“きもち”をたかめる。<連載>

人生が変わる片づけ術! 世界で
話題の“こんまり”メソッドとは?

撮影/藤井由依[Roaster] 取材・文/井口啓子

家でのんびりリラックスしたいとき、仕事に集中したいとき、部屋やオフィスが散らかっていてどうも気分が乗らない…と、ストレスを感じることはありませんか?
モノであふれた現代社会では「片づけ」は誰もが頭を悩ませる問題ですが、そもそも「片づけ」とはいったい何なのか? どうすれば「片づけプレッシャー」から解放されてすっきり心地よく生きられるのか?
そんな、身近なだけに奥深い「片づけ」について、今回レクチャーいただいたのが片づけコンサルタントの武田望さん。実は武田さん、今年スタートしたNetflixの新番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法」で、世界的ブームを巻き起こしている近藤麻理恵(こんまり)さんの公式弟子。そんな彼女だからこそ語れる、片づけが人生に及ぼす影響、そして今すぐ実践できる目からウロコの片づけ術とは…?

持ち物すべてを見極めて
すべてに定位置をつくる

武田さんは、こんまりさんの公式弟子(公式の弟子は、たった2名しかいないとか!)の1人

まず、武田さんが「こんまりメソッド」に出会ったきっかけは?

テレビで偶然、近藤麻理恵(こんまり)の片づけレッスンを受けた後に起業されたり、人生が大きく変化された人の取材を見たことがきっかけです。当時の私は仕事もプライベートもかなりモヤモヤした状況で、実際に混沌とした部屋に住んでいたので、自分も片づけで変われるんじゃないかと思って。それで近藤の「人生がときめく片づけの魔法」という本を読んで、まず自分で実践することから始めました。さらに近藤の個人レッスンを受けたのですが、それが衝撃的で…。もっと世の中に広めたい! と思い、弟子入りを志願したんです。

そもそも「こんまりメソッド(こんまり流の片づけ術)」とはどのようなものなのでしょう?

単なる空間の整理ではなく、言ってみれば「ときめく暮らしを手に入れるためのツール」でしょうか。片づけの過程を通して自分自身ととことん向き合う。これを持っているのが本当に自分の幸せなのか? 自分にとって幸せな状態とは何なのか? 己の気持ちと対話しながら一つひとつ、「ときめくか?」を見極めていくなかで決断力が磨かれ、大切なものが明確になっていく。そして片づけが終わった後には、大好きなモノに囲まれてときめく人生を歩めるようになる。それが「こんまりメソッド」です。

いわゆる整理・収納術というよりは、片づけを通した自己改革のような?

そうですね。あくまで「幸せな暮らし」を手に入れることが目的で、片づけはそのための手段です。
具体的な手順としてはまず自分の理想の暮らしをイメージします。その際に重要なのは「どうせ狭い家だから」といった制限をかけず、自分はどんなものに囲まれて、どんなふうに過ごすのが幸せか、具体的にイメージすること。インテリア雑誌から憧れの部屋の写真を切り取ってもいいし、そこで過ごす時間のタイムスケジュールを書き出してみるのもいいですね。

その上で、自分の持ち物をいったんすべて1ヶ所に集めて、ときめくか、ときめかないかと心の基準でひとつずつ見極めていきます。そこで大事なのが、先ほど思い描いた理想の暮らしにマッチするか、それを手にした時に「自分がときめくかどうか」を基準にすること。「高かったから」「珍しいものだから」といった理由でモノを手放せない人は多いですが、それは他人が決めた価値観。自分の基準で選んでいいのです。

実は子供の頃から片づけが苦手だったという武田さん。だからこそ、リアルな説得力がある!

正しい片づけ方をすれば
二度とリバウンドしない

自分の理想とする暮らしにフィットしないものは、手放してよいということでしょうか?

そうなんです。逆に他人からは不要に見える用途不明のオブジェも、自分がときめくのであれば堂々と残してOK。とことん自分の価値観を大切にしてよいのです。
ちなみに、すべてのものを見極めるのにも手順があって、「衣類」→「本類」→「書類」→「小物類」→「思い出の品」という順番で手を付けるのがベストです。「思い出の品」は誰でも判断が難しいものなので、それを最初にすると思考が停止して、その後の作業が進まなくなることが多い。でも洋服だと毎日身に付けていて感覚で選びやすいので判断しやすいんです。徐々にステップを踏みながらモノを見極めていくなかで、決断力がどんどん磨かれていって、当初はすごく時間がかかっていた方でも、最後の方はサクサク進むことが多いですね。

そうやって自分がときめくものだけを手元に残したら、次はすべてに定位置を決めます。そもそも片づけが苦手な人は、モノの定位置を決めていないことが多い。いちど定位置を決めてしまえば、いくら散らかしても元に戻すだけなので、ぐっと片づけのハードルが低くなるんです。

なるほど、トータルでどれくらいの時間が掛かるものなのでしょう?

人にもよりますが、私がお手伝いした方の場合は、2ヵ月から、長い方だと3年ぐらいでしょうか。最初に理想の暮らしを思い描いて、自身のすべての持ち物を見極めて定位置を決めるまでの一連の作業を、私たちは「片づけ祭り」と呼んでいるのですが、一度完璧に「片づけ祭り」を終わらせた人は、モノの手放し方や管理の仕方が感覚で身に付いているので、その後にモノの出入りがあっても自分の適正量を保てるようになるのです。「祭り」の片づけは、できるだけ短期で一気に完璧に終わらせる。そのあとは、使ったら戻すという「日常」の片づけを行うだけです。

そう聞くとがぜん片づけたくなってきました!

片づけが苦手だと思われている方は多いと思いますが、こんまりメソッドを試して、私自身も「正しい片づけ方」を知らなかっただけなんだなって気付きました。自分が持つすべてのモノをチェックするのは大変なようですが、自分がときめくものだけに囲まれた暮らしは想像よりもずっと快適で、それだけで心弾む毎日が過ごせるので、未来の自分のための先行投資と思ってぜひ一歩踏み出してみましょう。

「ときめくモノは手で触れて、愛でてあげるとますます大好きに」と笑顔でレクチャーする武田さん。その楽しげな姿に、片づけ嫌いの人もついつい試してみたくなる!

今日からできる、
3つの片づけレクチャー!

武田さんの話を聞いていると、片づけたくてウズウズしてくるから不思議です。そこで、思い立ったらすぐトライできる、身近な片づけ・収納のコツを教えていただきました。

1. バッグの中身整理

「バッグの中をキレイに保つためには、毎日帰宅したら中身をすべて出すのがベスト。バッグも劣化しにくくなるし、その日の気分に合わせていろんなバッグを楽しめるようになりますよ」。

まず「毎日持ち歩くもの置き場」となるボックスを用意します。箱は基本的に「ご自身がときめく箱」であれば何でもOK。よく使用されているのはA4の書類が入るくらいのサイズで、深さはお好みで。雰囲気のよいカゴや仕立てのいい箱など、自分が目にしてときめくようなものにすると毎日の作業も楽しくなる!

すべてのものを一度並べてみることで、普段自分がなにを持ち歩いているのか明確にヴィジュアル化されるので、思考の整理にもなります。街で配っていたティッシュやレシート、お菓子の包み紙などが入っていることも!? 毎日身軽に行動できますよ。

ボックスの置き場所は、ご自身が使いやすいところでOK。よく設置される場所は、クローゼットやリビングの棚の一角。空のバッグは横に置いても、その都度クローゼットに戻しても。

2. 自宅やオフィスでの書類の整理

「『こんまりメソッド』では、書類は『全捨て』が前提! もちろん、大事な書類は絶対に捨ててはいけませんが、例えば『これから目の前にある書類が全部捨てられてしまうとしたら、どれを残したいと思うのか?』というくらいの気持ちで選ぶこと。そうすることで、本当に大切な書類だけを残すことができます。ただし、オフィスの書類は会社のルールや法律をしっかり確認して。自分で判断できないものは、判断できる人に必ず確認を」。

まずは前述の通り、「全捨て」を前提に各書類の見極めから。それが済んだら次は残った書類の収納です。書類の収納は「立てる」が基本。寝かせると古いものが埋もれがちになります。おすすめは立てるタイプの書類ボックス。見た目がときめくものだとなお良いですね。

書類のカテゴリーは大きく分けて2つ。「未処理」か「保存」か。手元の書類を2種に分けて、それぞれのボックスに入れます。まだ開封していない郵便物なども「未処理ボックス」へ。「未処理のもの」は、現在作業中のものなら終わったら手放し、また、保存したい場合は保存用のボックスや本棚の一角など書類を保管できるコーナーに移動させます。未処理ボックスは、溜め込まないことがポイント!

さらに「保存するもの」は、「使用頻度の高いもの」と「低いもの」に分けます。たとえば契約書など、重要ではあるけれど取り出すことがほとんどない使用頻度の低いものは、クリアフォルダなどでジャンル分けしてざっくり保存。レシピの切り抜きなどは、使用頻度の高いもの。頻度の高いものは、ブックタイプのファイルに入れて見やすくするのもおすすめです。

3. クローゼットの整理

「クローゼットに掛けるものは、コートやスーツ、そしてデザインシャツやワンピースといったハンガーを使った方が良い素材のもの。その他はアイテム別に『たたんで、立てて収納』が基本です。自分の洋服が一覧できるとコーディネイトもしやすいし、何より収納力がアップしてスッキリ」。

どんなアイテムでも長方形になるようにたたむのが基本です。手のひらでなでながら、自立するようにキチッとたたむと折りじわもそれほど気になりません。

同じ引き出しに収納するものは長さを揃えて。いつもありがとう…という気持ちを込めて、丁寧にたたんでいきます。

手前が薄い色で奥が濃い色…というふうにグラデーションで並べると見た目もきれいだし、自分がどんな色の服を持っているのか把握しやすいですよ。

ちなみにクローゼットの場合は左側に濃い色で、長い丈のコートやワンピースを配置。右に行くにつれて丈が短く、軽やかになるように並べます。見た目が右肩上がりになっているとうれしい気持ちがアップするのでお試しあれ。

片づけは一番手軽な
生き方&働き方改革!

確かにこれだけ試しただけで、心がすっきりクリアになった気がします。実際、片づけによるメンタル的作用はあるのでしょうか?

私の場合は片づけを終えたとき「自分はこれだけのもので幸せに生きていけるんだな」って、「足る」を知った気がしました。それまで、たくさんのものに囲まれていても自分には何もないような満たされなさがあったんですが、思い出の写真を見て少ないけれど大切な人に囲まれているんだなとか、過去の仕事の書類を整理しながらいろいろあったけど自分を育ててくれた場所だなとか、手放したぶんだけ心が満たされるような感覚を実感しましたね。

あとは判断力が磨かれて、自分に自信が持てるようになること。自信がつくとたとえ嫌なことがあっても前向きになれるし、そうすると状況も自ずとプラスに変わってくるんです。かつて私が職場の人間関係に悩んでいたときも、自分が片づけを終えてときめいて過ごしていると、自然と関係性がよくなってきたことがありました。自分が変わることで世界が変わると信じています。

それは説得力があります。片づけメソッドは職場でも大いに活用できそうですね。

はい。私自身も自分の家の片づけを終えたあとに、当時勤めていたオフィスを片付けました。家での理想の暮らしの描き方は、理想のオフィス環境や働き方を考えることに置き換えられます。家で実行した片づけの手順通り、まずは自分の所有物(デスク周りなど)から始めるのがスムーズです。

家庭や、店舗など共有スペースが多い職場の場合、周りをうまく巻き込むコツはありますか?

まず、自分の片づけを終わらせること。家では自分の所有物、オフィスでは自分のデスク周りなどから片づけ始めましょう。他人のことが気になるのは、自分ができていない気持ちの投影です。自分が片づけを終わらせてときめいて過ごしていると、家族や職場の仲間に連鎖することも多いです。また、共有部分の片づけはとにかく「コミュニケーション」が大事。相手の意見を尊重してみんなが気持ちよく過ごせるよう、話し合いながら整えていきましょう。

一人ひとりが快適な空間になれば、みんながときめいて暮らせますし、オフィスにおいては作業の生産性も上がります。職場の雰囲気が良くなったというお話もお聞きします。見た目にもスッキリして、モチベーションがアップ…と、本当にメリットしかない! 片づけは、一番手軽に始められる生き方改革であり、働き方改革なんです。

INFORMATION

武田望
2011年に近藤麻理恵(こんまり)さんの片づけレッスンを卒業後、公式弟子として師事。こんまりさんの講演や取材などさまざまな現場に同行して直々に片づけスキルを学ぶ。現在、片づけコンサルタントとして全国各地で講演や個人レッスンを行う傍ら、日本および海外の片づけコンサルタントの養成に携わっている。
URL/http://takedanozomi.com

CONTENTS