“きもち”をたかめる。<連載>

休憩中の「昼寝」は正解!
仮眠で仕事がはかどるワケ

取材・文/岡林敬太 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

最近よく耳にするキーワード「パワーナップ」をご存知? 仕事の合間に正しく仮眠を取ることで、作業効率をぐんと上げられるという、新しい考え方です。では、いつ、どこで、どのように仮眠をするのが良いのでしょうか? 今回は、知ってビックリの「昼寝の効果」について、睡眠の専門家にインタビュー。店舗PTRも、SCPTRも、仮眠を上手に取り入れて、仕事効率や生活の質をアップさせましょう!

世界的企業も注目する
「パワーナップ」って?

コロナ禍の影響で生活リズムが乱れ、睡眠時間が不規則になりがちな今日この頃。仕事中に「なんだか眠いなぁ」「頭がスッキリしないなぁ」と感じること、ありませんか?

「睡眠は生命の維持に欠かせないもの。寝不足が続くと、仕事のパフォーマンスが落ちるばかりか、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病や、がん、うつ病などを招くこともあるので要注意です」と警鐘を鳴らすのは、医師で睡眠コーチの坪田聡先生です。

健康維持に必要な睡眠時間には個人差がありますが、「1日に6〜8時間」が目安だとか。

「現代人の多くは睡眠不足の傾向にあります。もし夜間に十分な睡眠時間を取れない場合は、昼休みに『パワーナップ』と呼ばれる短時間の仮眠をすることをおすすめします」

眠いのを我慢しながら仕事をしても、能率は上がりません。休憩時間を利用し、うまく昼寝を取り入れることができれば、午後からの仕事がはかどるはずです。

「パワーナップ」とは、短時間で効率的に疲労を回復させる昼寝のこと。昼寝やうたたねを意味する英語の「nap」と、「power up」を掛け合せた造語で、アメリカの社会心理学者ジェームス・マース氏が1998年に提唱して以来、世界的な広がりを見せています。

「眠気のピークは、だいたい1日に2回あります。1回目は午前2時から4時。ほとんどのみなさんが寝ている時間帯ですね。そして、2回目は午後2時から4時に、小さなピークが訪れます。この2回目のピークのときに仮眠を取ることで、日中の仕事のパフォーマンスを向上させるのが、パワーナップの目的になります。しかし、その時間帯はみなさん、勤務中で寝られないことが多いでしょう。なので、それよりも少し早い時間帯である昼休みに短時間の仮眠を取り、午後の眠気を先取りすることを私は推奨しています」

アメリカでは、グーグル、アップル、マイクロソフトなどの世界的IT企業、NASAや海兵隊などの国家的組織も、パワーナップの導入事例があるそう。日本でも近年、取り入れる企業が増えてきています。

パワーナップを実践すると
これだけのメリットが!

パワーナップを取り入れると、主に5つの効果が期待できるそうです。

① 仕事の能率が上がる。
「昼食後から2〜3時間は、急に眠気に襲われたり、集中力が途切れたりして、仕事の能率が落ちやすい時間帯。そうなる前にパワーナップをすれば、眠気が消えて作業能率を上げることができます」

② 脳のクリエイティビティが上がる。
「睡眠不足に陥ると、脳に疲れが溜まり、クリエイティビィティが下がります。しかし、休憩時にパワーナップをすると、脳の疲れがリセットされて、自由な発想や斬新なアイデアが生まれやすくなります。グーグルやアップルなどのIT企業がパワーナップを重要視するのは、そのためです」

③ 前日の疲れが解消される。
「パワーナップをすると、体に蓄積されていた疲労が軽減されます。『昼の20分の仮眠で、8時間分のスタミナを取り戻すことができる』という調査結果もあるほど。また短時間の仮眠を取ることで血圧が安定し、脳の疲労感も消えやすくなります」

④ ストレスが減る。
「頭を使い続けていると、脳がオーバーヒート状態になります。その状態で仕事を進めると、ストレスが溜まる一方。昼の仮眠は、脳のクールダウンを促し、ストレスを和らげてくれます。ストレスを溜めながら仕事をしたり、こまめに休憩を取ったりするよりも、昼間にパワーナップを一度するほうが効率的です」

⑤ 健康になる。
「昼寝が健康にいいというのは、世界中の多くの研究で実証済みです。30分間の昼寝を週に3回以上すると、心臓病死のリスクが37%低下するというデータも。また、仮眠を取ると血圧が下がるため、高血圧の緩和にも効果が見込めるほか、脳梗塞や糖尿病なども予防できると言われています」

パワーナップのメリットは世界中で認められています。日本の厚生労働省も「健康づくりのための睡眠指針2014」において、「午後の早い時間に短い睡眠を取ると、作業効率の改善に効果がある」という旨の記載をしています。

椅子に座った状態で
10〜20分の仮眠を

仕事面のみならず、健康面でもメリットがあるパワーナップ。その効果を最大限に引き出すために、正しい方法を覚えましょう。まずは、「寝るタイミングと長さ」について。

「昼休みに食事を摂ったあとに、10分から20分間、昼寝をするのがおすすめです。時間が短いと感じるかもしれませんが、昼寝は『浅い睡眠』の間に起きたほうが、頭がスッキリします。逆に30分以上寝てしまうと、眠りが深くなり、起きたあとも眠気が続いてしまうのです。また、遅い時間に昼寝をすると、夜の寝付きが悪くなるため、なるべく『正午から午後3時』の間にしましょう」

店舗勤務のPTRの場合、30分、15分といった具合に、小刻みに休憩を取ることも多いでしょうが、その場合は「30分休憩は食事に充てて、それ以外の休憩時にパワーナップを取る」というのが良いかもしれません。

寝過ごし防止のために、仮眠前にはアラームをセット。「目をつぶってはみたものの、10分や20分では眠れなかった」というケースもあるでしょうが、それでも効果はあるそうです。「人間の五感のうち、視覚から入る情報は全体の8割超と言われています。つまり、目を閉じて視覚情報をシャットアウトするだけでも、脳の仕事量が減り、頭がスッキリするのです」

続いては、「寝る姿勢」について。パワーナップは浅い睡眠が目的なので、ゴロンと横たわるのはNGだそうです。

「横たわると深い眠りに落ちてしまうので、椅子に座ったまま背もたれにもたれかかるようにして寝るか、あるいはデスクに伏せる形で寝ましょう」

在宅勤務のPTRは生活リズムが不規則になりがちなので、「何時から何時まで仕事をして、何時から20分昼寝」といった具合に、時間割を決めておくとよいとか。「ご自宅とはいえ、ベッドやソファに横たわるのはダメ。あくまでも座って昼寝をしましょう」。

「明るい部屋ではアイマスクを、騒がしい部屋では耳栓をすると寝やすいです。また、昼寝をする際は、ネクタイや腕時計など、身体を締めつけるものを外したほうがリラックスできます。椅子にヘッドレストがない場合は、壁などに頭を預けるとラク。机に伏せて寝ると、顔に跡が残ることがあるので、気になる方は昼寝用の枕やネックピローなどを使うとよいでしょう」

コーヒーを飲んで寝ると
目覚めがスッキリ!

「昼寝の前に飲むとよいもの」もあると言います。PTRにとってはかなり身近で、少々意外なものが効果を発揮します。

「パワーナップの直前に、コーヒーを飲むことを習慣づけてみてください。カフェインを多く含むコーヒーは覚醒効果があるため、睡眠の敵と言われていますが、こと昼寝に関しては、強い味方になります。カフェインを摂ってから覚醒効果が出るまでにかかる時間は、約20〜30分。ちょうどアラームが鳴る頃に、スッキリと目が覚めるというわけです」

パワーナップには、アイスコーヒーよりもホットコーヒーのほうが効果的。ホットのほうがカフェインの吸収が早いからです。コーヒー以外に、紅茶や緑茶を飲んでもOK。
5つのポイントを押さえるだけで、パワーナップは簡単に実践できます。「休憩時間になるとスマホを見る方が多いでしょうが、それだと目と脳が疲れ、休んだことになりません。『休憩時間はスマホより昼寝』と心得ましょう」

最後に、「寝起きにするとよいこと」を教えてもらいました。

「起きたらすぐに、軽くストレッチをしてください。そうすると『筋肉が伸ばされた』という信号が脳に伝わり、覚醒ホルモンのセロトニンが分泌され、眠気が消えやすくなります。あとは冷たい水で顔を洗う、熱いおしぼりで顔を拭く……なども有効。冷たい、熱いなどの刺激は交感神経を活性化させ、目覚めやすくなるからです」

また、日光を浴びたり、リズム感のある運動をしてもセロトニンが分泌されて目が覚めるため、起きた直後に窓際へ行ったり、外を軽く散歩するのもおすすめだとか。

生活リズムが乱れがちな人こそ
積極的に昼寝を!

パワーナップの習慣を職場に根付かせるためには、「昼寝をしている人を邪魔したり馬鹿にしたりしない」という風土を養うことが大事だそうです。

「そのためには、まずは職場のリーダー的存在の方が、パワーナップを推奨もしくは実践するのがいいですね。そうすれば、『あ、寝ても大丈夫なんだ』と周囲も安心し、昼寝文化が定着しやすくなります。椅子やデスクさえあれば誰でも気軽に昼寝は可能。身近にあるコーヒーを活用しつつ、みなさんで積極的に昼寝をしてみてはいかがでしょうか」

夜の睡眠時間が十分に足りている人も、パワーナップをしてOK。午後のパフォーマンスが、いつもより冴え渡ることでしょう。ちなみに夜に熟睡できない人は、「ベッドに入る時間を決めておく、ベッドに入ったらスマホを見ない、起きたら朝日を浴びる、朝食を摂る、よく歩く」などを意識すると、寝つきが良くなり、睡眠の質も改善されるそうです。

「仕事の合間に昼寝するなんて、だらしないし、後ろめたい」というのは、古い考え。むしろ、集中して仕事に取り組むために、そして健康を向上させるためにも、「現代人は積極的に昼寝をするべき」なのです。

特に最近は、コロナ禍への不安から夜間に熟睡できない人や、リモートワーク増加の影響で夜更かし傾向の人が増えているため、できればパワーナップを習慣化したいところ。やることは、いたって簡単。「昼食後などにコーヒーを飲み、椅子に座って短時間、目を瞑ってリラックス。そして最後に軽くストレッチをする」だけです。さっそく今日から実践してみましょう!

INFORMATION

坪田聡
1963年福井県生まれ。医学博士。雨晴クリニック副医院長。日本睡眠学会、日本医師会に所属。医師と睡眠コーチ、ビジネス・コーチの顔を持ち、睡眠の質を向上するための指導や普及に努める。著書に『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)、『快眠ごはん 眠れるカラダを食事でつくる』(海竜社)など。
URL/https://allabout.co.jp/gm/gt/1806/

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