“きもち”をたかめる。<連載>

どこが良い?どう活用する?
ジェネリックという選択肢

撮影/菅原景子(Roaster) 取材・文/岡林敬太
 イラスト/かざまりさ

ここ数年、「ジェネリック医薬品」という言葉をよく耳にするようになりました。薬局で薬剤師さんに「ジェネリックにしますか?」と聞かれたことがある人もいるはず。しかし、それが一体どういう薬なのかを熟知した上で活用できている人は少ないようです。正しく知って賢く選べば、何かとメリットもあるジェネリック医薬品。これからの新しい選択肢に加えるべく、今こそ学んでおきましょう。

新薬の半額程度なのに
成分も効き目も同等!?

アメリカで誕生し、世界的に普及が進むジェネリック医薬品(以下、ジェネリック)。日本でも6年前、厚生労働省が「ジェネリックの使用率を、2020年の9月までに数量ベースで80%に高める」という目標を掲げ、それにほぼ近い数字に到達したとみられています。

まず、国がジェネリックの普及に力を入れる理由を簡潔に説明しておきましょう。

日本の医療費は、医療機関の窓口で支払う自己負担額が約3割(※一般的なビジネスパーソンの場合)で、残りは皆さんの税金と健康保険料でまかなわれています。しかし、高齢化や医療技術の高度化が進む日本では医療費が年々増え続け、国や健康保険組合の財政を圧迫。このままだと、増税や保険料の引き上げに歯止めがかからなくなる可能性も出てきたため、医療費を抑制する切り札の1つとして、低価格なジェネリックが推奨されているのです。

「なぜジェネリックは低価格なのか?」「“安かろう悪かろう”ではないのか?」といった疑問や不安を抱く人も中にはいることでしょう。そこで今回は、ジェネリックの正しい知識と活用法を、薬剤師の三上彰貴子さんに教えてもらいます。

「薬剤師×MBA」という異色のキャリアをもつ三上さん。会社経営をする傍ら、薬剤師向けの講師、薬科大学非常勤講師などとしても活躍中です。

そもそもジェネリックとは何なのでしょう?

「新しい成分の有効性・安全性が確認された後、国の承認を受けて国内で最初に製造・発売された薬のことを『新薬(先発医薬品)』と呼びますが、新薬の特許が切れた後に、その他の製薬会社が後発で製造・販売する医薬品のことを『ジェネリック医薬品(後発医薬品)』と言います。ジェネリックは『新薬と同じ有効成分を含んでおり、同等の効き目がある』と国から認められた薬で、新薬よりも低価格なのが特徴です。医療現場では、それぞれ『先発』『ジェネリック』と呼んでいます」

ジェネリックと新薬の関係はご覧の通り。ちなみにジェネリックとは、英語で「一般的な」という意味。後発医薬品は欧米では一般成分名(generic name)で処方されることが多いため、「ジェネリック」という呼び方が定着したそうです。

ジェネリックの
メリットとデメリットは?

では、ジェネリックを使用するメリットを教えてもらいましょう。

「まず、安さです。平均すると、ジェネリックの価格は、新薬の半額程度。新薬を1種開発するには、長い研究開発期間を経て、最近では約800〜1,500億円かかると言われていますが、ジェネリックの場合は、新薬ですでに有効性や安全性が確認された成分を使って開発や製造をするため、コストがそこまでかからず、結果、安く販売することができるのです。また、後発の利を生かして、『使いやすさ』や『飲みやすさ」』といった付加価値も提供できます。例えば、塗り薬をスプレータイプに変える、苦い薬をフィルムでコーティングする、味を変える、口の中に入れればすぐ溶けるようにする、などですね」

しかし、人によっては、ジェネリックにデメリットを感じることもあるそう。

「新薬とジェネリックでは、使用感や味が若干異なります。新薬からジェネリックに切り替えてみたものの、『貼り薬が剥がれやすいor逆に剥がれにくい』『飲み薬の味が合わない』などの理由で、『やはり新薬に戻したい』という患者さんも中にはいらっしゃいますね」

「『効果が同じなら安いジェネリックがいい』という患者さんもいれば、『高くても新薬がいい』という方もいます。そこは各々の価値観でしょう。ただ、『高くても』と言っても自己負担は3割で、7割は税金や保険料を使っているわけですから、日本の将来を考えると、ジェネリック派が増えることが望ましいです」

三上さんいわく、ジェネリックが特にオススメなのは、「新薬の価格が高い薬」と「長期にわたって飲む可能性のある薬」だとか。

「例えば、水ぼうそうやヘルペスなど、ウイルス感染の治療に使われる新薬は高価なので、ぜひジェネリックをご活用ください。新薬だと1週間分で5,000円程度しますが、ジェネリックだと2,500〜3,000円程度で済みます。あとは、高血高血圧や痛風、コレステロールの薬といった慢性疾患や、また抗がん剤など長期間飲み続けなければならない薬も、ジェネリックなら新薬の25〜50%程度の価格で入手できますから、医療費をかなり節約できると思います」

ところで、今の季節は花粉症に悩む人が多いですが、花粉症の治療においてもジェネリックはオススメでしょうか?

「花粉症の代表的な新薬であるアレグラやアレジオンなどは、すでにジェネリックが出ています。決まった新薬を毎年飲んでいて、それが身体に合っている人は、成分が同じで効果も同等のジェネリックへの切り替えを検討してもよいかもしれません。また、これは花粉症に限った話ではありませんが、もう一つの選択肢として紹介しておきたいのが、近頃日本でも流行り始めた『オーソライズド・ジェネリック(以下、AG)』です。AGとは、新薬の特許期間中に、新薬メーカーが特定の会社に許可をして先行販売したジェネリックのことです。新薬より安いのはもちろん、有効成分だけでなく、添加している成分や製造方法、さらには作っている工場のラインも同じことが多いので、切り替えがさらに安心です」

AGは薬局によっては取り扱いがないこともあるので、電話か窓口にてご確認を。

「どの薬を選ぶか?」を
患者と薬剤師が決める時代

ジェネリックを手に入れるにはどうしたらよいのでしょう?

「医療機関で処方せんをもらい、薬局の窓口に行くと、たいてい問診票か口頭で『ジェネリックを希望しますか?』と聞かれるので、『はい』と答えればOKです。中には、患者さんに何も聞かずにジェネリックを出す薬局もありますね」

厚生労働省の指導により、近年はメーカーが決めた薬の製品名ではなく、有効成分の名前だけを記した「一般名処方」を行う医師が増えているそう。一般名処方とは、「この有効成分の薬であれば、どの銘柄の薬で調剤しても良い」という指示のことです。例えば、メーカーが考えた製品名は「ロキソニン」ですが、有効成分の一般名は「ロキソプロフェン」といった具合です。

「ただし、特許が切れておらずジェネリックがまだ発売されていない薬や、医師が治療上の理由で新薬を使うことを指示している場合は、ジェネリックを選ぶことができません」

なお、SBJ健康保険組合では「ジェネリックお願いカード」もご用意しています。医療機関で受診する際や薬局で処方してもらう際に、健康保険証や診察券などと一緒にこのカードを提示すれば、ジェネリックを処方してほしいという意思を簡単に伝えられます。 以下からダウンロード&印刷して、ぜひご活用ください。
https://www.starbucks-kenpo.or.jp/contents/generic/generic.html

かつてはジェネリックでも医師が薬の銘柄を決めていましたが、6〜7年前から一般名処方が主流に。「新薬にするか? それともジェネリックにするか?」を、薬局と患者が選べる時代になったのです。

さて、ここからは、薬と関わっていく上で知っておいた方がよい情報をいくつか教えてもらいます。まずは「長期処方せん」について。

「長期にわたって薬を飲む必要がある花粉症や慢性疾患(腰痛、水虫、高血圧など)で、症状が安定している場合は、医師に『長期処方せん』を出してもらうと費用を抑えられます。病院に繰り返し通うと、その都度、診察料、処方せん発行料などに加えて、ご自身の交通費も時間もかかります。そんな時は『長期処方をお願いできますか?』『2〜3ヶ月分まとめて薬をください』などとお願いすれば、通院回数が減って、薬代以外の負担額を軽減できるでしょう」

ただし、一度購入した薬は返品できないので、初めて飲む薬で1ヶ月など期間が長めの処方せんが出たなら、薬剤師に「分割処方」をお願いするのも選択肢のひとつになると言います。

「分割処方とは、“お試し期間”みたいなものですね。例えば新薬からジェネリックへの切り替えを検討している場合には、処方せんを持っていった薬局で『初めて飲むジェネリックなので、まずは1週間分だけ試していいですか?』と相談すればOK。数日飲んでみて特に問題なければ、そのままジェネリックを続けることも可能ですし、もう1週間試したいのであれば、さらに1週間分の分割をお願いすることも。つまり、薬を飲みながら考えることができるわけです。その都度薬局に受け取りに行ったり、薬剤師と体調変化などの話をする必要がありますが、こまめに薬剤師ともコミュニケーションが取れるので安心かもしれません」

「病院や薬局の費用明細を見てみましょう。薬代だけでなく、相談料や薬の管理費用も含まれています。お金を払っていますので、もし不明な点があれば、医師や薬剤師に遠慮なく相談して構いません。『もっと安いジェネリックはないか?』『その新薬のジェネリックは出ているか?』『薬の数が多いけれど減らすことはできないか?』といった質問にも答えてくれると思います」

薬の保管方法と
お薬手帳の活用法

ジェネリック・新薬に関わらず、処方薬にも市販薬にも、それぞれ「使用期限」があることもお忘れなく。

「例えば処方された袋に『1日3回、5日分』と書かれていたら、5日で使い切るのが原則です。使い残しが出てしまった時は『前回の薬が10錠残っている』などと伝えれば、薬局でロット番号から使用期限を確認して、その分、次回の処方量を減らしてもらえることもあります。ただし、古い薬は効果が薄れたり、劣化や変質をすることで想定外の副作用が出る恐れもあるので、なるべく指定の日数で使い切りましょう。市販薬については、小分けの袋を開封していなければ、パッケージに記載された使用期限に従ってください。なお、使わなかった薬は、自治体のゴミのルールで捨てるか、大量にある場合は一度薬局で相談してみるのもいいでしょう」

薬の「保管場所」にも気を付けましょう。

「薬は冷暗所(直射日光の当たらないところ)で保管するのが基本ですが、冷蔵庫は冷暗所に含まれないので要注意。座薬や赤ちゃん用のシロップ薬など冷蔵保管が必要な薬もありますが、特に指定のない薬に関しては、室温(1〜30℃)で保管しましょう。錠剤や粉薬、カプセル剤などは冷蔵庫で冷やすと中で水滴ができたり、目薬などの液体は結晶化し、質が変化してしまうことがあります。湿布薬も、冷蔵庫で冷やすと気持ちいいですが、乾燥して粘着力が弱くなってしまう場合が。また、お風呂場の近くや夏の車内など、高温多湿になりやすい場所に放置するのも避けてください。成分の劣化や変質の可能性があるからです」

そして最後は、「お薬手帳」の活用法について。

「より安全かつスムーズに薬を処方してもらうために、1人1冊、お薬手帳を持つことをオススメします。お薬手帳とは、これまでに自分が服用してきた薬や副作用経験などを記録する手帳のことです」

薬局に行くと無料でもらえるほか、ネットなどで安価に購入することもできるお薬手帳。自分で記入する基本情報は、住所、氏名、アレルギー歴、副作用歴など。そのほか、医師や薬剤師への質問や、ジェネリックに関する希望を書き込んでもOK。処方された薬の情報ついては、薬局が都度シールで貼るなどして記録してくれます。市販薬や健康食品は自分で記入しておくと、相互作用のチェックがスムーズです。

お薬手帳を持っていると、どんなメリットがあるのでしょう?

「まず、医師や薬剤師に手帳を見せれば、副作用や飲み合わせのリスクを軽減できます。また、口頭で説明する手間が省けて薬がスピーディーに提供されます。さらには、3ヶ月以内に同じ薬局を手帳持参で再訪すれば、薬局での負担が約30〜40円安くなります(※3割負担の場合)。一度の差額はたいしたことないですが、年単位で見れば、かなりの節約になるでしょう」

お薬手帳は全国の医療機関や薬局で使用可能。出張先や旅先でかかりつけの病院や薬局に行けない場合などにも役立つので、1冊持っておきませんか?

紙のお薬手帳のほか、スマホ向けのアプリも、さまざまな会社からリリースされています。処方された薬を登録したり、スマホで撮った処方せんの画像をあらかじめ薬局に送信することで、薬を用意する待ち時間を短縮することも可能。アプリ版なら「手帳を持参し忘れた!」という事態も避けられます。
※画像はお薬手帳プラス(日本調剤株式会社)

私たち一人ひとりが、ジェネリックや長期処方せん、お薬手帳などを利用しつつ医療費の節約を心がければ、家計はもちろんのこと、国や健康保険組合の財政への負担も少なくなります。処方されるがままに服用するのではなく、これからは自分で選択肢を増やして活用する時代。薬と賢く付き合って、健やかな毎日を過ごしましょう。

INFORMATION

三上彰貴子
外資系製薬株式会社勤務後、慶應義塾大学にてMBAを取得。卒業後、朝日アーサー・アンダーセン(現PwC)にて主に医療分野のコンサルティングを手がける。2005年より独立し、製薬会社・化粧品会社関連のマーケティング、人財育成セミナーなどを行う。現在は、薬科大学博士課程にて研究も。その他、薬局薬剤師、登録販売者向けの講師、薬科大学非常勤講師も務める。

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