“きもち”をたかめる。<連載>

健康のカギは「臓」にあり?
話題の「臓活」で体調改善

取材・文/岡林敬太 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

最近、健康にまつわるキーワードとして耳にするようになった「臓活(ぞうかつ)」という言葉。心身の健やかさを司るとされる「五臓(ごぞう)」に着目した東洋医学の考え方で、五臓の働きを活性化すれば、体や心の調子がアップすると言われています。そこで、日々忙しく働くPTRに向けて、体調改善のヒントとなる「臓活」の基礎知識と、日常や今の季節に意識すべきこと、そして不調をきたした場合の対策などをレクチャーします。

その体調不良は、
五臓からのサインかも?

そもそも「臓活」とは何なのか? その言葉の生みの親である中医学博士の尹 生花(いん・せいか)先生に解説してもらいましょう。

臓活の第一人者として、女性誌などから引っ張りだこの尹 生花先生。都内に3店舗を構える美容健康サロン「BHY」を展開し、多くのモデルやタレントなどから絶大な信頼を得ています。

「臓活とは、『臓』の働きを知って活性化をさせ、健康の維持や促進をはかることです。臓活の基本となるのが『五臓』で、これは人間の体の機能を『肝・心・脾・肺・腎』の5つに分類したものを指します」

五臓の「肝・心・脾・肺・腎」は、西洋医学における「肝臓」「心臓」「脾臓」「肺」「腎臓」といった臓器とは異なる概念だそう。

「たとえば『腎』。西洋医学では『腎臓』という内臓のことを指しますが、東洋医学では発育や生殖などの生理機能全般を指し、『生命力の精(エネルギー)を蓄える場所』と考えます。また、西洋医学では不調のある臓器のみを治療しますが、東洋医学では『五臓は互いに支え合い、バランスを取っている』という考えから、特定の症状の緩和だけではなく、体の不調を根本的に解決することを目指します」

私たちは健康状態が悪いとき、その症状ばかりに気を取られがちですが、「実は根本的な原因は、症状のある場所とは別の、体の内側にある五臓いずれかの疲労であることが多い」と尹先生は言います。

「五臓は日中も睡眠中も休むことなく働き続け、体や心に関するすべてのことに作用しています。しかし五臓は、疲れているサインを他の部位を通じて出すことはあっても、臓そのものが痛くなることはめったにありません。ですので、その沈黙の中にあるサインを正しくキャッチし、臓活で五臓を守ることが大切です」

東洋医学では、古代中国の哲学・五行説に基づき、自然界のあらゆるものを「木・火・土・金・水」の5つに分類しますが、人間も自然の一部であるという考えから、「肝・心・脾・肺・腎」の五臓も、その属性に合わせて分類されています。これにより、互いの働きを高めたり(相生)、また抑制したり(相克)しながらバランスを保っています。

五臓の不調のサインのあらわれ方と
季節ごとに出やすい不調を知ろう!

具体的に、五臓の不調のサインはどのように受け取れば良いのでしょうか?

Point① 開口口(かいこうぐち)
「それぞれの臓には、不調のサインが現れやすい体の部位(開口口)があります。不調のサインとは、機能不全、感覚の鈍り、血色の悪さ、乾燥、裂傷など。症状に心当たりがある方は、対応する臓の不調を疑ってみましょう」
Point② 季節と時間
「臓は、季節や時間と連動して活発になることが多いです。活発になっている間は、臓がよく働くことで、疲れやすくなっているタイミング。そこで五臓それぞれが活発になる時季・時間を知り、その期間中はできるだけ労るよう意識すると良いです」
Point③ 関節
「それぞれの臓には、不調予防・改善に有効な場所=関節があります。開口口や季節・時間で不調を感じ取ったら、適合する関節を叩いて刺激してみましょう。それが、臓の疲れを取り、働きをスムーズにすることにつながります」。関節の刺激方法は、記事の末尾で紹介しています。

それでは具体的に、肝・心・脾・肺・腎それぞれの特徴や、開口口、季節・時間、関節を紹介します。

「肝」は、気と血を隅々まで行き渡らせる役目。春に注意

主な働き:
気や血(けつ)の流れを円滑にする。血を貯め、血量をコントロールする。
不調のサインが現れやすい体の部位(開口口):
弱ると出やすくなる心身の症状:
目の下のクマ、ドライアイ、肌のシミ。肌や髪、爪のツヤがなくなる。肩こりや生理痛がひどくなることも。精神面ではイライラや不安が募り、決断力が鈍る。
疲れが出やすい季節:
立春〜5月
疲れが出やすい時間:
1:00〜3:00
調子を整えるために有効な場所(関節):
わき

CHECK !
〜 4月・5月に「肝」に不調が出た場合 〜

4月・5月の春先は「肝」の働きが活発になるタイミング。健康な人はイキイキと過ごせますが、一方で肝機能が弱っている人は、クマ、ドライアイ、イライラなど上記の症状が出がちに。そんなときは…

  • ・深呼吸をする
  • ・よく笑う
  • ・ゆっくりと散歩をする
  • ・体を締め付ける服を着ない
  • ・緑色の野菜(にら・ちんげん菜・菜の花)や、酸っぱい食材(梅干し・レモン)、魚介類(マグロ・シジミ)を摂る

などの習慣を取り入れてみましょう。

「心」は、すべての臓のリーダー的存在。夏に注意

主な働き:
五臓を統括するリーダー的存在。血脈を司り、血(けつ)を全身に巡らせる。
不調のサインが現れやすい体の部位(開口口):
弱ると出やすくなる心身の症状:
舌先が赤くなり、味覚が鈍くなる。肌の血色が悪くなる。高血圧、動脈硬化、心筋梗塞といった循環器系の病気につながるおそれも。精神面では情緒不安定になり、不眠やうつなどを招きやすい。
疲れが出やすい季節:
立夏〜8月
疲れが出やすい時間:
11:00〜13:00
調子を整えるために有効な場所(関節):
ひじの内側(小指側)

「脾」は、栄養を最初に吸収して運ぶ役目。梅雨に注意

主な働き:
飲食物から栄養を吸収し、気や血(けつ)などに作りかえていったん肺へと運んでから、全身に届ける。
不調のサインが現れやすい体の部位(開口口):
弱ると出やすくなる心身の症状:
口の周りに吹き出物ができたり、口角が割れたりする。頭が重くなり、体がだるくなる。消化吸収力が低下し、下痢、軟便になりやすい。美容面では顔がたるんだり、お腹まわりが太ったりする。
疲れが出やすい季節:
梅雨や季節の変わり目
疲れが出やすい時間:
9:00〜11:00
調子を整えるために有効な場所(関節):
そけい部(太もものつけ根の下腹部の部分)

「肺」は、気の入れ換えを行う役割。秋に注意

主な働き:
呼吸を通じて体の中の気を入れ換えることで、エネルギーの素となる精をすべての臓腑や器官に運んでそれぞれの機能を助ける。
不調のサインが現れやすい体の部位(開口口):
弱ると出やすくなる心身の症状:
咳やぜんそく、肺気腫などの呼吸器系の問題が起きやすい。鼻詰まりや痰の絡み、花粉症やアトピーなどの原因にも。精神的に落ち込んだりふさぎ込んだりしやすい。
疲れが出やすい季節:
立秋〜11月
疲れが出やすい時間:
3:00〜5:00
調子を整えるために有効な場所(関節):
ひじの外側(親指側)

「腎」は、生命のエネルギーを蓄える場所。冬に注意

主な働き:
生命活動の源となる精を保管しておく場所。体を温める役目も。
不調のサインが現れやすい体の部位(開口口):
弱ると出やすくなる心身の症状:
むくみ、冷え、耳鳴り。骨や歯がもろくなる。不妊や月経不順の原因にも。老化や知力の低下を招き、認知症につながるケースも。精神面ではビクビクしやすく、臆病になる。
疲れが出やすい季節:
立冬〜2月
疲れが出やすい時間:
17:00〜19:00
調子を整えるために有効な場所(関節):
ひざ裏

CHECK !
〜 PTRが注意したいポイント 〜

「腎」に蓄えられる精(エネルギー)は、飲食物によってまかなわれます。食生活が不規則になりがちなPTRは「腎」の機能が低下している可能性が! そこで…

  • ・太陽の光を浴びる
  • ・足腰を鍛える
  • ・しっかり寝る
  • ・食事(特に昆布、黒豆、黒ごまなどの黒い食材)を摂る

などの習慣を取り入れてみましょう。

簡単!臓活ワザ①
正しく食べて、正しく寝る

季節を問わず、すべての臓に有効な臓活として尹先生がおすすめするのが「正しく食べて、正しく寝る」ことです。

食事に関しては、3食を定時に食べるのが基本とか。

「きちんと3食を摂るのが難しいという方も、毎朝7〜9時の間に朝食だけは必ず摂りましょう。なぜならば、飲食物を気や血(けつ)などのエネルギーに変えてくれる『脾』が9〜11時に最も活発に動くためです。『脾』が活発に動き出す時間までに朝ごはんを食べ、栄養を吸収しておくことが大事なのです」

睡眠に関しては、23時までに寝るのが理想。

「『肝』の血を貯める作用が最も働くのは1〜3時であり、就寝していることが絶対条件。1〜3時に血がきちんと貯められるよう、23時頃までには就寝し、体の代謝機能を働かせて『肝』の働きの準備をさせましょう。夜更かしを長年続けていると、血が不足し、体の必要な部位に血を届けられなくなるので要注意です」

規則正しい食事と睡眠を実践するだけでも、「クマやニキビが消える」などの目に見える効果が期待できるそうです。

7〜9時の間は食事をする暇がないという人も、ゆで卵やヨーグルトなど簡単なものを口にするチャンスはあるはず。朝は食欲が湧かないという人は、おかゆから始めてみるとよいかも。「おかゆは水分を多く含んでいるため消化吸収がよく、少量でも満腹感を得られるほか、大腸まで水分が届きやすいので便秘改善に効果的。また、温かいおかゆは胃腸を温め、免疫力を高めてくれると言われているのでおすすめです」

簡単!臓活ワザ②
関節を刺激する

五臓を滋養するには、対応する関節を刺激するのが有効。軽く開いた手の側面(親指側)を使い、関節を1秒に1回のペースで20回ほど叩いてみましょう。それにより、臓の疲れを取り、働きをスムーズにすることができるとされています。もし叩いた際に痛みを感じたら、気が滞っている証拠。痛みが消え、心地よさが感じられるまで刺激してみて。左右交互に、なるべく毎日行いましょう。

4月・5月に注意が必要な「肝」。「肝」の不調から来るイライラやストレスを感じたときは、わきへの刺激をぜひ試してみて。叩く時は、あまり力を入れすぎないよう注意。心地よいと感じる程度に行いましょう。

臓活は、継続すれば徐々に効果があらわれるケースが多いと尹先生は言います。

「みなさん、コロナ禍や年齢、環境に伴うさまざまな健康上の悩みをお持ちでしょうが、それを解決する最大の武器は、実はご自身の体の中、五臓にあります。薬やサプリに頼らずに、自らの内にある五臓を正しく活かすことが一番強い生き方になりますし、免疫力を強くすることにもつながります」

東洋医学をしっかり学ぶことは難しくても、まずは臓活を指針に簡単なことから意識してみれば、体質改善や不調緩和につながるかも。東洋の先祖たちが代々の経験から得た貴重な知恵を、あなたも活用してみませんか?

INFORMATION

尹 生花
北京中医薬大学博士課程(医学博士)修了。早稲田大学ビジネススクール(MBA)卒業。厚生労働省認可・はり師・きゅう師資格取得。美容健康サロン「BHY」(渋谷・銀座・表参道の3店舗)の代表取締役。著書に『みんなの臓活-五臓をのぞき、活かす』(ワニブックス)、『あなたが「やってはいけない」ダイエット』(小学館)がある。
URL/https://www.bhy.co.jp/(BHY)

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