おいしく“たべる”。<連載>

夏バテ予防、疲労回復に効果も!?  薬味料理で夏を乗り切ろう

撮影/菅原景子 取材・文/和栗恵

夏バテ予防、疲労回復に効果のある薬味

麺類や鍋物など、さまざまな料理に欠かせない「薬味」。料理の主役ではなく、脇役のイメージが強い薬味ですが、香りや風味を添え、食欲増進や消化促進など体にうれしい効果も与えてくれます。今回はそんな薬味の魅力についてお届け。薬味が持つ効果・効能と共に、夏におすすめの薬味をたっぷり使ったレシピを専門家にお聞きしました。

料理の名脇役・薬味の
体にうれしい効果とは?

漢方や医学の伝来とともに日本に広がり、江戸時代頃に一般的な言葉になったとされる「薬味」。味を引き立て、健康増進に“役に立つ”食材であることから、「役味」と書き換えられることもあったといいます。

「日本における薬味は、素材の味を引き立てて食欲をそそる欠かせない存在として、そして健康効果の期待、殺菌など食生活の知恵として発展してきました。薬味に使われる野菜や柑橘の種類は豊富で味も含まれる栄養素もさまざま。多様な薬味を日々のお料理に活用しておいしさと健康に役立てたいですね」そう語るのは、料理家・管理栄養士の成澤文子さん。

さっそく、薬味のもたらす効能・効果について詳しく教えていただきましょう。

今回薬味についてご紹介頂く成澤文子(なりさわ あやこ)さん
日本一家庭料理がうまい女性を決めるコンテスト番組『レシピの女王』(日テレ系)に出演し、初代女王の座を獲得した成澤文子(なりさわ あやこ)さん。簡単なのにおいしく健康的なレシピが人気を集めています。

それぞれの薬味の効果をチェック!

・疲労回復には… ねぎ、にんにく、しそ、ゆず、すだち
「ねぎやにんにくに含まれる『アリシン』は、ビタミンB1の吸収や働きを高めて疲労回復・夏バテ予防に役立ち、滋養強壮効果も期待できます。また、ねぎ、にんにく共に葉酸の含有量も多く、貧血が気になる方や妊活中の方におすすめ。
しそは栄養価が高く、ビタミン・ミネラルが豊富。ビタミンB群も含み、代謝を助けます。
ゆずやすだちに含まれる『クエン酸』は疲労回復に役立つほか、カルシウムなどミネラルの吸収を促進することが知られています。また、どちらもビタミンCが豊富なので免疫力アップも期待できます」
・食欲増進には… しょうが、みょうが、しそ、にんにく
「しょうがに含まれる辛み・香り成分は、消化吸収促進や食欲増進効果をもたらします。
みょうがも同様に『α-ピネン』と呼ばれる香り成分が胃腸の働きを活性化。食欲増進や眠気覚ましにも一役買ってくれます。
しそ(大葉)の独特の香りは『ペリルアルデヒド』という香気成分によるもの。健胃作用があるとされるほか、防腐・殺菌作用により食中毒の予防にも。
にんにくの香りも消化液の分泌を促し、食欲増進につながります。ただし、にんにくやしょうがは刺激が強いので食べ過ぎには注意しましょう」
・夏の不調には… しそ、小ねぎ、しょうが、みょうが
「夏バテや、冷房などによる冷え、夏風邪など夏特有の不調にも薬味が効果を発揮します。
ビタミンEが豊富なしそは、血行を改善するのにお役立ち。しそや小ねぎは粘膜の健康維持に役立つとされる『β-カロテン』が含まれ、免疫力を高めてくれます。
体を温める効果があるしょうがは、冷えが気になる方におすすめ。抗菌作用があるので、食中毒予防にもつながります。
体内の熱を冷まし、解毒の作用を持つみょうがは、夏バテ予防に。独特の香りでリラックス効果も期待できます」

種類豊富な薬味を
季節に合わせて楽しもう

農業技術・保存技術が進んだ現代では、ねぎやしょうが、しそなど、多くの薬味野菜が季節を問わず店先に並びます。しかし、旬の味覚は旬に食べることで、味わいや香りがより一層楽しめるもの。四季折々に楽しみたい薬味の種類について教えていただきました。

春が旬の薬味

「春らしさを楽しむことができる薬味には、木の芽(山椒の若芽)や行者にんにく、クレソンなどが挙げられます。
薬膳にも使われる木の芽は、内臓の冷えを解消し体を温める効果があるとされています。洗って細かく刻み、炊き込みごはんや和え物に使いましょう。
早春に採れる山菜のひとつ、行者にんにくは、刻んで醤油に漬け込んで冷奴にのせたり、そばやうどんの薬味に使うのがおすすめ。にんにくに似た香りがするので、刻んで餃子の具に混ぜてもおいしく食べられます。
ピリリとした辛味が特徴のクレソンは、肉料理のアクセントに。サラダに加えて味わいを足すのもおすすめ」

夏~秋が旬の薬味

夏~秋が旬の薬味
右上から時計回りに、青ゆず、みょうが、しそ、すだち。「青玉」とも呼ばれる青ゆずは、完熟する前のゆずのことで、爽やかな酸味が特徴です。

「旬の食材は、味や香りが良く価格が抑えられるのもメリット。これから夏にかけての薬味は料理に清涼感をもたらし、季節感を演出してくれます。
すだちや青ゆずは、焼き物や揚げ物に搾るほか、サラダや和え物などに。皮は香りが高く、ビタミンCが豊富なので、薄切りやすりおろして余すことなく活用を。
しそは、一年中手に入りますが、初夏~秋にかけてが旬。刻んでつくねや餃子、ごはんに混ぜても。
みょうがは、発汗や血液循環を促進する働きもあるので、夏風邪の予防やひきはじめの対策にもおすすめ。トマトやきゅうり、なすなど夏野菜とよく合います」

冬が旬の薬味

「冬に旬を迎えるのは、せりやゆずなど。鍋物に使われるせりは、薬味にもおすすめです。柔らかな葉っぱの部分は生でも食べられるので、刻んでお蕎麦やうどんに添えても。葉酸や鉄が含まれているので、貧血予防に役立ちます。
ゆずは皮ごと千切りにして、塩とごま油を加え、白身のお刺身と和えると美味。肉料理の仕上げに搾る、皮を千切りにして吸い物、煮物、浅漬けに加えるなど、さまざまに楽しめます」

気軽に楽しめる、 一年中手に入りやすい薬味

一年中手に入りやすい薬味
右上から時計回りに、しょうが、大根おろし、長ねぎ、にんにく。大根は葉っぱ近くから先端に向かって辛みが強くなるので、辛味が苦手な人は上部がおすすめ。

「一年中、安定した価格で店先に並ぶのが、上の写真で紹介した4つの薬味野菜。
しょうがやにんにくは刻んでもすりおろしてもおいしい万能薬味になります。刺身や冷奴、鍋に。オリーブ油やごま油と合わせて和え物にもよく合います。
冬が旬の大根は、夏の大根に比べ辛みが穏やかで甘みが増します。大根おろしには消化酵素が豊富に含まれるほか、『イソチオシアネート』という抗酸化物質を含みます。
長ねぎは臭み消しとして有効な薬味。緑色部分はβカロテンが豊富なので、新鮮なうちにみじん切りや斜め薄切りにしていただきましょう」

作り置きができる
便利すぎる「ミックス薬味」

薬味がおいしくて栄養効果があることは分かるけれど、料理をするたびにいちいち刻むのが面倒くさい…という人は、時間があるときに刻んで混ぜて保存しておくだけの「ミックス薬味」をお試しあれ。お好みの薬味で作ることができますが、今回は夏におすすめの4種を使ったレシピを教えていただきます。

薬味保存の手順

薬味保存の手順を実演する成澤文子(なりさわ あやこ)さん
「用意するのは、しそ、みょうが、しょうが、そして小ねぎの4種類。
しそ、みょうが、しょうがは千切り、小ねぎは小口切りにし、ザックリと混ぜて完成です。量はそれぞれお好みで。苦手な食材は省いてOKです」
冷蔵の場合の保存手順
4~5日程度で食べ切れるようであれば、冷蔵を。合わせたミックス薬味をさっと水にさらし、水気をきってから保存容器に入れます。ポイントは、水気を含ませて固く絞ったキッチンペーパーを保存容器に敷いてからミックス薬味を入れること。こうすると乾燥を防ぐことができます。
お弁当に使用する際は少量をラップに分け取り、保冷剤と共に持参を。食べる直前に料理に添えれば、変色・変質を防ぐことができます。
冷凍の場合の保存手順

使い切るまで時間がかかるなら、冷凍保存を。冷凍保存の場合、水気が残ると水分が凍って使いにくく傷みやすいので、いずれも洗ったあとキッチンペーパーなどで拭いてから刻んでください。
ミックス薬味を冷凍用密閉袋に入れて平らにならし、空気を抜いて金属製のバットの上にのせて冷凍庫に入れると、素早く冷凍できて風味が損なわれにくくなります。
保存期間は2~3週間程度。使う際は凍ったまま麺つゆや味噌汁、炒め物に加えるのがおすすめです。

作り置き保存しておけば色々な料理に活用できる便利なミックス薬味。続いては、たんぱく質と一緒に食べられる、お手軽レシピをご紹介します。

栄養満点!
鶏肉のソテーどっさり薬味のせ

鶏肉のソテーどっさり薬味のせ

材料(2人分)

鶏モモ肉
1枚(300~350g)
小さじ1/4
こしょう
少々
小麦粉
適量
こめ油(またはオリーブ油)
大さじ1~1と1/2
【薬味】
大根おろし
適量
ミックス薬味
適量
すだち
適量
ポン酢
適量
鶏肉のソテーどっさり薬味のせ、手順1
鶏肉は半分に切り、水気をキッチンペーパーなどで拭き取ってから、余分な脂と筋を除く。身が厚い部分があれば切り開き、両面全体に塩・こしょうを振る。皮目に薄く小麦粉をまぶす。
鶏肉のソテーどっさり薬味のせ、手順2
冷たいフライパンに油を広げ、皮を広げるようしっかり伸ばしながら、皮目が下になるように並べる。点火したら弱めの中火にして、じっくり焼く。(時々ヘラで押さえたり、位置をずらしながら焼くときれいな焼き目になります)
鶏肉のソテーどっさり薬味のせ、手順3
皮目がきつね色になったらひっくり返し、両面焼けたら取り出して食べやすい大きさに切る。
鶏肉のソテーどっさり薬味のせ、手順4
器に盛り、大根おろしをのせ、ミックス薬味をたっぷりとのせる。すだちを添え、食べるときにポン酢をかける。

「薬味の爽やかな香りが食欲をそそる一皿。鶏肉は水気をふいてから小麦粉を薄くまぶすことで皮がパリッと香ばしく焼き上がります。おかずにもビールのお供にもなるので、お子さんから大人までおいしく食べていただけると思います。お好みで、鶏肉を豚肉や魚に換えてもOK。薬味はこれでもか! と思うほどたっぷりかけて食べるのがおすすめです」

夏をもっとおいしく!
薬味で豊かな食卓に

料理に添えるだけで、味が引き立つ上に栄養がプラスでき、料理そのものの見た目も華やかになる、うれしい効果だらけの存在、それが「薬味」です。

「薬味を加えることで味に深みが出るため、塩分を減らしても十分においしく食べることができ、減塩効果を得ることもできます。薬味は健康づくりに役立つ上に、食卓を豊かにしてくれる存在。暑さで食欲が減退してしまいがちな夏は、薬味のパワーで乗り切りましょう。そうめんやおそばに添えるだけではもったいないので、ぜひ、さまざまな料理に加えて楽しんでみてください」

INFORMATION

成澤文子
料理家・管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士。「笑顔と健康は食卓から」をモットーに、素材のおいしさを活かした、家庭で簡単に作れる体にいいレシピを開発・提案。特定保健指導や健康講座、各種メディア出演など精力的に活躍中。自身の食卓を紹介したインスタグラムも人気。著書に『作りおき&朝10分 糖質オフのラクチン弁当365』(学研プラス)などがある。
URL/https://www.narisawaayako.com

CONTENTS