おいしく“たべる”。
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NEW <連載> おいしく“たべる”
“きもち”をたかめる。<連載>
撮影/菅原景子 取材・文/和栗恵
寒くなると起こりやすくなる心臓発作。心筋梗塞、狭心症、心不全などを総称して「心臓発作」と呼びますが、こうした心臓トラブルが起こりやすくなるのは12~3月の寒い時期(厚生労働省調べ)。寒さを感じると、体温を保とうとして血管が収縮するため血圧が高まり、心臓に大きな負担がかかることで、心臓発作につながってしまいます。ですがもし発作が起きても、速やかかつ適切な救急救命を行えば、大切な命を救うことができます。
自分事化しにくい問題ですが、もし家族や友人、いつも一緒に働いているPTRやお客様が急に倒れたら…? そんな緊急事態に直面したときに、私たちに出来ることは何なのでしょうか。今回は救命処置の方法とAEDの基本的な使い方について、AEDの普及に努める医師・本間洋輔さんにお聞きしました。
2023年10月、松本市で行われていたJリーグの試合中、70代の男性が突然意識を失い倒れました。そこに観客として居合わせた看護師の女性3人が、速やかに救命処置をして命を救うという出来事がありました。その後男性は歩けるまでに回復。男性の命をつないだのは、倒れてすぐに行われた胸骨圧迫(心臓マッサージ)と自動体外式除細動器(AED)でした。
心臓発作に見舞われた際、当人は意識不明になり倒れこんでしまいます。目の前の人が急に倒れたとき、「どうしよう」と思い動けなくなってしまう方も少なくないでしょう。しかし、状況を理解して一刻も早く胸骨圧迫を行い、AEDを使用することで、救える命があるのです。
「現在日本には、約65万台のAEDが設置されています。専用アプリやスマホでの検索により、設置場所を知ることができるようにもなっています。
ただ急を要する場面では、パニックになりやすいもの。そのため、事前にご自身のスマホで『team ASUKA』と検索して、アプリをダウンロードしてみましょう。
普段働いている店舗や店舗周辺、利用している駅のどこにAEDが設置されているのか、あらかじめ把握しておくことが大切です。
世界でも有数のAED保有国に住む私たちが『使い方を知らなかったから』『AEDの場所がわからなかったから』と、他人事で済ませる時代は、とうに過ぎ去っているのではないでしょうか」
そう語るのは、医師であり日本AED財団にてAEDへの認知を深める活動を行っている本間洋輔先生です。
本間先生によると、心臓発作で倒れ心停止してから、AEDを使用する時間が1分遅れるごとに、救命率は10%低下していくとのこと。
119番通報をしてから、 救急車が到着するまでの平均時間は9.4分。この間、何もせず放置してしまうと、助かるはずの命も助けられなくなってしまいます。
また新型コロナウイルス流行後は患者数の増加により、東京都で『救急車ひっ迫アラート』が発令されたりと、119番通報がつながりにくい場合も。このような状況だと、なおさら救命処置が大切になってきます」
2021年に行われた総務省消防庁の調べによると、倒れる瞬間を目撃された心停止(周囲に人がいる中で倒れた例)は、全国で年間26,500件。すぐに救命処置が行われたのはこのうち15,225件で、AEDが使用されたのはわずか1,096件のみ。AEDの電気ショックが行われたのは、たった4.1%です。
「救急車を呼ぶことも大切ですが、だからといって何もせず見ているだけでは、危険な状況に変わりはありません。胸骨圧迫を行うことで、命が助かる可能性は2倍になります。また、AEDを使用すればさらに2倍に。つまり、現場で救命処置を行うことで、生きられる可能性が4倍にまで高まるのです。
まずみなさんにお伝えしたいのは、怖がらなくていいということ。もし目の前で誰かが倒れたとき、どうすればいいかわからなくても119番に通報すれば、救命措置のやり方やAEDの使い方などをきちんと教えてくれます」
次の章では、いざというときにパニックにならないよう、AEDを使用するまでの過程や胸骨圧迫の方法を教えていただきます。
心臓発作で倒れた方の命を救う上で、大きな役割を担うAED。しかし、その使用をためらう方も多く見受けられると本間さんは語ります。その理由は、倒れている人に「本当にAEDを使っていいのかわからない」ため。AEDによる電気ショックが必要ではない状態なのに、AEDを使用してしまうことで、何か体に悪い影響があるのではないか…と考える人が多いそうです。しかし、実はそのような心配は必要ありません。
「心臓発作が起こった際、心臓はブルブルと細かく震えてしまっていて、血液を送り出せない状態になっています。心筋梗塞や心臓の異常、胸に強い衝撃を受けたことなど、その原因はさまざまですが、とにかく『心臓が正しく動いていない状態』になるのです。
AEDは、そうした心臓に異常がある際、電気ショックを与えることで正常な機能を回復させる装置で、正しく心臓が動いているかどうかを調べる機能も備わっています。
もし心臓の動きが正常な人にAEDを使用しても、必要なければAEDがその旨を教えてくれるので大丈夫です。目の前で誰かが倒れたら、速やかに119番に通報するとともに、躊躇せずAEDの手配を行ってください」
また、AEDを使用する際は、できるだけ多くの人と連携をとることが大切だと本間さんは言います。
「AEDを使えばそれでOKではなく、AEDが届くまでの間や、AEDを使用したあとも、胸骨圧迫を続ける必要があります。救急隊に引き継ぐか、意識が戻るか、AEDから体から離れるように指示があるとき以外は、絶え間なく続けてください。胸骨圧迫はとても疲れる作業なので、交代要員も必要になります。ほかにも、救急車を呼ぶ人、AEDを用意する人、その場で交通整理等を行う人…と、多くの方の力を借りることが大切です。
倒れた方がいたら、大声を上げて協力をお願いする。これも、命を救うために大事なことです」
現場にAEDが届いたら、電源を入れてAEDの指示に従い、電気ショックを行います。難しそうと感じる方もいるかもしれませんが、AEDは初見の方でも使いやすいよう、音声でのガイド機能や、電極パッドを貼る位置などが、イラストによってわかりやすく指示されているので大丈夫。
次の章で、AEDの詳しい使い方を教えていただきます。
複雑そうに見えるAEDですが、その使い方は思っている以上に簡単で、一度も触ったことがない方でも音声ガイドの指示に従えば正しく使用することができます。ここで予習しておけば、いざというときに、より落ち着いて行動できるはずです。
電気ショックが必要であればアナウンスが流れますので、周りの人が触っていないことをしっかり確認した上で電気ショック開始のボタンを押し、電気ショックを行います(電気ショックの必要がない場合はAEDから「電気ショックの必要はありません。ただちに胸骨圧迫を再開してください」などといった音声が流れます。その際は電気ショックが必要ではないタイプの心停止ですので、音声の指示に従いただちに胸骨圧迫を再開してください)。
「電気ショックを行ったあとはすぐに胸骨圧迫を続けるようAEDが促しますので、速やかに胸骨圧迫を再開してください。
2分ごとに再び心臓の様子を調べ、必要であれば電気ショックを行うよう求めてきますので、AEDの指示に従って救急処置を続けましょう」
ちなみに、AEDを製作している会社が2021年に行った調査によると、女性に対する救命処置に対し、抵抗感を持っている人が多く、「救命処置を行いたいが抵抗がある」と答えた人が約4割に上ったといいます。
「倒れた女性にAEDによる救命処置を行ったら、訴えられた」という内容のSNS投稿が話題を呼びましたが、胸をはだける必要がある処置のため、女性へのAEDの使用をためらう人が残念ながら一定数いるのだとか。
「まず、SNSでのそのような話はデマです。AEDを使用してセクハラなどで訴訟になった例は、我々が知る限りではありません。
突然の心停止が起こった場面では、迅速にAEDを使用することが重要です。ですが、可能であれば倒れた人への配慮もできるといいですよね。
AEDのパッドは素肌に直接貼る必要があります。パッドを素肌に直接貼ることができれば、ブラジャーなどの下着も必ずしも外す必要はありません。ブラウス等であれば服を脱がさずボタンを外して手を入れて電極パッドを貼る、パッドを貼ったらすぐに上着やタオルをかけるといった方法もあります。
もちろん、モタモタしてしまうと命に関わります。そうした配慮をしている余裕がないときは、非常時だと割り切ることも大切です。
なお、『ワイヤー入りのブラジャーをしたままだと危険』という話もあるようですが、これも気にする必要はありません。ワイヤーの部分で大きな火傷になることはまずありませんし、もし火傷をおったとしても命の方が大切です。火傷は、私たち医師が治しますから!」
胸骨圧迫やAEDの操作を学ぶことができる「救命講習」は、全国の消防署や自治体、日本赤十字社により行われています。こうした講習に出て、実際に救命処置を学んでおくと、いざというときに行動する勇気につながります。
また、日本AED財団のオンライン講習会や、総務省消防庁のウェブサイト「一般市民向け応急手当WEB講習」で救命救急に関する動画を見ることもできるので、一度は目を通しておくとよいでしょう。
「倒れた人に声をかける勇気をもってほしい」と本間さん。
先にも述べましたが、倒れた人を目の前にしてパニックになっていては、救えるはずの命を失うことになってしまうかもしれません。もしかしたら将来、あなた自身が助けてもらう可能性だってあるのです。1人でも多くの人が救命処置について知識を深めることで、この先に守れる命が増えるはずです。
本間洋輔
千葉市立海浜病院 救急科統括部長、NPO法人ちば救命・AED普及研究会理事長。救急専門医として働く傍ら、AEDや救命処置の必要性を広める活動を行う。
URL/https://hospital.city.chiba.jp/kaihin/department/section/emergency/
URL/https://www.chibapush.org/
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“きもち”をたかめる。
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