“きもち”をたかめる。<連載>

人の印象は、髪が決め手!?
今気を付けたいヘアケアのこと

撮影/藤井由依(Roaster) 取材・文/岡林敬太

顔や肌のこと以上に、普段からヘアケアに気を配っている人は、少数派ではないでしょうか。でも実は、人の第一印象の大半は「髪の状態」で決まるそうです。髪のお手入れは清潔感に直結するので、接客業なら、なおのこと軽視できません。そこで今回は、毛髪診断士の元井里奈さんをお招きして、男女問わず気を付けたい「髪と頭皮のケア方法」を教えてもらいました。洗う、乾かす、ブラッシングする。髪にまつわるルーティンを少し見直すだけで、ガラリと印象がアップするかもしれませんよ。

服装やメイクと同じくらい
髪のお手入れって大切!

「人の第一印象の7〜8割は『髪型で決まる』と言われています。なぜなら、髪は頭部の大部分を占め、真っ先に視界に入るから。髪の状態は、採用面接の結果にも影響を及ぼすというデータもあるんですよ」と語るのは、毛髪診断士の元井里奈さんです。

「つまり、せっかくメイクをキメて着飾っていても、髪がパサついていたり、傷んでいたりすると、印象は台無しになりかねないということ。ですから接客などで人と会う際は、服装やお化粧よりも、まずヘアケアに力を入れたほうがコスパがいいんです」

毛髪診断士とは、マイクロスコープなどを使って毛髪の状態を的確に観察する技術を習得し、毛や頭皮にまつわる悩み相談にアドバイスできる人のこと。元井さんは“剛毛・多毛・癖毛”の3重苦に悩まされた思春期のコンプレックスをバネに、毛髪診断士の資格を取得したそうです。

第一印象を大きく左右する髪。良好な状態に保つために、私たちは日常の中で何を心がければよいのでしょうか?

「一番大事なのは、洗髪方法です。詳しくは後述しますが、ほとんどの人が髪を正しく洗えていないので、まずこれを改善することが先決となります」

正しい洗髪方法を会得した上で、以下の生活習慣にも気を付けるとよいのだとか。

「まず、喫煙を控えること。タバコに含まれるニコチンや、煙が生み出す活性酸素は、髪によくないと言われています。次に、1日7時間程度の睡眠を確保しましょう。就寝中は成長ホルモンが多く分泌されるため、1日の中で最も髪を成長させる時間帯。薄毛や切れ毛などの悩みを抱えている方は、質の高い睡眠をとることが改善への近道となります。また、髪の成分の70%以上はタンパク質からできているため、食生活では肉、魚、豆類などのタンパク質を欠かさず、その他の栄養素もバランスよく摂るとよいとされています」

朝シャンは要注意。
1日1回、夜に洗髪を!

ヘアケアで一番大事なのは洗髪方法とのことですが、まずはその「適切なタイミングと頻度」を教えてもらいました。

「洗髪するタイミングは『夜』がベストです。スッキリして寝たほうが睡眠の質が向上し、髪の育成に繋がるからです。また、夜に洗うと、朝までの間に頭皮から皮脂が分泌され、それが髪全体を保護してくれます。皮脂は悪者にされがちですが、実は紫外線や乾燥から髪や頭皮を守ってくれる大切な存在なんですよ」

“朝シャン”してから出勤する人も多いでしょうが、「それはノーガードで出かけるようなもの。洗髪してすぐは、まだ頭皮から皮脂が出ていないため、外出中に髪が傷みやすい」のだとか。また、朝の洗髪はどうしても急ぎがち。もしどうしても“朝シャン”がしたい人は「時間をしっかり確保して、すすぎと乾かしをきちんと行う。そしてノーガード状態を防ぐためにも、外出時は日傘をさしたり、室内では空調の頭部への直撃を避けるなどを意識し、髪と頭皮を守ってあげてください」

また、皮脂を取りすぎることから髪を洗いすぎるのもダメで、「夏場でも1日1回、もしくは2日に1回、洗髪すれば十分」と元井さんは言います。

どんなシャンプーを使えばいいのかについては、「日本製の商品は大方、高い安全基準をクリアしているので、どれを使っても基本的には大丈夫。まずはお手元にあるシャンプーで正しい洗い方を実践することから始めてみましょう」とのこと。

それではさっそく「正しい洗い方」の手順を、元井さんの解説とともに見ていきましょう。

まずは髪を濡らす前に、頭皮のブラッシングから。ブラッシングであらかじめ頭皮の汚れを浮かせ、さらに髪の絡まりを解いておくことで、洗髪がスムーズに行えます。「先端が丸い竹製のスカルプブラシが頭皮に優しいのでオススメです」

STEP1

髪の流れとは逆方向にもブラッシングして、頭皮を優しくマッサージ。そうすることで、髪に隠れた部分の汚れが落ちやすくなります。ブラッシングで汚れを浮かせたら、シャンプーをつける前にお湯だけで髪と頭皮を「予洗い」しましょう。「予洗いだけでも、汚れの7〜8割を落とすことができます」

STEP2

次に適量のシャンプーを手の平に乗せたまま泡立てます。ぬるま湯で手を濡らし、空気を含ませるように両手でこすり合わせると泡が立ちやすいです。シャンプーの適量は、男性の短髪は半プッシュから1プッシュ。女性のショートは1~1.5プッシュ、ミディアムヘアは1.5~2プッシュ、ロングなら2~3プッシュ程度。「髪につけてから泡立てるのはダメ。それだとシャンプーをつけすぎてしまったり、全体に行きわたらなくなったりするからです」

STEP3

シャンプーの泡は、髪の表面につけるのはNG。「髪の発育にとって一番大事なのは『頭皮』です。頭皮はいわば、髪を作る畑。重点的に洗うべきは頭皮なので、髪の内側にシャンプーの泡をつけるように心がけましょう」

STEP4

シャンプーの最中は爪を立てず、指頭(写真参照、ピアノの鍵盤を叩くのと同じ指先の箇所)を使いましょう。「強い力を加えるのもダメ。例えるなら、桃を触るようなソフトタッチで、頭皮を揉みながら洗います」。シャンプー後のすすぎは、シャンプーよりも時間をかけること。「フケ・かゆみ・においといった髪や頭皮のトラブルの多くは、すすぎ残しが原因です。頭頂部から襟足までまんべんなく、いろんな角度からシャワーを当て、泡をしっかり流してください」

STEP5

すすぎが終わったら、水気をある程度切り、トリートメントやコンディショナーをつけます。「トリートメントやコンディショナーは、頭皮につけるのはNG。フケやかゆみの原因になることもあります。できるだけ『耳から下』の髪の部分のみに優しく塗り込んでください」。短髪の男性は、「シャンプーだけでも十分」とのことです。

ところで、「リンス」と「トリートメント」と「コンディショナー」には、どういう違いがあるのでしょうか?

「実は今、それらの言葉の定義ははっきりしていないんですよ。強いて分類するなら、リンスは髪の表面をカバーするもの。トリートメントは髪の中に浸透させるもの。コンディショナーはその中間といったところ。でも、今のトリートメントは中に浸透しつつ表面もカバーしてくれる商品が多く、リンスも中に浸透するようになっていたりするので、その差は曖昧。結論としては、『どれも同じ』と捉えてもらって結構です。ただし最近の傾向として、『リンス』を謳う商品は減ってきていますね」

また、トリートメント、コンディショナー、リンスは髪につけるもので、直接的に頭皮の健康に関わるものではないので、「基本的にはフィーリングや、香り・仕上がりの好みで選んでOK」とのことです。

STEP6

トリートメントやコンディショナーをつけてから、目の粗いコームで上から下へとかしてあげると、浸透率が一層アップします。「すすぐ際は、成分が頭皮につかないように気を付けてください」

薄毛が気になる方は
頭皮マッサージが効果的

「頭皮は髪を作る畑」と元井さんが言う通り、頭皮を効果的に“耕す”と、髪の成長が促されます。もし時間に余裕がある場合は、上記の洗髪プロセスの「シャンプー」の途中で、「頭皮マッサージ」の時間を加えてみるとよいでしょう。

「頭皮マッサージと聞くと、みなさんガシガシ強くこすりがちですが、それは頭皮を傷つけるからダメ。指頭を頭皮に密着させたまま、頭皮自体を動かすように優しくマッサージしましょう。これを習慣化すると、血流が良くなり、髪の成長が促されます。さらに毛穴の汚れも落ちやすくなりますよ」

特に薄毛に悩む方は、これを積極的に取り入れてみましょう。

指頭と頭皮との接点を固定したまま、指で頭皮をずらすようなイメージで上下にマッサージ。「毛穴のストレッチになり、髪にもいい影響を与えます」。接点を少しずつズラしながら、頭頂部から襟足までまんべんなくマッサージしましょう。

上記の正しい洗髪方法を取り入れても髪や頭皮の調子が良くない場合は、使っているシャンプーを変えてみるのも一つの方法です。

「ただし、髪や頭皮の状態はマイクロスコープで覗いてみないと詳しくはわからないので、『こういう人にはこういうシャンプーがいい』と一概に言うことはできません。毛髪診断士に髪や頭皮のコンディションを診てもらい、アドバイスを仰ぐのがベストです」

ちなみに元井さんの診断歴によると、女性は35歳くらいから皮脂の分泌量が減るため、その頃にシャンプーの見直しをおすすめするケースが多いそう。「低刺激で皮脂を取りすぎないアミノ酸系・ベタイン系のシャンプーに切り替える方が多いですね。高級アルコール系や、石鹸系のシャンプーは洗浄力が強いので、35歳以上の女性にはあまりおすすめしていません」。一方、男性は、年齢を重ねても皮脂の分泌量はあまり変わらないため、「シャンプーのチェンジは女性ほど意識しなくても大丈夫」

自然乾燥は絶対ダメ!
正しいドライヤーの使い方

洗髪後も油断は禁物。髪の乾かし方にも重要なポイントがあると言います。「髪は、お風呂から出たらすぐに乾かしてください。なぜなら湿っている状態が続くほど雑菌が繁殖し、フケ・かゆみ・においの原因になるからです」

ドライヤーを使う前に、まずはタオルドライ。「髪は濡れているときが一番傷みやすいので、いきなり加熱や摩擦をするのは禁物です。タオルで髪を包み込み、水分の大半を優しく吸い取ってあげましょう」

このように髪の水分をグシャグシャと拭き取るのはご法度! 「濡れた髪は傷みやすく、摩擦は大敵だからです」
正しくはこちら。タオルで髪を包み込み、水分を吸い取ります。「くれぐれもこすらないように。両手で軽く押さえるだけでOKです」

タオルドライのあとにそのまま自然乾燥させるのも、雑菌が繁殖しやすいためNG。「ドライヤーでしっかり乾かしたほうが、雑菌が繁殖しにくく、髪のトラブルを予防できます」

とはいえ、高温のドライヤーを至近距離から長時間当てるのは禁物。「最低でも20センチは離してください。そして全体の湿り気が完全に消えるまで乾かしましょう。長い髪をムラなく上手に乾かすには、まずは乾きづらい根元からドライヤーを当て、次に中間部分、最後に毛先の順で乾かすといいです」

最後に、ドライヤーを冷風に切り替えて、キューティクルを整えたら完了です。

ドライヤーの温風はたいてい100℃以上なので、近くから当てると髪が傷んでしまいます。「最低でも20センチは離して、根元→中間→毛先の順に乾かしていきましょう。温風が100℃以下に設定されているドライヤーだと、予め高温によるダメージを予防できるのでおすすめです」
髪が乾いたら、温風から冷風に切り替えて、キューティクルを整えましょう。「キューティクルは根元から毛先に向かってウロコのようになっているので、最後に上から下に向けて冷風のドライヤーを当てると、濡れて開いていたキューティクルがキレイに閉じてツヤ髪に繋がります」
日常の正しい髪のとかし方も紹介。「ステップ・ワイズ・ブラッシングと呼ばれる方法ですが、まずは毛先、次は中間部分、最後は根元付近……といった具合に、ブロック分けして髪をとかします。ブラッシングのストロークが長いほど摩擦によるダメージが大きくなるので、それを短くすることで美髪をキープするテクニックです」

キレイな髪をキープすれば
仕事への集中力もアップ!

まだまだ暑い日が続きますが、「晩夏のヘアケア対策」はどうすればよいのでしょうか?

「9月に入っても紫外線は強いです。髪への紫外線のダメージは蓄積されるものなので、髪を健康的に保ちたい方は、日中外を歩く際に日傘を差すとよいでしょう。帽子も紫外線対策には有効です。晩夏に限らず、1年中日傘や帽子で紫外線をブロックすれば、美髪をより一層維持しやすくなりますよ」

「今回お伝えしたヘアケアを習慣化すれば、髪や頭皮にまつわるたいていの悩みは軽減されるはず。改善の傾向が見られない場合は、一人で悩まず、毛髪診断士などにご相談ください」と元井さん。

最後に「PTRの勤務中のヘア管理」について教えてもらいました。

「お客様の中には、『髪そのものが、不潔なものである』と捉える方もいるかもしれません。ですから、飲食の現場で髪に触るのはご法度だと思います。男女ともに、接客中に髪を触る必要のないヘアスタイルにセットするとよいでしょう。具体的には、目や耳にあまりかからない髪型にするのが一番。あとは、フケや抜け毛が服に付着していないか、定期的にチェックすることも忘れずに」

髪を健康に整えておけば、好印象を与えられるほか、仕事にも集中して取り組めるはず。お客様のため、そして自分自身のために、今日からあなたも正しいヘアケア習慣を始めてみませんか?

INFORMATION

元井里奈
毛髪診断士、美髪研究家、サプリメントアドバイザー、メノポーズ(更年期)カウンセラーとして活動。毛髪、栄養学、女性ホルモンに関する幅広い専門知識をもとに、抜け毛や薄毛に悩む女性1,000人以上のカウンセリングを担当。女性用育毛サプリメント「美ルート」をプロデュースするほか、ヘアケアに関するコラムの執筆、監修なども行う。
URL/https://ameblo.jp/rinamotoi/

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