“きもち”をたかめる。<連載>

受診だけでは不十分!?
健康診断は結果表チェックが大切

撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太

せっかく会社で健康診断を受けても、結果表の見方がイマイチわからず、判定だけをさらっとチェックして放置…なんてこと、ありませんか? 実はそれ、とてももったいないことなんです! 健康診断の結果表には、自分の今の体調を知る重要なヒントがたくさん詰まっています。今回は、忙しい現代人が特にチェックすべき項目をピックアップしながら、健診結果から自分の健康状態を読み解くポイントを解説します。

コロナ禍での体の変化を
健康診断でチェックしよう

医療ジャーナリストの増田美加さんによると、「2022年の健康診断は特に大事」とのこと。

「ここ数年のコロナ禍により、多くの人々の生活習慣が大きく変わりました。生活習慣の変化は体へ負荷を与えますので、今まで『正常』と出ていた検査結果が『異常あり』になる可能性があります。コロナ禍で自分の体がどう変化したか? それをチェックするいい機会なので、2022年の健診はいつにも増して重要です」

健康診断を受けたあとは、結果表をしっかり見ることが必須。とりわけ大事なチェックポイントと、チェック後にすべきことを増田さんに教えてもらいましょう。

エビデンスに基づいた健康情報と、患者視点に立った医療情報について執筆・講演を行う医療ジャーナリストの増田美加さん。自身もジョギングと筋トレを続けて体脂肪率を10%落とすなど、日々健康づくりに努めているそう。

本題に入る前にまず、知っておきたい基礎知識を少々。

そもそも健康診断とは、何のために行うものなのでしょう?

「健康診断は、体を全体的にチェックし、日々の生活習慣を見直すために行います。肥満ではないか? 血圧は大丈夫か? など、その人が今現在健康かどうかを項目ごとに調べていくことで、病気の危険因子を早く見つけます。つまり健康診断とは、病気そのものを発見するものではなく、病気の疑いのある人をふるい分ける『一次予防』の検査なのです。略して『健診』とも言います」

健診によく似た「検診」という言葉もありますよね?

「検診は、がん検診、歯周病検診、骨粗鬆症検診など、特定の病気を発見するために行う検査を指します。こちらは標的とする病気を発見し、早期に治療するための『二次予防』が目的です」

SBJ健保の定期健診には、35歳以上を対象に、胃がん、大腸がんの検診を兼ねた検査項目が盛り込まれています。また女性は、子宮頸がん、乳がんの検診を任意で受けることができます。

「異常あり」はすぐ検査へ!
「正常」でも安心はできない!?

ここからは、健診結果が出たあとの話。

「見方がよくわからない」「現実を直視したくない」などの理由で、健診結果をさらっとしか見ない人も多いようですが…?

「それだと健診を受けた意味がありません。まずは、各検査項目に『異常あり』『要精密検査』などの判定がないかどうかをチェックしましょう。そして、そうした判定が出た場合は、必ず専門の医療機関で精密検査を受けること。『自覚症状がない』などの理由で放置しておくと、病状がさらに悪化する恐れがあります」

「正常」「異常なし」などの文字が並んでいれば、安心してよいですか?

「それだけでは安心できません。細かくチェックしていくと、正常値の上限(もしくは下限)に近い数値が出ているなど、悪い予兆が見て取れることがあります。また、健診の際には問診表などで生活習慣を聞かれますが、各検査項目のコメント欄には、それを踏まえた生活改善の重要なアドバイスが書かれています。正常判定でも、コメントには必ず目を通すようにしましょう」

「年代が上がれば上がるほど、病気のリスクは高くなります。45歳以上の人は特に健診結果をしっかり見るように心がけてください」

生活習慣病予防のため
必ずチェックしたい4項目

健康診断では、具体的にどのような項目の検査が行われるのでしょうか。

「主に『生活習慣病』に関する検査です。生活習慣病とは、食事、運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣を原因に発症する病気のこと。脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化(動脈の血管が硬くなり、内壁にかたまりが沈着して血管が詰まりやすい状態)などがその代表例です。生活習慣病は、がん、心筋梗塞、脳卒中などの命にかかわる重大な病気を引き起こします。健診結果を受け取ったら、生活習慣病との関わりが深い、以下の4項目に特に注目を! ぜひ手元に結果表を用意して、各項目の数値と照らし合わせながらチェックしてみてください」

CHECK!① 〜LH比〜
「脂質異常症か否かを判定する基準となるのが、LH比。脂質異常症とは、血液中のLDL(悪玉)コレステロールや、中性脂肪の値が高かったり、HDL(善玉)コレステロールの値が低かったりして、脂質代謝に異常をきたした状態のこと。LH比は「LDL値÷HDL値」で示される比率。LH比が2.0以上だと動脈硬化の疑いがあり、2.5以上だと血栓ができている可能性があり心筋梗塞のリスクが高くなります。病気がない人は2.0以下にすることが望ましく、また高血圧や糖尿病の人、あるいは心筋梗塞などの病歴がある人は1.5以下にすることが望ましいとされています」

たとえば、LDLコレステロール値が135mg/dlで、HDLコレステロール値が45mg/dlとすると、「135÷45=3」で、LH比は3.0となり、動脈硬化がかなり進んだ危険な状態であることがわかります。自分のLH比が2.0以下になっているかどうか要チェック!

CHECK!② 〜中性脂肪〜
「中性脂肪とは、血液中の脂肪のこと。増えすぎると血液がドロドロになり、動脈硬化の原因となります。30~149mg /dlが正常値。それより高値なら要注意。中性脂肪とLH比の両方の数値が高い場合は動脈硬化の疑いが濃厚で、危険な状態と言えます」

CHECK!③ 〜血圧〜
「血圧とは、心臓から送り出された血流が血管の内壁を押す力のこと。高血圧になると内壁が傷つき、動脈硬化が進みやすくなります。『最高115mmHg(ミリメートルエイチジー)未満、最低75mmHg未満』なら正常血圧で、『最高115〜125mmHg、最低75mmHg未満』なら正常高値血圧、『最高125〜135mmHg、最低75〜85mmHg』だと高値血圧、そして『最高135mmHg以上、最低85mmHg以上』だと高血圧となります」

高くても、正常高値血圧の段階のうちに生活習慣を改善することが大事。最近は20〜30代の高血圧も増えているので、若くても油断は禁物です。

CHECK!④ 〜血糖値〜
「血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のこと。血糖値が高い状態が続くと血管が傷ついて動脈硬化を引き起こし、糖尿病などさまざまな病気のリスクが高まります。血糖値の数値のみならず、最近1〜2ヶ月の血糖値の平均値を表すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値を併せて見ることも大事です。空腹時血糖が100mg/dlを超えると、糖尿病の発症リスクが2倍以上になることから、空腹時血糖100mg/dl以上、またはHbA1c5.2%以上が、特定保健指導の基準値です(HbA1c5.2%が、空腹時血糖100mg/dlにほぼ当てはまります)」
出典/厚生労働省「生活習慣病予防のための健康情報サイト」より

健診結果のコメント欄には、生活習慣の改善に役立つ重要な情報が書かれているので、数値と併せて必ずチェックしましょう。総コレステロールと中性脂肪がやや高値だった人の結果表を見てみると、「動物性脂肪の多い食品から、魚や植物性脂肪の多い食品に切り替えを」「糖分やお酒を控えめに」「肥満があるなら減量を」などと具体的で的確なアドバイスが書かれていました。

健診結果は、以前の結果と比較することも重要なのでしょうか?

「その通りです。今回正常値だったとしても安心せず、過去の結果と比べて、数値がどう変化してきたのかを観察しましょう。たとえばHbA1cだと、正常範囲内であっても、毎年少しずつ数値が上昇しているケースがよくあります。正常値の上限(もしくは下限)に年々近づいている場合は、今のうちに生活習慣の改善を。特に上記4項目(LH比・中性脂肪・血圧・血糖値)の数値が悪かった場合は、生活習慣病や動脈硬化を予防するために、次のことを意識するとよいです」

●食生活の改善
「塩分・油分・糖質の摂りすぎに注意し、バランスの良い食生活を心がけましょう」
たとえば…
・肉よりも魚や豆類をなるべく食べるようにする。
・インスタント食品やスナック菓子を控える。
・チョコレートなど甘いものの摂取量を抑える。
・食事はサラダなど野菜から食べる。
・調理の際はサラダオイルを使わず、オリーブオイルを使う。

●運動
「1日30分程度(ウォーキングを含む)でいいので、体を動かす習慣を身につけましょう」
たとえば…
・通勤時、ひと駅分は歩く。
・エレベーターではなく階段を使う。
・スクワットなどの筋トレを積極的に行う。

●睡眠
・良質な睡眠を取れるよう、体内時計を整える。
・毎日約7時間寝る。

●その他
・タバコを吸わない。
・お酒を控えめにする。

肥満は健康の大敵!
「BMI」にも注目を

―LH比・中性脂肪・血圧・血糖値のほかに、チェックすべき項目はありますか?

「万病の元とも言われる『肥満』にまつわる検査項目、『BMI』にもぜひ注目してみてください。BMIは主に、メタボリックシンドローム(メタボ)の判定に使われます。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪が過剰に蓄積されていることに加え、高血圧、高血糖、脂質代謝異常の3つのうち2つ以上が合併した状態のことです」

CHECK!⑤ 〜BMI〜
「BMI(Body Mass Index)は、肥満度を表す指標として用いられている体格指数で、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出されます。「BMIが25を超えると生活習慣病のリスクが2倍以上になり、30を超えると重度な肥満なので減量治療が必要となります」
出典/厚生労働省「生活習慣病予防のための健康情報サイト」より

たとえば身長150cm(1.5m)、体重50kgの女性なら、「50÷1.5÷1.5=約22.22」で、BMIは22.22となり、「標準」と判定されます。日本肥満学会によると、統計的に見て最も病気にかかりにくいのがBMI22で、そこから数値が離れるほど有病率は高くなるそうです。

メタボになると生活習慣病が悪化し、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすリスクが高くなるそうです。メタボの予防策としては、先述の「食生活の改善」「運動」「睡眠」が有効です。SBJ健保では35歳以上を対象に、定期健診の検査項目に追加する形で、生活習慣病の予防を目的とした「特定健診」(メタボ健診)も行っています。

「特定保健指導」は
生活を見直すチャンス

「特定健診の結果、メタボや生活習慣病のリスクがあることがわかった40歳以上の人は、生活習慣を見直すための健康サポートを受けることができます。これを『特定保健指導』と言います。指導と聞くと怖気付いてしまう人もいるかもしれませんが、決してネガティブなものではないのでご安心を。その人の生活に合った無理のない範囲のアドバイスをしてもらえるので、生活習慣の改善を図るいい機会です。生活習慣の改善は、アンチエイジングにつながります。より若々しく生きるためのヒントをもらえる好機でもあるので、積極的にアドバイスを受け、実践に移しましょう」

SBJ健保では、専用アプリを用いて専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)とコミュニケーションを取りながら、生活習慣の改善をサポートしてもらえるシステムなので、スマホさえあれば大丈夫。ハードルは高くありません。

人生100年時代を
楽しく生きるために

「会社は健康診断の機会を設けてくれますが、自分の健康を守るのは自分自身だけです。今は若くて健康な人も、老後の自分を一度想像してみましょう。健康寿命と寿命の差は、女性が平均12年、男性は平均9年と言われています。つまりその間は、寝たきりで要介護の状態であることも。誰もがそれを短くしたいと願いますよね? そのためにも、症状が出てからでは手遅れになることもあるので、健康なうちに手を打つことが大事。人生100年時代を最後まで楽しく生きるために、健診結果をしっかりチェックして、毎日の生活に役立ててください」

「健康的な食習慣や運動習慣を定着させると、2ヶ月ほどで数値が良化することも。今年の健康診断に向け、今から生活習慣の改善を始めてみるのもいいかもしれません」

INFORMATION

増田美加
医療ジャーナリストとして、女性の健康や医療にかかわる執筆、講演を行う。雑誌「婦人画報」「GINGER」「MyAge」や、WEBマガジン「ヨガジャーナル」「yoi」などでヘルスケアや女性医療の連載を担当するほか、テレビ、ラジオにも出演。乳がんサバイバーでもあり、がんにまつわる講演やがん検診の啓発活動も行う。
URL/http://office-mikamasuda.com/

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