おいしく“たべる”。<連載>

味わい・味変いろいろ!
お酢のパワーで、おいしく夏バテ解消

撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太

ここ最近の健康ブームや、韓国発のドリンクビネガーが人気となったことをきっかけに、今改めて注目が集まっている「お酢」。スーパーなどにも多彩なお酢商品が並ぶようになりましたが「選択肢が豊富すぎて、何をどう使えばいいのかわからない!」という声も。そこで、お酢の知られざるパワーと、日常に気軽に取り入れられるヒントを、ビネガー・発酵料理研究家の岩間明子さんにインタビュー。夏バテしがちな今の季節を、酸っぱおいしいお酢を活用して元気に乗り越えましょう!

ダイエットに、パワー補給に!
体にいいこと盛りだくさん

「お酢とは、糖分を持つ原料をいったんお酒にし、それを酢酸(さくさん)菌の力で発酵させたもの。世界最古の調味料と言われ、紀元前5000年頃の古代バビロニアでは、すでに干しぶどうやナツメヤシを使ってお酢を作っていたそうです。日本では飛鳥時代に醸造の役所が置かれ、そこでお酢も作られていたという記述が残っています」

現在出回っているお酢は、発酵の仕方によって、以下の2種に分けられるそう。

1静置発酵(表面発酵)
2ヶ月以上かけて自然の力のみで発酵させ、じっくり熟成したお酢。
2全面発酵
機械で撹拌し空気を送り込むことで、酢酸発酵の速度を速め、数時間から48時間ほどで発酵を終えるお酢。

「全面発酵のお酢は大量生産されるため安価で入手できますが、人によっては酸味がきついと感じるかも。一方、静置発酵のお酢は酸味が穏やかで、味わいがコク深く、健康効果も大きいと言われていますが、全面発酵に比べて値段が高め。静置発酵のお酢は、パッケージに『静置発酵』『壺酢』『じっくり時間をかけて作った』などと書かれているので注目してみましょう」

お酢好きが高じて、全国のお酢屋さんを巡る旅を続けているビネガー・発酵料理研究家の岩間明子さん。旅先で得た知見を、SNSや自身が運営する料理教室などで伝え続けています。365日お酢を摂り続けている彼女の健診結果は「オールA」とか!

「体にいい」と言われるお酢ですが、そのパワーの秘密は主成分の「酢酸(酢酸菌の働きによりアルコールが変化してできる成分)」にあるそうです。では具体的にどのような効果が期待されるのか、主なものを挙げてもらいました。

内臓脂肪の減少
「酢酸には、脂肪の分解を促進する働きがあります。また、酢と一緒に食べたものは胃から腸へゆっくりと届く傾向にあるため、食後の血糖値上昇が抑えられ、脂肪を蓄えようとするインスリンの過剰な分泌を防げます」
血流の促進
「酢酸は血管を拡張するアデノシンの分泌を促し、血流を良くすると同時に、血圧を下げる働きも。お酢を摂取すると体がポカポカと温かく感じることがあるのはそのためです」
疲労の回復
「酢酸は疲労によって体内に蓄積した乳酸を分解してくれるため、疲労回復を助けてくれます。エネルギー源のグリコーゲンを素早く補充してくれる役割もあります」
腸内環境の改善
「酢酸には抗菌作用もあり、腸内の悪玉菌を減らしてくれると言われています。その結果、腸内環境が整って、便秘や下痢などの症状をやわらげることができます」

ここまでが、すべての種類のお酢に共通する「体にいいこと」。さらに黒酢やりんご酢、ワインビネガー、バルサミコ酢を選ぶことで、以下のような効果も期待できるそう。

アンチエイジング
「特に黒酢に多く含まれるアミノ酸には、肌の潤いを促進する効果があると言われています。また、りんご酢やワインビネガー、バルサミコ酢に含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、肌の老化や生活習慣病の予防に有効です」
お酢は種類によって色も味わいもさまざまですが、いずれも健康効果の主成分は「酢酸」。「スーパーなどに並んでいるお酢は、濁りを濾した透明度の高いものが多いですが、本当はその濁りの部分に多くの酢酸菌が含まれています。最近はあえて濁りを残したままの商品を作るお酢屋さんも増えてきましたので、健康にこだわる方はそういったものを探してみるとよいでしょう」

お酢の効果がいちばん発揮される1日の適量は、「大さじ1〜2杯程度」だと言います。

「ベストは、食事中に一緒に摂ること。食材との相乗効果があったり、血糖値の上昇を緩やかにする働きがあったりするからです。1食で大さじ1〜2杯を摂取する必要はなく、3食に分けて『小さじ1杯+小さじ1杯+小さじ1杯』という摂り方でもOK。魚や海藻、牛乳などと一緒にお酢を摂ると、カルシウムの吸収率がアップします。また、お酢の働きは加熱しても冷やしても変わらないため、ドリンクとして『飲む』のもおすすめ。ただし、ストレートで飲むと胃が荒れることもあるため、牛乳や炭酸水などで割って飲むのが良いでしょう」

発酵方法や原料によって
バリエーションはさまざま!

お酢のパワーを知ったところで、お酢の種類を少しお勉強。私たちがお酢と聞いて思い浮かべる一般的な「米酢」や「寿司酢」以外にも、さまざまなバリエーションがありますが、その種類は原料によって分けられるそうです。

「まずお酢は、大きく『醸造酢』と『合成酢』に分けられますが、一般家庭で使われるのはほぼ醸造酢。醸造酢の中でも、穀物を原料とするお酢を『穀物酢』と呼び、主にアジアで作られています。米酢、米黒酢、大麦黒酢などがその代表例ですね。一方、果物を原料とするお酢を『果実酢』と呼び、こちらは欧米で生産が盛ん。りんごを原料とするりんご酢、ぶどうを原料とするバルサミコ酢やワインビネガーがその代表例です」

スーパーなどで売られているお酢の多くは、ボトルの表面に「醸造酢」と明記されていて、ボトルの裏の品名のところに「米酢」「りんご酢」「ぶどう酢」などと種類が書かれています。お酢の種類が気になったら、パッケージをチェック!

一般家庭で使われている「醸造酢」の中で、以下が代表的な6種。それぞれの特徴と味わい、おすすめの使い方を教えてもらいましょう。

米酢
「精米された白米を主原料とする日本の代表的な穀物酢。米特有の甘みと風味があり、さっぱりとした酸味が特徴なので、和食との相性が良好。米酢の中でも、米以外の原料を一切混ぜていない静置発酵の『純米酢』は、さらに酸味がまろやかで、味わいもコク深いです」
黒酢(米黒酢)
「米酢の一種で玄米が原料。米酢よりも栄養価が豊富です。壺に入れて長期発酵させることから『壺酢』とも呼ばれます。米酢よりも穏やかな酸味が特徴。中華料理や魚介料理、エスニック料理との相性がよく、オイスターソースなどを混ぜてドレッシングを作っても美味しいです」
寿司酢
「米酢に、砂糖・塩・昆布だしなどを加えたもの。ご飯に混ぜ合わせるだけで美味しい酢飯が出来上がるため、家庭でちらし寿司などを作る際に重宝します。そのほか、マリネ、ドレッシング、ピクルスにも使えます」
りんご酢
「りんご果汁を主原料にした果実酢。穏やかな酸味とフルーティーな風味が特徴で、ドレッシングやピクルスなどに最適です。100%りんごのみで作られた『純りんご酢』は、さらに香りが豊かで甘みも強いので、炭酸水で割って飲むと美味しいです」
バルサミコ酢
「ぶどう果汁を煮詰めて長期間熟成させた果実酢。豊かなコクと甘みがあって、シロップのような味わい。炭酸割りで飲むのもおすすめですし、バターと醤油で煮詰めて洋食のソースにしても◎」
ワインビネガー
「ぶどう果汁をそのまま発酵、熟成させた果実酢。白ワインビネガーは、レモンのようなさっぱりした酸味が特徴で、サラダや魚料理、トマトベースの料理によく合います。赤ワインビネガーは、白ワインビネガーよりも果実感が強く、肉料理に合わせやすいです」
岩間さんおすすめのお酢各種。左から、果実酢の代表格であるワインビネガー、バルサミコ酢、りんご酢、中央は静置発酵の黒酢(壺酢)2種、右はおなじみの寿司酢と、果実酢2種をブレンドした「ぶどうとブルーベリーの酢」。さまざまなタイプのお酢が販売されているので、まずは好みの味を探してみて。

手作りビネガードリンクで
美味しく簡単に習慣化!

さてここからは、お酢を使った簡単レシピの紹介。最も取り入れやすいのは「ドリンクアレンジ」だとか。

「身近にあるさまざまな飲み物に、お酢を混ぜてみましょう。炭酸水と混ぜれば、夏らしい健康ドリンクの出来上がり。また、『発酵+発酵』は味の相性が良いうえ、健康の相乗効果も見込めるので、甘酒と混ぜるのもいいですよ」

岩間さんおすすめの組み合わせを紹介!

バルサミコ酢×炭酸水

ぶどう果汁を原料とするため果実味のあるバルサミコ酢は、ドリンクアレンジに最適。炭酸水180mlに対し、バルサミコ酢大さじ1杯程度を加えて混ぜるだけで、甘酸っぱさがほのかに漂う爽やかなドリンクに! 習慣的に飲むことで、高血圧など生活習慣病の予防にも役立つそう。

りんご酢×豆乳×甘酒

豆乳と甘酒を1:1の分量で注ぎ、大さじ1杯程度のりんご酢を加えてよくかき混ぜれば完成。「甘酒&豆乳のまったりとした甘みにお酢の酸味が加わることで、ヨーグルトのような味わいに。米と米麹と塩しか使っていないシンプルな甘酒を選ぶと、よりすっきりした喉ごしになるので食事の際にもおすすめです。りんご酢のかわりにワインビネガーを加えてもOK」

そのほか「黒酢+野菜ジュース」「りんご酢+牛乳+ハチミツ」などの組み合わせも美味しいとか。「より高い健康効果を目指すなら、お酢は『静置発酵』のものを選んでください。りんご酢は、静置発酵の『純りんご酢』がイチオシ。静置発酵のお酢は酸味がまろやかで、味わいにコクが加わるので、ビネガードリンクをよりおいしく、より健康的に楽しめますよ」

お酢×あの料理!?
“ちょい足し”で美味しさアップ!

お酢は、料理への“ちょい足し”にも役立つそう。「まずは普段食べている身近なメニューに、お酢を少しだけプラスしてみましょう。特に発酵食品やトマト料理と味の相性が良いので、私のおすすめは以下の2種です」

米酢×味噌汁

味噌汁に小さじ1杯程度の米酢を加えて混ぜるだけ。「特に和食に合うのは米酢。味噌汁に少しだけ酸味が加わり、後味がさっぱりします。酸味が気になる方は、先にお椀にお酢を入れてから、その後に味噌汁を注ぐと酸味が飛びやすくなりますよ」。朝一番に飲めば、血流がアップして、元気に1日をスタートできるはず。

ワインビネガー×ナポリタン

ナポリタンにワインビネガーを小さじ1〜2杯かけて、軽くかき混ぜれば出来上がり。「トマトの酸味にお酢がよく馴染みます。またケチャップとオイルのまったり感がお酢によって解消され、さっぱりした味わいに」。お酢と同時に摂ることにより、パスタに含まれる糖質が緩やかに吸収され、食後の血糖値上昇を防いでくれる効果も。

“ちょい足し”が習慣化できたら、もう一歩進んで、ピクルス作りにチャレンジしてみては? お酢の美味しさをより実感できるはずです。今回は、お酢と塩麹を使った簡単ピクルスレシピをご紹介!

「塩麹を使うことで野菜の発酵が促進されるため、野菜に火を通す必要もなく調理工程がラク。また塩麹が野菜の水分を引き出してくれるので水も不要。野菜の糖分が出るので、砂糖を入れる必要もありません。何より塩麹がお酢の酸味を優しくまとめてくれるので、深みのあるまろやかな味わいを楽しめますよ」

フリーザーバッグの中に、生野菜100gに対して、お酢(りんご酢、米酢、ワインビネガー、黒酢のいずれでもOK)大さじ2杯、塩麹大さじ1杯を入れます。封をして軽く手揉みしたら冷蔵庫へ。2時間ほど冷やせば、酸っぱ美味しいピクルスの出来上がり!

「ミニトマトを入れる場合は、そのままだと味が浸透しにくいので、爪楊枝でいくつか穴を開けておきましょう」。おかずにもお酒のアテにもなる、甘さ控えめの大人味。整腸作用や美肌効果、体力回復効果が期待できます。

上記のピクルスと同じ要領で、千切りキャベツを材料にすれば「ザワークラウト」も作れるそう。こちらは、冷蔵庫で冷やす時間は1時間程度でOK。

バテやすい夏はもちろん
一年を通してお酢を摂ろう

以上、お酢の味わい方の数々を紹介してもらいました。

「最初は適量(1日大さじ1〜2杯)にこだわらず、『ちょっとこれにお酢を加えてみようかな』という気軽な感覚でOK。摂り続けることで体に変化が出てくると思いますので、いろいろな組み合わせを試しながら、自分に合うアレンジを習慣化していただければと思います。早い人だと1週間で体重が1kgほど落ちることもありますよ。内臓脂肪の減少を目指すなら、3ヶ月ほど続けてみてください」

冬は「鍋+ポン酢」など、実はどの季節に摂っても美味しいのがお酢。夏バテ対策にとどまらず、年間を通じた健康対策として、お酢習慣を定着させましょう!

かつてはぽっちゃり体型で、ショートスリーパーだったという岩間さん。お酢を毎日摂るようになってからはスリムになり、ぐっすり眠れるようになったそう。「内科の先生から、『善玉菌の数が多い』と驚かれたことも。便秘もないし、疲れもあまり溜まらない。健康上の悩みは今のところ何もないですね」。そんなお酢の健康パワーを、みなさんもぜひ体感してみてください。

INFORMATION

岩間明子
料理講師として世界の家庭料理を紹介する中で、酸味を活かしたレシピに興味を持ち、お酢の世界に魅了される。発酵食品ソムリエの資格を取得し、現在はビネガー・発酵料理研究家として活動中。お酢とお酢料理の研究をしながら、「発酵で毎日の料理がちょっと楽に、そして元気に美しく」をテーマとした料理教室やお酢の試飲会などのイベント、日本各地のお酢屋さんを巡る「全国お酢旅」を続けている。
URL(Instagram)/https://www.instagram.com/akikonoosu/?hl=ja

CONTENTS