“きもち”をたかめる。
寝ても疲れが取れない人必見! 睡眠の専門家に学ぶ、快眠のコツ
NEW <連載> “きもち”をたかめる。
“きもち”をたかめる。<連載>
撮影/菅原景子 取材・文/和栗恵 イラスト/蔵元あかり(Roaster)
「セルフメディケーション」とは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(世界保健機関<WHO>)。
日本では2017年開始の「セルフメディケーション税制」が2022年に改正され、利用しやすくなったことを知っていますか? 今回は、薬剤師として健康イベント支援や研修などで活躍する曽川雅子さんに、簡単なセルフメディケーションの活用方法を教えていただきます。
コロナ禍で話題となった“医療のひっ迫”。新型コロナウイルスの感染拡大がおさまったとしても、毎年、冬には決まってインフルエンザも流行します。「医師に診てもらいたくても病院は混んでいて受診しにくい」と、感じている人も多いのではないでしょうか?
一方で、一人ひとりのセルフメディケーションが、日本の医療ひっ迫の状況を和らげると予測されており、期待が寄せられています。
「WHOが定義する『自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること』には、自分で市販薬などを使って軽度な不調を手当てするほか、適度な運動やバランスのとれた食事、睡眠と休息の確保、体重や血圧など数値的な視点でみる体調管理、そして定期的な健診で健康状態を確認するといった、日常的な取り組みの意味合いもあると捉えられます。
セルフメディケーションはその人に健康の維持と増進をもたらし、生活習慣病の発症予防や重症化予防にもつながることで、結果として国全体の医療費削減にも寄与します。
日本の『国民皆保険制度』は素晴らしいものですが、制度はあっても受診ができないという状況に対して、国民一人ひとりが考える時代になってきたのかもしれません」
そう語るのはセルフメディケーションの周知活動を行っている薬剤師の曽川雅子さんです。
「セルフメディケーションをしよう」と思っても、薬の知識がある場合をのぞき、自分で手当てすることに不安を感じる人も多いかもしれません。実際、2021年に発表された厚生労働省の報告によると、気になる症状に対してとった行動で、OTC医薬品(※1)を使った人と医療機関を受診した人の合計を全体として見た場合、OTC医薬品を使った人の割合は24.4%と3割にも達していませんでした(国民生活基礎調査2016年)。これは、7割以上の人がOTC医薬品を使うことなく、すぐに受診しているということです。
(※1)OTCとは「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」の略で、カウンター越しに薬を購入するかたちに由来し、薬局、薬店、ドラッグストアなどで処方箋なしに購入できる医薬品のこと。
「当たり前に保険が適用される日本では、“さほどひどい症状でなくても受診して診てもらった方が安心”と考える方が多いのかもしれません。ただ、混み合う病院内を見ればお分かりの通り、軽度な症状でも命取りになり得るような、ハイリスク患者さん(シニアや妊婦のほか、がんや免疫系疾患など重症化しやすい病気を抱える方)も一緒に順番待ちをされています。
決して、『症状が軽いのなら受診を控えるべき』ということではありません。セルフメディケーションが可能な方はOTC医薬品などを使って自身で手当てを行うことが、少しでも医療現場のひっ迫を和らげ、医療を必要とする方がより早く治療を開始することにつながると捉えてみてはいかがでしょうか」
医療ひっ迫の解消だけでなく、セルフメディケーションを行うことは、私たちにとって大きなメリットがあると曽川さん。
「たとえば病院や薬局で待っている間、その場に居合わせた別の患者さんの感染症がうつってしまうというリスクが回避できます。また、仕事や家事のほか育児や介護などが忙しい方、時間に融通の効かない方には特におすすめです。結果として、自ら体調を確認して薬を選ぶことにより、自分の健康に関する理解や関心も深まります。
『まずはOTC医薬品を使ってみようかな』と思うことが、セルフメディケーションを実践に移す第一歩になるのでしょう。その先は、薬剤師や登録販売者の方もサポートしますので、ご自身の症状に合った薬を選ぶ醍醐味を味わっていただけたらうれしいです」
セルフメディケーションの定義では、「軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とありますが、「軽度な不調」というのはどの程度を指すのでしょうか。どの位の期間、自身で手当てをしてみるのが妥当ですか?
「頭痛、悪寒、微熱といった症状が代表的でしょうか。
38度を超えるような高熱や、昼夜ずっと気になるような痛みなどは、軽度な不調には該当しないため、迷わず医療機関を受診してください。
たとえば、解熱鎮痛剤なら1回から多くても2回、総合感冒薬(かぜ薬)なら2日から長くても3日間、塗り薬なら1日から2日間続けて使用しても改善が見られなければ受診するのがよいでしょう。また、はじめの症状と異なる症状が新たに出てきた場合で、それが続くときには受診に切り替える目安にしましょう。
軽度な不調であるかどうかは個人差もあるものの、普段から自分の体調をよく観察し、いつもと違う症状にすぐ気づくということが大事です」
「OTC医薬品よりも処方薬の方が効く」と思っている方も多いかもしれません。 実際はどうなのでしょうか?
「まず、このような先入観を抱いてしまう理由として考えられるのが、的確な対症療法でしょう。
医師の処方では、その症状の程度や引き起こしている原因(細菌感染や免疫力の低下など)を見極め、用量を調節しながら薬を選びます。一方、OTC医薬品では複数の成分を配合することで、複合的に多くの症状に対して効果効能をうたうものも少なくありません。
処方薬とOTC医薬品では使える有効成分の用量に一部、違いがあるのも要因のひとつと考えられます。
しかし、軽度な不調の場合、実際には処方薬(医療用薬品)とOTC医薬品とで、成分や含有量が変わらないこともあります。
また、保険がきく処方薬のほうが『安い』と考えるかもしれませんが、受診費用や移動にかかる費用と時間を考えれば、総合的に見てOTC薬品のほうが安く済むこともあります」
「元々、ヒトには体を正常に戻そうとするシステムが働いています。これが不調によって十分に機能しないと、症状は長引くことに。この不調に対して薬を使い、体が正常に戻ろうとするのを助けてあげるのが『対症療法』です。
そのため、セルフメディケーションで大切なのは、軽度な段階での症状の見極めです」
軽度な症状の際にOTC医薬品を活用したいけれど、どのように選べばよいか迷う人も多いはず。今回はOTC医薬品の活用に関して、押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
「『セルフメディケーション税制』とは、医療費控除の特例として、OTC医薬品のうち対象となる医薬品を購入した際に、所得控除を受けることができる制度です。
生計をひとつにする家族全員分の年間購入額が12,000円以上なら、この金額を超えた分についてセルフメディケーション税制の利用が検討できます。
控除を受けるには、勤務先が実施する定期健康診断や市区町村が実施する健康診査、5種類のがん検診、特定の予防接種などに1つ以上、取り組んでいることが必要です。ただし、既存の医療費控除を受けている方は、これと合わせて受けることは出来ません(詳しくは国税庁のHP「セルフメディケーション税制」のページをご確認ください)」
参考:日本一般用医薬品連合「知ってトクする! セルフメディケーション税制」シミュレーション
セルフメディケーション税制の対象となるOTC医薬品は、2023年7月1日の時点で6772品目。制度がスタートした2017年から徐々に増えて、2022年1月にはその対象も大幅に拡大し、より利用しやすくなりました。
「見分けるときは医薬品の外箱をチェック。対象の薬には『セルフメディケーション税控除対象』のマークがプリントされているほか、レシートにもその旨が表記されています。
確定申告をする際にはこの表記の有無を確認し、対象商品に支払った総額(税込み)を記載しましょう。
近年では、『ふるさと納税』を活用して、確定申告する方も多いですよね。セルフメディケーション税制は、『セルフメディケーション税制の明細』を添付して申告するだけなので、ハードルはそれほど高いものではありません。せっかくなので、自身で学びながら取り組んで購入した薬の額について、国がバックアップする制度を活用してみてはいかがでしょうか」
「セルフメディケーション税制=節税」というイメージを、持たれる方も多いかもしれません。けれど、この制度は職業や立場、課税内容に関係なく誰でも取り組むことができます。1年を通して自分が対象者になる可能性もあるので、OTC医薬品を購入したレシートはとっておくとよいでしょう。
人によっては期待するほど控除額は大きくないかもしれませんが、セルフメディケーションに取り組む姿勢はきっと、自分だけでなく、医療を必要とする誰かの未来につながっていきます。
自分で選んだ薬で体調を整え、国に医療費負担をかけにくい体調管理をするという姿勢について、自分自身をほめてあげてください。セルフメディケーションを選択し、その結果得た利益を味わっていただけたらうれしいです」
曽川雅子
薬剤師、メディカルライター、株式会社リテラブースト代表取締役。東北薬科大学(現・東北医科薬科大学)卒業後、薬剤師として薬局勤務を経て独立。「薬剤師は世間と医療業界との情報の溝を埋める橋渡し役」と考え、健康イベント支援や記事執筆の請負い、研修事業を展開。医療機関内に縛られずに設置できる、指先から1滴の血液で健康状態を知る検体測定室(簡易血液検査)のプロデューサーとしても活躍中。
URL/https://literaboost.co.jp/company/message/
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