“きもち”をたかめる。<連載>

話す、伝える。雑談力を高めて、
気持ちいいコミュニケーションを

撮影/菅原景子 取材・文/岡林敬太
 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

雑談を通じて互いの気持ちが通じ合ったり、心が癒やされたりすることって、ありませんか? でも最近は外出自粛などの影響で人と話す機会が減り、私たちの雑談力は知らず知らずのうちに低下しているのだとか。そこで今回は、各界から引っ張りだこのスピーチライター・ひきたよしあきさんをお招きし、「雑談力を高める秘けつ」を教わります。仕事やプライベートのコミュニケーションにさっそく生かしてみましょう。

【知っておきたい雑談のこと、コミュニケーションのこと】

相手を癒やし、仲良くなる。
それが雑談の目的

雑談とは、さまざまな話題について気楽に語り合うことを意味しますが、ひきたさんいわくそれは「サルの毛づくろいのようなもの」だとか。

「動物のサルは仲間同士で毛づくろいをしますが、それが言葉の起源だという学説があります。『私が敵を見張っていてあげるから、あなたはリラックスしていいんだよ』と、相手を癒やすために交代で毛づくろいをする中でコミュニケーションが生まれ、やがて言葉に進化していったそう。私たち人間が行う雑談はいわば“言葉を使った毛づくろい”で、その目的は相手を癒やし、相手と仲良くなること。なので雑談をする際は、自分の主張を押し通したり、話に結論を求めたりせず、“言葉のやりとりそのもの”を楽しめばよいと思います」

しかし近年はコロナ禍の影響で、その楽しみ方を忘れつつある人が増えているそうです。

学校や企業、行政などでコミュニケーションについて講演する機会が多いひきたさん。「コロナ禍となって以降、講演先で『雑談力の低下』が問題として挙がることが急増しました。『議論やプレゼンテーションはできるけど、雑談ができない』という人が多いようですよ」。今回の記事で取り上げる、心掛けることや日々のトレーニングを参考にしながら、雑談力をアップさせましょう。

【雑談・コミュニケーションで大事な8つのこと】

雑談力がぐんとアップする
簡単で効果的なテクニックとは

いざ「雑談して」と言われても、「何をどうやって話したらいいのかわからない」という人もいるかもしれません。そこでひきたさんから、話すネタの選び方、話し方、表情や仕草を使った伝え方など、基本テクニックを教えてもらいました。

ポイント1 …誰もが共感できる話題から入る
「雑談で大事なのは、お互いに共感できる話題から入ること。天気の話題がイントロには最適です。『暑いですね』『寒いですね』などと切り出し、まずは五感から互いの気持ちを一つにしましょう。スポーツ、政治などの話題は二項対立しやすいので避けること」
ポイント2 …小さなぶっちゃけ話を入れる
「『暑いですね』『そうですね』で終わってしまうと雑談は成立しないので、続けざまに『実は僕、暑いときに食べるラーメンが好きなんですよ』など、軽いぶっちゃけ話(本音)を入れてみましょう。すると相手からも『この近くにおいしいラーメン屋さんがありますよ』などの反応が返ってきて、雑談が弾むはず。『実は僕、離婚しまして……』みたいな重いぶっちゃけ話はNGです」
ポイント3 …肩書きやポジションを意識しない
「上下関係を意識したままだと、雑談は楽しめません。肩書きやポジション、年齢差などを取り払い、小学生時代に戻って同級生に語りかけるような雰囲気を作りましょう。ややくだけた口調にすることで、“この人は私に心を開いてくれている”という印象を相手に与えられるかも」
ポイント4 …沈黙を恐れない
「会話中の沈黙を恐れる必要はありません。相手が話し終えたら、4秒ほどのブランクを置いてから、自分もゆっくり話し出す。それぐらいの“間”を作ったほうが『よく考えながら話している』という雰囲気が出るし、お互いリラックスして雑談を楽しめます」
ポイント5 …最後に口角を上げる
「敵意のなさと親愛の情を相手に伝えるため、話し終えたら笑顔を見せること。実際に笑っていなくても、口角を上げるだけで笑顔に見えます。マスク着用時は口元が見えませんが、口角を上げると目元もスマイル状態になるのでお試しください」
ポイント6 …自分から話を始める
「場数を踏めば踏むほど上がるのが雑談力。話しかけられるのを待つのではなく、自分から積極的に話しかけ、雑談の機会を多く作りましょう。たとえば、僕がよく心掛けていたのは、『タクシーに乗ったら、自分から運転手さんに話かける』ということでした」
ポイント7 …ボディランゲージのテクニック1 相手に手の平を見せる
「左写真のように開いた手の平を相手に見せながら話すと、心を開いているように見え、愛嬌も漂います。逆に右写真のように拳を握り、手の甲を相手に見せるのはダメ。強そうではありますが、心を閉ざしているように見えるからです」
ポイント8 …ボディランゲージのテクニック2 手首を返して相手を指す
「『あなたはどうでしょう?』などと話しかける際に、その人を指差すのは威圧的なのでNGです。そういうときはまず左写真のように胸に手を当ててから、右写真のように手首を返しましょう。心から尋ねている雰囲気が出て、場の空気も和みます」

これらの基本テクニックは簡単に実践できるので、今日からさっそく試してみましょう。

【シチュエーション別Q&A】

シーンに合ったコミュニケーション
こんなとき、何を心掛けるべき?

話す相手や場面によって、コミュニケーションの方法を切り替えられるのが雑談の名手。「接客時」「リモートワーク時」「家族や友人と話すとき」という3つのシチュエーションにおけるトーク術を教わります。

Q. 接客時の雑談・コミュニケーションで心掛けることは?

A. 紋切り型ではなく、臨機応変型の接客を

「マニュアル教育されたような紋切り型の接客からは、温かみが感じられません。お客さまが今どういう状態なのかをよく観察し、個々に応じた接客をしましょう。たとえば忙しそうなお客さまにはあえてビジネスライクに接客し、リラックスした表情で来店したお客さまにはフランクに話しかけるなど、相手の状態に合わせて“距離感”を切り替える臨機応変さが大切です。ちなみに私はスターバックスコーヒーの赤坂Bizタワー店をよく利用するのですが、そこのスタッフの方はみなさん距離感の取り方が絶妙なので、とても居心地がいいですね」

接客時の言葉遣いにもテクニックがあるそう。

「お客さまの言った単語を使いながら返答する“オウム返し”が有効です。たとえば『シロップの追加料金はいくらですか?』と聞かれたときに、『○円です』とだけ答えるとぶっきらぼうな印象になりますが、『シロップの追加料金は○円です』と答えれば、『あなたの話をよく聞いていますよ。今聞かれたことにしっかり答えますよ』という誠実さが伝わります」

接客時以外にビジネスシーンでの注意点も。

「まとまりのない質問をしないこと。たとえば初対面の人と話をするとき、『食べ物は何が好き? イタリアン? 映画は好き? 旅行は好き?』といった具合に単発の質問を矢継ぎ早にぶつけるのはNGです。イタリアンが好きと言われたら、『イタリアンの何が好き?』『おいしいお店を教えて!』『おすすめのメニューはある?』など、掘り下げる質問を3つほどするべきです。すると、『あなたにとても興味を持っている』という雰囲気が出て、良好な関係を結びやすくなります。これは対クライアントでも同様です。質問を散らさず、深掘りましょう」

Q. オンライン、リモートワーク下のコミュニケーションで心掛けることは?

A. 身振りと声は大きく、話す時間は短く

「リモート会議をする際にまず心掛けるべきは、カメラに寄りすぎないこと。胸から上のバストショットを心掛け、ボディアクションで感情表現をしましょう。話すときは大きく手を動かし、うなずくときは大きく。大いに賛同する際は、一度天井を見てからうなずくぐらいでちょうどいいです。ちなみに、オンラインでの音声は聞き取りづらいので、電話で話すときぐらいの声の張りを心掛けましょう」

リモート会議は時間が限られているため、短く話すこともポイントだとか。

「自分の主張を通そうとして1人で長話をしてしまう人がいますが、それはひんしゅくを買うだけで逆効果。一度の発言は15秒程度に収めること。15秒の中に『そうですね。その点はいいですが、この点はちょっとわからなかったです』といった具合に3フレーズ程度の言葉を入れると、相手の印象に残りやすい、まとまった意見に聞こえます」

Q.家族や友人との雑談・コミュニケーションで心掛けることは?

A.「言わないこと」を決めておく

「家族や友人と話す際に大事なのは、『言わないことを決めておく』こと。親しい者同士が集うと、下世話な話や悪口に発展することもあるでしょうが、そんなとき、周囲に合わせて自分を落としてしまうと、あとあと『あんなこと言わなきゃよかった…』と自己嫌悪に陥りがち。人も自分も傷つけないために、『何があってもこれだけは言わない』ということをあらかじめ決めておきましょう」

【雑談が不得意な人へ、今日から心掛けてみて】

口下手でも大丈夫!
ちょっとした心掛けで
ネガティブがポジティブに!

「僕は口下手だから……」「私は人見知りだから……」などの理由で雑談に苦手意識を持つ人にも、突破口があります。以下の3つを心掛ければ、人と話すのが楽しくなっていくはず。

合いの手を入れる
「口下手な人が雑談をするときは、相手の話に対して、合いの手を入れることから始めてみましょう。その際に頼りたいのが『あ行の力』です。『ありがとう』『いいね』『うまいね』『えらいね』『おいしいね』など頭に母音がつく言葉には、いい合いの手がたくさんあります。そしてもう一つ重宝するのは、『すの力』です。『すごい』『すばらしい』『すてき』などですね。自分から何か話さなくても、合いの手を入れるだけで場のムードが盛り上がる。それも立派な雑談力です」
相手の良いところを見つける
「人間誰しも初対面の人と話すのは不安なものです。そのネガティブな感情をポジティブに変えていけるのは、『相手の良いところを見つけるのが早い人』です。『この人、ちょっと怖そうに見えるけど、ネクタイのセンスはいいな』『靴がピカピカだな』『話し方が紳士的だな』というようにプラス要素を見つけていくと、その人のことが段々と好きになり、話すのも苦痛ではなくなります」
自分にレッテルを貼らない
「自己紹介のときなどに『私は口下手で……』と宣言する人がいますが、それはやめたほうがいい。そうやって自分にレッテルを貼ってしまうと、過去の失敗例ばかりを思い出してしまい、その呪縛から逃れられなくなるからです。マイナスなレッテルは今すぐ取り払いましょう。『口下手だ』とは二度と言わず、『口下手なこともある』と考えればOK。そうして言葉を曖昧にしていくと、苦手意識が薄れていきます」

【忘れてはいけない3つの気持ち】

「技」に「心」を乗せれば
話すのがもっと楽しくなる

以上、雑談力を高めるためのさまざまな秘けつを教えてもらいましたが、ひきたさんは最後にこう付け加えます。「話す技術を磨くことも大切ですが、心を置き去りにしてはいけません」。人と会って話す際には、以下の「3つの気持ち」を思い出しましょう。

1「会えてよかった」という気持ち
「相手が毎日顔を合わす人でも、初対面の人でも、『あなたに会えてよかった』という気持ちを大事にしましょう。そう思うことから、ポジティブなコミュニケーションが生まれます」
2「もっと知りたい」という気持ち
「自分が何をどう話そうかということよりも、『あなたのことをもっと知りたい』という気持ちを大切にしてください。好奇心いっぱいに尋ねていくと、相手はきっと『この人は私の話をよくわかってくれるな』『この人といると楽しいな』と感じてくれることでしょう」
3「また会いたい」という気持ち
「別れ際に、『話していて楽しかったのでまた会いたい』と思う気持ちも大事。そして、相手からもそう思われることを目指しましょう。また会いたいと思えるかどうか。それが人の印象のほぼすべてです。そういう人間になろうとするところに雑談力が生まれ、雑談力が人間性を作っていくのです」

この3つの気持ちを持つだけで、表情や話し方も自然と明るくなり、より楽しいコミュニケーションを取れるようになるはずです。たかが雑談、されど雑談。話が弾めばお互い気持ちがいいですし、言葉のやりとりの中から新たな気づきや学びも得られるかもしれません。さあ、さっそく誰かに話しかけてみましょう!

INFORMATION

ひきたよしあき

コミュニケーションコンサルタント。博報堂に入社後、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動。また、行政から小学校まで講演の依頼が急増中で、多くの大学の講義でも学生からの支持を集める。主な著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『一瞬で心をつかみ意見を通す対話力』(三笠書房)など。
URL/https://smilehikita.com/

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