“きもち”をたかめる。<連載>

歯は内面を映す鏡!
正しいデンタルケアを学ぼう

撮影/藤井由依[Roaster] 取材・文/山下俊太[Roaster] イラスト/かざまりさ

コミュニケーションに自信を持ちたいなら、まずは清潔な口元から! でも、毎日歯磨きしているはずなのに歯茎が腫れる、虫歯になる、口臭が気になる……なんてことに悩まされていませんか?

歯のことは歯のプロフェッショナルである歯科医師さんに聞こう! ということで今回「小山歯科 中目黒デンタルスクエア」院長の小山徹さんのもとへ。

食後に口をゆすぐ。たったこれだけでも!

さっそくですが、スターバックスの店舗で働くパートナーは休憩時、食事をとった後に、歯磨きする時間がなかなか作れないんです。どうすればいいでしょうか!?

小山先生 食後に水で口をゆすぎ、口の中の食べかすを取り除くだけでも効果はありますよ。休憩中はどんなものを食べますか?

やはり自社商品ですね。スコーンや、フラペチーノやラテといった飲み物でお腹を満たすことも多いです。

小山先生 スコーンは歯と歯の間に詰まりやすいですね。歯間にたまる食べかすは特に注意が必要。歯と歯の隙間を狙って“勢いよく”ゆすぐのがポイントです。砂糖の入ったドリンクを飲んだ後も同じ。また、ラテに使用されるミルクには乳糖という糖の一種が含まれています。乳製品を飲んだ後も、口をゆすぎましょう。

折りたためるシリコン製のカップ。携帯しておけば、気になった時すぐに口をゆすげる!
100円ショップなどでも手に入ります。

虫歯のリスクが身近にあったとは! 日々何気なく食べ飲みしているものにも、思った以上に注意が必要そう。それにしても、口をゆすぐだけでも効果があるとは驚きです。

小山先生 もちろん歯磨きできるに越したことはないですけど、時間があまり取れない昼間は水でゆすぎましょう。その代わり、朝晩はしっかり磨いてください。

コップ、どうやって洗いますか?

朝昼晩、歯磨きしているんですけど、虫歯になります……。

小山先生 それは正しく磨けていないから。僕の患者さんの中でも、虫歯を防げる正しい歯磨きができているのは10人に1人くらいですよ。多くの人がしてしまう最大の間違いが、複数の歯を同時に磨こうとすること。例えば洗い物をするとき、何個かコップがあるとして、並べたまま一気に洗ったりはしないはずですよね? 1個1個手に取って、いろんな角度に持ち替えて洗うはずです。

なるほど! イメージしやすいですね。つまり、歯も1本ずつ磨く必要があるんですね。では、具体的にはどうやって磨くのが正しいのでしょう?

小山先生 まず歯ブラシの持ち方はペン持ちで。力加減を調節しやすく細かいところも磨きやすいです。握りしめて持つ人もいますが、力が入り過ぎて歯や歯茎を傷つけてしまう原因になります。ブラシを当てる角度は、歯茎側に45度傾けて。歯周ポケットにも毛先が届きやすくなります。毛先は歯に押し当てたまま、5mm〜1cmの幅で細かくストローク。1本1本を丁寧にブラッシングしていきましょう。

1本1本……。外側だけでなく内側も磨くとなると、時間かかりますね……。

小山先生 しっかり磨けば15〜20分はかかるかもしれません。でも、朝晩のどちらかだけでも、そのくらいは歯磨きに費やしてほしいですね。口の中の菌は、寝ている間が最も繁殖しやすいので、その前後はしっかり歯磨きしておきたい。

確かに、起きた直後の口の中って、便器より汚いって聞いたことがあります……。

小山先生 だから起きたときに口が臭くない人なんていませんよ。そして、そのまま朝食を食べると、菌まで一緒に体内に取り込んでしまうので、あえて朝食前に歯磨きをするというのもおすすめです。

歯ブラシだけで十分って思ってない?

ところで、歯ブラシを選ぶときのポイントって何ですか?

小山先生 歯ブラシは、自分の口の状態に合ったものを選びましょう。例えば、歯茎がちょっと腫れているな〜という人は、毛が細く柔らかいタイプを。歯茎を傷つけず、狭まった隙間にも毛先が届きやすい。どんなものが合うかはコンディションによって変わってくるので、歯医者さんに相談して、教えてもらうのが手っ取り早いですよ。あと、毛先のチクチク感がなくなったらブラッシング効果がなくなってきた証拠。1〜2カ月ごとに取り替えましょう。

歯磨き粉はどうでしょう?

小山先生 歯磨き粉は泡立ちがいいタイプを使うと、泡だけでしっかり磨けた気分になってしまうので気をつけましょう。極論を言えば、正しくブラッシングできていれば、歯磨き粉は何でもOK。あと、歯磨き粉を使って磨いた後のゆすぎは、少ない方がいいんですよ。

えっ、歯磨き粉が残っている気がして気持ち悪いですが……。

小山先生 ほとんどの歯磨き粉にはフッ素が入っていて、歯の再石灰化を促したり、菌が食べかすから酸を生み出すのを抑制してくれます。なので、ゆすいでさっぱり洗い流すよりも、口の中に少し味が残るくらいの方が虫歯予防に効果的なんです。

歯ブラシと歯磨き粉以外に、使った方がいいものはあるのでしょうか?

小山先生 デンタルケアは歯ブラシ1本で済ませられない、というのが常識と思ってください! 虫歯ゼロを目指すならデンタルフロスや歯間ブラシは必須です。

歯ブラシだけじゃ不十分なんですね。

小山先生 そう。むしろ一番虫歯になりやすいのは、歯ブラシが届かない歯と歯の隙間。ここの食べかすが取り除けないと、菌が繁殖し、プラーク(歯垢)となって虫歯に繋がります。プラークを徹底的に除去することがデンタルケアの基本なのですが、歯ブラシだけでは不十分。なので1日に1回は必ずデンタルフロスか歯間ブラシを使ってほしいです。僕はどんなに酔っ払って帰ってきても、必ずデンタルフロスでケアしてから寝ます!

歯にかぶせものをしている人は、ピック型だと引っかかりやすいので注意。歯間ブラシのサイズは、歯間に入れた際に少し抵抗感があるくらいのものを選んで。

小山先生 正しく磨けているかを知るには、歯垢染色剤を使ってみるのもおすすめです。

あの歯が赤くなるやつですね!

小山先生 ドラッグストアでも入手できますよ。人それぞれ磨き方にクセがあるので、どこがおろそかになっているのか、実際に自分で確認して知ることが大切です。あと、磨く順番に自分なりのルールを作るのもいいでしょうね。どこから磨いけばいいという決まりはありませんが、意識することで磨き残しは減らせます。お風呂でも、身体を洗う順番って決まってるでしょ?

私は左手から洗いますね。ところで、電動歯ブラシって歯磨きには効果的なんですかね?

小山先生 音波式のものならおすすめです。手動ではできない細かいストロークで磨けますし、音波振動が細菌の塊を破壊してくれるので。ただし、単にモーターで動いているものは、そもそも歯磨きが不十分な人が使ってもあまり効果がないので、注意して選びましょう。

冒頭で、店舗勤務のパートナーが歯磨きのための十分な時間がとれないというご相談をしましたが、ガムを噛むのはどうでしょう?

小山先生 食後は、菌が糖をエサにして酸を吐き出すので口の中が酸性に傾きますが、唾液はそれを中和する役目を持っています。なので、唾液の分泌を促すためにガムを噛むのは、口の中を虫歯になりにくい環境にするのには一役買ってくれます。キシリトール配合のガムなら、歯の再石灰化効果もあるのでなおさら。また、口の中の乾燥による口臭も防げます。でもガムって……接客しながら噛めないでしょ(笑)

そうですね。ものすごく態度の悪いスタッフになっちゃいます(笑)

小山先生 唾液の洗浄作用や、口の中を中和する働きは、食後15〜30分後に活発になります。なので、食事と食事の間隔は十分あけるようにしましょう。間を置かずに食べ物や糖が入った飲み物をダラダラと摂り続けていると中和が追いつかず、口の中が長い時間酸性のままになってしまい、歯が傷つきやすい状態になりますからね。

最後に歯医者さん行ったの、いつだっけ?

歯医者さんに行くタイミングはどうしたらよいでしょう?

小山先生 3〜6カ月に1度は行きましょう。美容院には毎月にでも行くのに歯医者にはなかなか行かない、という人が多い気がします。髪はまた伸びますけど、歯は失ったらもう生えてこないんですよ!

確かに……。

小山先生 それに、やっぱりセルフケアだけでは限界があります。歯医者のぼくですら、半年に一度は歯科衛生士さんに歯石除去をしてもらっています。職業や食生活によって歯周病や虫歯になるリスクは人それぞれですし、歯の状態が違えば自分が気をつけるべきことも変わってきます。歯医者さんに診てもらい、ケアの方法を定期的に見直すことが大切なんです。

歯医者さんにかからずに済むようデンタルケアを頑張るのではなく、歯医者さんを上手に活用することこそが、デンタルケアの近道なんですね! いい歯医者さんを選ぶポイントは何でしょう?

小山先生 正しい歯磨きの仕方をアドバイスしてくれる歯医者さんがいいですね。その人に合う歯ブラシを真剣に考えてくれたりだとか。歯磨きという、デンタルケアの基本をしっかり教えてくれる先生は丁寧な人が多い気がします。

デンタルケアは自己管理。
歯は内面を映す鏡

最後に、日々たくさんの患者さんと接している中で、感じていることを教えてください。

小山先生 日本はほかの先進国に比べて、デンタルケアへの意識が遅れているように感じます。欧米諸国なんかは、言語的にも歯を使って発音することもあり、歯への美意識は非常に高い。一方、日本では医療保険制度によって安価に歯科治療を受けることができるのはいいことではありますが、だからこそ「虫歯になってから歯医者に行けばいいや」と他力本願になりがちです。しかし、虫歯リスクに個人差はあれど、本来は自己管理の問題。生活習慣に気をつけているかどうかが歯の状態に現れる。だから、歯を大事にできている人は、内面も美しいとぼくは思います(笑)

小山先生 高齢者へのアンケートで「体のどの部分で老化を感じるか」と聞くと上位にくるのが、「歯」と「目」。経年変化ですり減りますし、年代が上がるにつれ、入れ歯やインプラントなどの処置をしている割合が高くなっているのも事実です。確かにデンタルケアは100%完璧に実践することは難しいですが、その気になれば加齢変化に負けず生涯健康を維持できるものだとぼくは思います。歯がなくなってから、大切さに気づくのでは遅いですよね。毎日の丁寧なセルフケアと、定期的な歯医者でのケアの組み合わせで、いつまでも健康的な歯を維持しましょう。

まとめ

●食後、時間が十分にとれないときは、歯間を意識して口をゆすぐ。ガムを噛む。
●歯磨きは、1本1本ブラッシング。細かいストロークや、毛先を歯に当てる角度にも注意。
●歯ブラシだけでは不十分! 朝晩のうち、どちらかはフロスや歯間ブラシも使ってじっくりケア。
●3〜6カ月に一度は歯医者さんへ。

INFORMATION

小山 徹
目黒銀座商店街にある「小山歯科 中目黒デンタルスクエア」院長
HP:http://www.dental-square.jp

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