おいしく“たべる”。<連載>

知ってる? 本当においしいお米の炊き方

撮影/栗原大輔[Roaster] 取材・文/山下俊太[Roaster]

日本人に一番身近な食べ物、お米。炊飯器のフタを開けた瞬間に立ち込める、おいしそうな香りと白い湯気。それらをまとって現れる艶やかなご飯は、いつ見ても私たちを幸せにしてくれます。

そんな日本人の主食であるお米ですが、本当においしい炊き方は意外と知られていないかもしれません。今回は、5ツ星お米マイスターとして活躍する澁谷梨絵さんが、おいしいお米の炊き方を実演。お米の魅力を最大限に引き出すためのポイントから、必見・太らない食べ方まで教えていただきました。

澁谷さんの持つ「お米マイスター」という資格は、お米に関係する専門職に従事している人だけに受験資格があたえられる、お米の博士号とも言える資格。3ツ星、5ツ星とランクが2つあり、20代女性での5ツ星お米マイスターは澁谷さんが初めてだったそうです。

「お米のことなら任せてください! 今まで多くの品種をいろんな炊き方で食べ比べ、米屋として田んぼにもよく通っています。今はちょうど新米の時期。みなさんには、ここでお教えするお米の正しい炊き方を実践してもらって、“最高のご飯”に出会ってほしいです」

計量カップを“とんとん”

「お米を炊く時に一番気をつけないといけないのが、お米と水の分量です。まずはお米の量。計量カップにこんもりとお米を入れたら、上から押さえてとんとんと軽く打ち付けて整えます」

カップを打ち付けることでお米とお米の隙間を埋めるのが重要なんです。その後、お箸などを使ってすりきれば、これが“ちゃんと計った1カップ”。

“とぐ”ではなく“泳がせる”

「ザルとボウルを使うと効率良く米とぎができます。お米は最初に出合う水をよく吸収するので、研ぐ時の一番初めの水はミネラルウォーターを使いましょう。この時、洗米全体で吸う水の7割を吸収するともいわれます。当然、炊き上がりの味にも大きく影響します」

お米を水に沈めたら、ざっと2〜3回かき混ぜ、すぐにザルを引き上げます。おいしい水を吸わせつつ、一方で、ぬかを含んだ水まで吸わないようにするため。この次の工程からは水道水でもOK。

「『とぐ』とは本来、お米同士をすり合わせてぬかや汚れを落とすこと。現在は精米技術が発達したので、お米をこすらずに『洗う』くらいで十分です。コツは、お米を泳がせるように水の流れをつくること」

ざるを持ち上げて水を切ります。水が透明になるまでとぐと、せっかくの旨味まで一緒に洗い流してしまうので、写真のように水がうすく濁るくらいで米とぎは完了。

「次に水を切ります。炊き上がりが柔らかくなりすぎないよう、余計な水分を取り除きます。常温で3~5分水切りをしましょう。乾燥させてしまうと、米粒が割れてしまうので注意が必要です」

炊飯時の水も、しっかり計量!

「基本的には炊飯器の場合、お米と水の量の割合は1:1。水は、お米を計る時と同じカップを使うクセをつけておきましょう。きちんと計ったなら、釜の目盛りに合わせる必要はありません」

炊飯に使う水もミネラルウォーター、それも軟水がおすすめです。

浸水は冷蔵庫でじっくりと

「お米と水を合わせます。新米は表面が硬いので2時間ほど、古米なら30分しっかり浸水。においが移らないようにラップをして、冷蔵庫に入れます。こうして、炊飯時、低い温度から一気に沸騰させることでお米がふっくら炊けるんです」

冷蔵庫に入れる時間がなければ、水を合わせるときに氷を入れましょう。お水1カップにつき、氷1個が目安です。

「十分に浸水させたら、あとは炊くだけ! 最近の炊飯器はどれも高性能なので、それぞれの設定に合わせたら炊くのはお任せしちゃいましょう。蒸らし機能の無い炊飯器は、炊きあがった後すぐにはフタを開けず、そのままスイッチを切って15分ほど蒸らします。釜の中の湯気の水分をお米に吸わせることで、よりふっくらとした炊き上がりに。蒸らした後は、再び保温の状態にします」

炊けたご飯を十字に切ってほぐす

「蒸らし終えたら、ご飯をほぐしましょう。十字に区切って、ひとつひとつを下から持ち上げるようにするのがコツ。味のムラをなくしていきます」

ほぐすことで味の偏りが整うほか、空気に触れた米粒の周りに膜が張られ、べたつかなくなるというメリットも。

ご飯のよそい方

最後の仕上げに、見た目も味もふっくらになるようによそいます。しゃもじでそっとすくったご飯は、返さずにそのまま置くように器に盛るのがコツ。

これが澁谷さんの推奨する手順で炊き上がった極上のご飯。

ご飯の冷凍保存は熱々のうちに

「ご飯を冷凍保存する時、一旦冷ましてから冷凍庫に入れる人が多いと思いますが、これは間違った保存方法。熱々のうちに急速に冷やすことで、風味が落ちるのを防ぐことができます」

ご飯が熱いうちに、1食分の量をラップに包みます。四角く平らにするのがポイント。

さらにアルミホイルで包みます。急速に冷凍できるうえ、冷凍庫の中のほかの食材を傷める心配もありません。解凍するときは、アルミホイルを取りラップのまま電子レンジ600Wで2分温め、さらにラップを外してお皿に移した後、ふわっとラップをかぶせて再び1~2分加熱。炊きたてのようなご飯に!

※使用する電子レンジの性能によって前後する場合がある。

おいしいおにぎりを作ろう

「ご飯で手軽に作れるものといえばおにぎり! 重要なのは、冷めてもおいしいお米の品種を選ぶこと。「森のくまさん」や「つや姫」などを選ぶといいですよ。『にぎる』だけで作れるおにぎりですが、だからこそお米や炊き方の違いがそのまま味や食感の違いとして現れるんです」

「にぎり固めるのではなく、手のひらの上で形をまとめる程度に。空気を含ませるイメージ。こうすると、食べた時に口の中で優しくほどけます」

「持ち運びにはラップではなくアルミホイル! くしゃくしゃと軽くしわをつけて包みます。きちんと遮光しつつ通気性もあり蒸れないので、ラップよりベタ付きにくい。雑菌も増えにくいので、お米にとって居心地のいい環境なんですよ」

お米は太らない? ポイントは
お米の温度と食べる時間帯

糖質=太るというイメージから、お米を食べるのを控えている人もいるのではないでしょうか。お米って、やっぱり太りやすいの?

「実はお米は太りにくい食材だということは、科学的に証明されています。お米の糖質は20%が脳、70%が筋肉のエネルギーとして使われるので、ほとんど脂肪にならないんです。私も仕事柄、お米を食べる機会がたくさんありますが、お医者さんに注意されるようなことはありません」

お米を食べても太りにくいと聞いて安心! それでも糖質が気になるという人におすすめしたい食べ方が、少し冷ました『常温』のご飯を食べること。ご飯の主成分のでんぷんが腸に吸収されにくくなるのだそうです。そして、食べるタイミング。1日の中でもエネルギー消費が活発な朝に食べるのがいいのだとか。

一緒にいれるだけ!
簡単でおいしい炊き込みご飯

せっかく正しい炊き方を教わったことですし、もう一手間かけて、お米のさらなるおいしさを味わいたい! というわけで、この季節にぴったりの炊き込みご飯のレシピも教えてもらいました。

「炊き込みご飯も、お家で手軽に作れる料理です。具と調味料を一緒に炊くだけ。お米の奥まで味が染み込むのも面白いですよね。今回は秋の味覚が満載の、ごぼうときのこの炊き込みご飯のレシピを紹介します」

ごぼうときのこの炊き込みご飯

材料:(2合分)

  • 2カップ
  • 調味酒
    大さじ1.5
  • きのこ(舞茸、しめじ、しいたけなど)
    120g
  • だし汁(粉末タイプ)
    1.9カップ
  • ひとつまみ
  • 青ネギ
    適量
  • しょうゆ
    大さじ1.5
  • ごぼう
    1/4本
  • すだち(お好みで)
    適量

作り方:

1.洗米し、ザルに上げて5分間水切りする。

2.ごぼうを洗って、笹がきにして水にさらす。きのこ類は石づきを取り、食べやすい大きさにする。

3.炊飯器に米とだし汁、しょうゆ、調味酒、塩を入れてひと混ぜする。
さらにごぼう、きのこをのせて、浸水させたらスイッチオン。

4.炊き上がったら、蒸らし機能の無い炊飯器はすぐにはフタを開けず、そのままスイッチを切って15分間蒸らし、しっかりほぐす。

5.器によそって青ネギをトッピングし、すだちをお好みでしぼれば出来上がり!

「炊き上がりの瞬間のいい香りに顔がほころんじゃいますね。きのこ類の旨味成分や調味料がお米にしっかり染み込んでいて、具材も季節感もたっぷり。食べ始めるとお箸が止まりません!」

軽く焼いた魚を丸ごと一緒に釜に入れる炊き込みご飯もおすすめ。魚の栄養価が、お米にそのまま浸透するそうです。おにぎりやお弁当にもピッタリ。

「家業の米屋を継いで15年。勉強を重ね、今では土と稲を見れば米の良し悪しがわかるようになりました。仕事のうえで必要だったからというのもありますが、私自身が本当にお米が大好きだからここまで続けてこられたのだと思います。日本人の食生活において、お米離れが進んでいますが、炊飯器が高性能になり品種改良も進んでいるので、おいしいご飯が食べられるようになってきているんです。なので、お米を食べなきゃもったいない(笑)。多くの人に、ここで紹介した炊き方を実践してもらい、お米の本当のおいしさを味わってほしいです!」

高級なお米よりも、いつものお米を丁寧に炊いた方がずっとおいしい、と澁谷さん。ご飯なんて、炊飯器にお米と水を入れて、スイッチを押して待つだけだと思ってました。けれど、洗米や浸水、そして炊き上がった後の過程まで含めて全部が、お米にとっての“調理”なのだと身をもって、いえ、舌をもって実感。みなさんもこの機会にぜひ、お米の炊き方や食べ方を見つめ直してみてはいかがでしょう。

INFORMATION

澁谷梨絵
5ツ星お米マイスター/株式会社シブヤ代表
SEとして勤務後、家業の米屋を継ぎ現職に。お米や雑穀を使ったレシピや商品を提案し、メディアにもひっぱりだこ。松屋銀座本店と伊勢丹松戸店にて米・雑穀専門店「米処 結米屋」も展開する。著書に『世界でいちばんおいしいお米とごはんの本』(ワニブックス)。

公式ブログ:https://ameblo.jp/rie-shibuya/

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