるため、摂取カロリーが高めになる傾向にあります」

●植物性たんぱく質が豊富な食材……大豆製品、穀物(米・小麦)など
「植物性は動物性に比べ、たんぱく質の含有量が少なく、体内での利用効率は低いですが、脂質が少ないためダイエットにも適した食材です」

「肉、魚、卵、チーズ、牛乳などの動物性たんぱく質食材と、豆腐や納豆などの植物性たんぱく質食材は、それぞれ含まれるアミノ酸やビタミン・ミネラルの種類が異なるので、両方をバランスよく摂取するのが理想。また、若い方は特に、動物性たんぱく質食材が肉類に偏りがちなので、魚も意識して摂ることが大事です」

必要量の目安は
毎食「手のひらサイズ」

1日や1食あたり、どの程度のたんぱく質を摂取するのが理想的なのでしょうか?

「1日の目安としては、体重1キロあたり1グラムのたんぱく質が必要です。体重50キロなら50グラムですね。運動をする方はもっと摂っても良いですが、摂りすぎると肝臓や腎臓に負担がかかるため、体重1キロあたり2グラムを上限としてください。ただし、『食材の重さ=たんぱく質の重さ』ではないので、グラムで言われてもピンと来ない方がほとんどでしょう」

そこで毎食時に目分量としてイメージしたいのが、「手のひらサイズ」です。

「1回の食事につき、肉・魚・卵・豆腐などをすべて合わせて、『片方の手のひらにちょうどのるくらいの量』が適量です。卵1つだと手のひらの半分程度なので、『豆腐を半丁プラスすれば、ちょうど手のひらサイズかな』などと、3食ごとにイメージしましょう。牛乳や豆乳などの液体は『コップ1杯で手のひらの半分程度』と考えればOK」

魚や肉なら、切り身1切れが手のひらサイズ。食材によってたんぱく質の含有量は異なりますが、そこは神経質に考える必要はないとか。「1食につき、ざっくり手のひらサイズ」と覚えておきましょう。
こちらの写真は、1日分の摂取量のサンプル。「たとえば、朝は卵1個とヨーグルト、昼は肉120グラム、夜は魚80グラムと豆腐半丁150グラム、間食にチーズ、といった具合に、1日にバランス良く分けて摂りましょう」。ちなみにこちらのサンプルは、おかずのみをピックアップしたもの。主食となるご飯やパン、麺などにもたんぱく質は含まれているので、それらの主食をきちんと3食摂った上で、上記のおかずを摂取すれば、理想のたんぱく質量が達成できるというわけです」

たんぱく質は、朝・昼・晩の食事でそれぞれ摂るのが理想ですが、中でも重要なのは「朝」だと言います。

「たんぱく質は摂り溜めができないんです。だから朝食を抜いてしまうと、前夜から昼まで長い時間が空き、その間にたんぱく質不足に陥ります。また、朝たんぱく質を摂らないと、夜に眠りのホルモンが正常に分泌されず、しっかり眠れないという事態に。たとえ朝食をきちんと摂る時間がなかったとしても、出かける前にチーズを一切れ食べる、牛乳や豆乳を1杯飲むくらいのことは必ず行うようにしましょう」

篠原先生が考える理想の朝食。玉子とチーズのバーガーに加えて、豆乳とサラダも。「たんぱく質はできるだけ炭水化物や野菜と一緒に摂りましょう。炭水化物を抜いてしまうと、たんぱく質がエネルギー源として使われてしまい、体づくりに回りません。また、野菜に含まれるビタミンやミネラルは、たんぱく質が体内で利用されやすいようサポートしてくれます」

「足りていない」と感じたら
コンビニ食材の活用もOK

自炊をあまりしない人や、忙しくて決まった時間に食事を摂れない人たちは、インスタント食品などで空腹を満たすことが多く、特にたんぱく質が欠乏しがち。そんな生活の中で、不足分を補うにはどうすれば良いのでしょうか?

「喉が渇いたときは、豆乳や牛乳、あるいはスターバックスさんでも取り扱っているラテやソイ ラテを飲むと良いです。小腹が空いたら、お菓子ではなく、ゆで卵やチーズを食べる。そして食事の際は、食材にたんぱく質を“ちょい足し”しましょう。ご飯に卵や納豆やしらすをかける、パンにチーズをのせる、サラダにツナ缶を混ぜる、などですね」

プロテインドリンクやプロテインバーなどの栄養補助食品からたんぱく質を摂るのはどうでしょう?

「食事を摂れない忙しい朝などに活用するのはOKです。ただし栄養補助食品ばかりに頼ると、たんぱく質の摂りすぎや、その他の栄養不足になり、体脂肪の増加や、肝機能・腎機能の低下を招くこともあるので注意です」

ゆで卵、サバ缶、ツナ缶、サラダチキンなどは、コンビニやスーパーですぐ手に入る便利なたんぱく質アイテム。調理をせずにそのまま食べられるので、自炊するのが難しい場合にはぜひ活用しましょう。
手軽にたんぱく質を摂取できるレシピとして篠原先生がおすすめするのが、ヨーグルトドレッシング。無糖のプレーンヨーグルト大さじ3に、マヨネーズ大さじ1を混ぜるだけ。「普段のドレッシングをこれに変えるだけで、たんぱく質補給になります。爽やかなさっぱり風味で美味しいですよ」

未来の自分のために
毎食たんぱく質を!

最近は「太りたくない」という理由で食事量を減らす傾向にありますが、それはおおむね逆効果。たんぱく質が不足すると筋肉量が落ち、その結果、基礎代謝が減少してかえって太りやすくなるからです。また、「朝食を抜くと調子が良い」という人もいますが、それは「不調であることに慣れてしまい、体調不良に気づいていないケースが多い」のだとか。

「ほとんどの人はたんぱく質が足りていないので、食生活の改善が必要だと思います。とはいえ、面倒なことをする必要はありません。まずは今の食事にひとつ、たんぱく質食材をプラスしてみるのはいかがでしょうか? 最近はコンビニやスーパーでも、たんぱく質の含有量をアピールした商品が増えていますので、そういった表示を基準に選ぶのもおすすめ。少し食事の意識を変えるだけで、確実に健康な体が作られていきますよ」

篠原先生も20代の頃はハードワークで食生活が乱れ、慢性的に体調不良だったそう。ところが30代に入り、たんぱく質を重視するようになったら「肌荒れがなくなり、寝付きも良くなった」と言います。心身の健康のため、そして美容のため、みなさんも毎食のたんぱく質摂取を忘れずに!

INFORMATION

篠原絵里佳
健康指導士、睡眠改善インストラクターの顔も併せ持つ管理栄養士。総合病院、腎臓・内科クリニックを経て独立。長年の臨床経験とアンチエイジング(抗加齢)医学の活動を通して、体の中から健康と美を作る食生活を発信している。
URL/https://ericashinohara.com/

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