“きもち”をたかめる。<連載>

今より少し気分が軽くなる、
ポジティブスイッチの入れ方10

取材・文/岡林敬太 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

最近、なんとなく気持ちが晴れないな…、イライラすることが多いな…と感じることはありませんか? 季節の変わり目、長引くコロナ禍、そして3〜4月に到来する環境の変化など、メンタルに不調をもたらす原因が重りがちな今日この頃。そんなとき、思考をちょっと変えたり、普段しないことをやってみたりすることで、フッと心が軽くなるコツがあります。今回は、メディアでも話題の現役精神科医に、今の気持ちに効く「ポジティブ思考のヒント」を処方してもらいましょう。

考え方を少し変えれば
明日はきっと明るくなる!

「ネガティブ思考に陥ってなかなか抜け出せないときは、日々の考え方や行動をちょっとだけ変えてみることをおすすめします。それを習慣化することで、心が徐々にポジティブに変わっていくケースが多くあります」と語るのは、精神科医の藤野智哉先生。

「特に白黒はっきりさせたい完璧主義タイプの人や、自分に対しても他人に対しても『こうあるべき』という強い思いを持ちがちな人は、ストレスが溜まりやすいのでぜひ実践してほしいです」

今回のナビゲーターは、イケメン精神科医としてメディアで話題の藤野智哉先生。「考え込まない、頑張りすぎない」ことの大切さを説きつつ、ゆるやかにポジティブ思考へと導く治療に定評あり。「世界一受けたい授業」や「マツコ会議」などテレビ出演も多数。

できる項目から試してみよう!
ポジティブスイッチの入れ方10

今日から簡単に取り組める、10項目の「ポジティブ思考のヒント」を藤野先生がナビゲート。

「医療現場でも実践やアドバイスがなされているものばかりなので、継続すれば効果を見込めると思います。ただし、10項すべてをやらないとダメ、と考えると、逆にストレスになってしまうこともあるので、できそうなことから気軽に始めてみましょう。また、やり方も、僕がすすめる方法に縛られなくてOK。自由にアレンジして、楽しみながら実践してみてください」

その1:悩みをリストアップする
「自分が今抱えている悩みを、思いつく限り紙に書き出し、漠然とした不安状態から脱しましょう。悩みをリストアップすることで、『これは考えてもどうにもならない悩み』『これは自力で解決できそうな悩み』という仕分けができ、頭がクリアになります。自分が今すべきことが見えてくるので、心がポジティブに切り替わるきっかけになります」
その2:目標を持たないことを目標にする
「目標を持つことは、自分を縛ることにもつながります。達成しなかったときに自己嫌悪に陥ってしまうことも。目標を絶対に持つなとは言いませんが、あまり高い目標を持ちすぎないことも大切。小さな目標をいくつか立てて、それを一つずつクリアし、その度に自分を褒めてあげましょう」
その3:第三者に相談をする
「1人で悩みを抱えていると、視野が狭くなり、物事を悪いほうへと考えがち。そこで必要となるのは、客観的視点。第三者に悩みを打ち明けてみましょう。すると、気持ちがラクになると同時に、自分では気づかなかった解決策を教えてもらえるケースも多いです。悩みでパンクしそうになったら、同僚や家族、あるいは専門の医師などにSOSを発信しましょう」
その4:オフの日は違う環境で過ごす
「自分の逃げ場を作っておくことが大事だという学説があります。たとえば職場の人間関係しか持っていないと、そこでミスをしてしまったら逃げ場がありません。だけど、趣味のサークルなどに入っていれば、『職場ではダメでも、ここでなら肯定される』といった具合に、ネガティブな感情が薄まります。仕事などメインとなる環境以外に、自分なりの楽しみの場をいくつか用意しましょう。そしてオフの日は、オンタイムとは異なるフィールドに自分を置いてみるのがいいです」
その5:寝る前に、その日あった良いことを3つ書き出す
「その日あった良いことを3つ書き出す習慣を『3 good things』と呼びます。ポジティブ心理学のセリグマン博士が提唱するメソッドで、メンタルにもたらすポジティブな効果は実証済み。人は『嫌なこと・できなかったこと』ばかりに注目しがちですが、これを実践すれば、普段はスルーしてしまうようなささやかなことから、『いいこと・できたこと』を見つけだす練習になります。また、それを実際に書き出し、うれしい出来事が蓄積されていく様を目で見て確認すれば、幸福感を得ることにつながります。結果、不安やストレスが減少していくというわけです。就寝前に行うと、寝付きも良くなるでしょう」
「部屋の掃除がきれいにできた」「美味しいラーメン屋さんをみつけた」「久しぶりの友達と話せてうれしかった」など、書く内容は些細なことで構いません。その日、自分が幸福だと感じたことBEST3をリストアップ。頭の中で思い出すだけだと忘れてしまうので、ノートやスマホのメモ機能などに書き込むのがおすすめ。日々の「いいこと」の蓄積を、あとで見返せるようにしましょう。

ここまでの5つは「メンタルに直接働きかける方法」が中心でしたが、この先の5つは「体からメンタルに働きかける方法」を解説します。

その6:起床したら日光を浴びる
「朝起きたらすぐにカーテンを開けて、10分程度、日光を室内に入れることを習慣化しましょう。朝日を浴びると『セロトニン(心と体のバランスを整えてくれる脳内の神経伝達物質)』が分泌され、目覚めがよくなると同時に、メンタルの調子も整うというのが精神科の世界の定説。また、朝にセロトニンが分泌されると、そこから睡眠ホルモンの『メラトニン』が作られ、その働きで日没以降に徐々に眠くなり、夜の寝入りがスムーズになるとも言われています。不規則な生活が続いている人は、特にメンタルヘルスが崩れやすいです。良質な睡眠を確保するためにも、ぜひ実践してほしいです」
その7:深呼吸をする
「不安や緊張を感じると呼吸は浅く速くなり、逆に心がリラックスしていると呼吸は深くゆっくりになります。逆転の発想で、呼吸法からメンタルにアプローチすることも可能。意識的に深くゆっくり呼吸をすれば、心が落ち着いていきます。緊張やストレスにさらされることが多い接客業の方には、深呼吸が特におすすめ。鼻から息をゆっくり吸ったあと、吸う時間の倍ほどの時間をかけてゆっくり口から吐きましょう。深呼吸をすれば緊張感がほぐれますし、脳にしっかり酸素が行き渡ってパフォーマンスもアップするはずです。休憩時間などに気軽に行えるので、ストレスが溜まってきたなと感じたら深呼吸を!」
その8:胸を張る
「背筋を曲げて肩を落とした姿勢よりも、背筋を伸ばして胸を張った姿勢でいるときのほうが、ポジティブな思考を保ちやすくパフォーマンスも向上するという研究があります。嫌なことがあったときこそ胸を張って、ストレスを撃退しましょう」
その9:ジョギングなどのリズム運動をする
「リズム運動(規則的に体を動かす運動)を1日20分程度行うと、『セロトニン』の分泌が活性化され、ストレスが緩和されることが医学的に明らかになっています。気候が少し暖かくなった今は、ジョギングを始めるのにいいタイミング。走るのが苦手な方は、ウォーキングやラジオ体操などでも構いません。一定のリズムに合わせて体を動かす習慣を身につけましょう」
その10:筋弛緩法で力を抜く
「体の力を抜くと、ネガティブな思考を抑制できるという学説があります。そこで実践したいのが、『筋弛緩(きんしかん)法』。いったん筋肉にギュッと力を入れ、その直後にフッと脱力することによって、筋肉の緊張が解け、リラックスしている感覚を味わい身につけていく方法です。部位ごとに行っても、複数部位を同時に行ってもOK」
座りながらできる肩〜腕と顔の筋弛緩法がこちら。①両肩を思い切り上にあげ、緊張状態を5秒ほど保ちます。このとき、両手の親指を曲げて握りこぶしを作り、目と口はギュッと閉じて、奥歯を強く噛みしめます。②一気に力を抜き、両肩が弛緩した状態を15秒ほど保ちます。このとき、口はポカンと開けて脱力して。これを何度か繰り返すことで、体と心の緊張をほぐすことができます。

コロナ禍、季節の変わり目…
誰もがストレスを感じている

藤野先生によると、「特に今の時期はメンタルに不調をきたす人が多い」とのこと。その大きな理由としてまず挙げられるのは、長引く「コロナ禍」だとか。

「コロナ禍によって環境の変化が生じ、どなたも少なからず不安やストレスを抱えているはず。本来そうした悩みは、人と会って話すことで緩和されるケースが多いのですが、今はそれもままならないため、悩みが深刻化するケースが多いのです」

次に挙げられる理由は、「季節性」。

「冬季はメンタルに不調をきたしやすいと言われています。これには日照時間が大きく影響しているというのが定説です。心身の健康を保つためには、日光に当たり『セロトニン』を分泌することが大事。ところが冬場は日照時間が短いため、十分に分泌されにくいのです」

特に冬から春に季節が変わりつつある今は、気候や気圧の変化も伴って心身の調子を崩しやすく、また、新年度の4月が近いことも「新しい環境になじめるかどうか」という悩みを生みやすいのだとか。ちょっと気持ちがしんどいと感じたら、「10のヒント」をぜひ実践してみましょう。

しんどいのが当たり前の時代
「自分は病気」と思わないで

最後に、先生が「最も伝えたかったこと」を語ります。

「メンタルが不調だからといって、即、『病気』と思わないことが大事です。コロナ禍が2年以上続き、いまだに終息の目処が立っていないわけですから、不安でしんどくなるのは当たり前のこと。『自分は特別なんじゃないか?』と感じてしまう人もいるようですが、そうじゃないんだよ、ということを知っていただきたい。特別じゃないからこそ、ちょっとした思考の転換でポジティブになれる部分が大いにあると思います」

心が曇りがちな人は、精神的に頑張りすぎているのかも。少しだけ考え方を変えて、ゆるくポジティブ思考で暮らしてみれば、気持ちが少し晴れるはず。しんどいな…と感じたときは、先生が教えてくれた10のヒントを、1つからでも気軽に実践してみましょう。

もし自力での解決が難しそうな場合は、メンタルクリニックを頼るのも手。「日本は保険診療が充実しているので、最初は、高額な自由診療ではなく、保険診療のクリニックに行っても十分な治療が受けられると思います」

INFORMATION

藤野智哉
1991年生まれ。精神科医として、愛知医科大学病院精神神経科に勤務する傍ら、医療刑務所の医師や看護学校の非常勤講師なども兼務。診療やメディア出演などを通じて、心が今より軽くなるヒントを伝え続けている。近著に『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』『あきらめると、うまくいく-現役精神科医が頑張りすぎるあなたに伝えたい最高のマインドリセット』(いずれもワニブックス)など。
URL(Twitter)/https://twitter.com/tomoyafujino

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