“きもち”をたかめる。<連載>

まずは自分を知る!
気持ちよい人付き合いの心得

撮影/菅原景子 取材・文/金城和子 イラスト/蔵元あかり(Roaster)

気持ちよい人付き合いを考える二人のイラスト

日常生活において、人付き合いは避けられないもの。人との関わりによって充足感を得られることもありますが、ときにはそれがストレスになることも。そこで今回は、人間関係によってストレスを溜めない心得や、コミュニケーションを円滑にするコツを、公認心理師・メンタルトレーナーの小高千枝先生に教えていただきました。

ストレスを溜めない
人付き合いのコツとは?

「人付き合いが苦手」、「人間関係に疲れてしまう」など、日常生活を送る上で、そんな悩みを抱えている人は多いはず。できるだけストレスを溜めないポイントとして、まずは「人との距離を上手く取る」ことが大切だと小高さんは言います。

「そこまで求められていないのに、相手を理解しようと前のめりになってしまうことはありませんか?その根底には、認めてもらいたいという気持ちや存在意義を見いだそうとする欲求があります。それゆえストレスフリーな人間関係を築くためには、まず“自分の根っこにある思い”を知ることが必要なんですね」

公認心理師・メンタルトレーナーの小高千枝先生と小高千枝先生の著書
公認心理師の小高千枝さんは、個人へのカウンセリングや企業での人材育成・メンタルトレーニングのほか、各種講演でも活躍しています。新著『インポスター症候群 本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい』など著書も多数。

コロナ禍によってリアルなコミュニケーションの機会が減少し、“余白の時間”がなくなったことがストレスにつながる人も多いのだとか。

「職場でたとえるなら、同僚とのちょっとした雑談などが肩がゆるむ“余白の時間”に当たります。相談者さんの話を聞いていると、そのような時間を多く取れていた人ほど、コロナ禍を経てストレスを感じやすくなっているように思います。ですが人によってストレスの原因は違うため、まずは自分がどんなときにストレスを溜めやすいタイプか知ることが大事です」

次の章で、自分の性格をチェックしていきましょう。

自分の性格を知ることで
人間関係を円滑に

等身大の自分を理解していれば、自分の「できること・できないこと」が明白になって、相手との距離をコントロールしやすくなります。そうすると人に対して過度な期待をしなくなり、相手の役に立てなかった場面で自分を責めることも少なくなるそう。

「人付き合いのコミュニケーションにおいては、相互に理解しあえることが理想です。しかしストレスを溜めやすい人は、相手になにかしてあげたい、自分を受け入れてほしいという気持ちが強すぎたり、反対に相手との距離を取り過ぎてしまうなど、コミュニケーションが一方通行になりがち。だからこそ自分自身を知って、自分がストレスを感じやすいタイミングを客観的に理解し、対策していきましょう」

あなたはどれ? 5つの性格タイプ!

小高先生のお話をもとに、性格を下記の5タイプに分類しました。先生いわく、シチュエーションや相手によって変わることもあるため、まずはベースの自分がどのタイプに当てはまるかをチェックしてみましょう。

5つの性格タイプをあらわす5人のイラスト
タイプ1  相手の感情に流されないタイプ
「こちらのタイプは、感情に流されない論理思考の人。相手が笑っていたり怒っているときに、『なぜこの人はこんな感情になっているんだろう』と、ひと呼吸置いてから接することができるため、距離の取り方は上手です。ただ相手からは冷たく見えてしまったり、自分を受け入れてくれないという感覚を与えてしまうことも」
意識したいことは…?
「まずは相手に共感すること! 具体的なコツとしては、『どこがそんなにおもしろいと思ったの?』と話を掘り下げたり、『それは辛いよね』といった寄り添う声がけをしてみること。そうすると会話が続きますし、相手は自分に興味をもってくれて、受け入れてくれたと感じるので、心を開いてくれやすくなりますよ」
タイプ2  相手の感情に流されるタイプ
「第一印象は親しみやすいのに、コミュニケーションを取っていくなかで距離を感じさせてしまうのがこのタイプ。相手との距離に違和感を感じてもやり取りを続け、自分の中のボーダーラインを超えると、突然素に戻ったりすることが。わいわい盛り上がっていたのに、ふと見たらすごく冷めた顔をしていたりと、相手からすれば急に壁を作られたような気持ちになるため、雰囲気がギクシャクすることもあるでしょう」
意識したいことは…?
「相手に合わせようと気張りすぎずに、初めから本来の自分らしさを少しずつ出していくことです。たとえばいつも期待に応えようとオーバーリアクションしすぎてしまう人は、コミュニケーションにかけるパワーを少し抑制してみるとか。そうすると距離感のバランスを保てるかもしれません」
タイプ3  相手の感情に流されるタイプ
「人間関係を損得勘定で見てしまう人がこちらに当てはまります。『この人と一緒にいてもメリットがなさそう』と感じたら、関係をばっさり断つ傾向にありますね。ビジネスならメリット・デメリットを加味した人付き合いが吉となることもありますが、日常生活においては結果的に自分と同じようなタイプの人ばかりが周りに集まってしまい、ストレスにつながることも」
意識したいことは…?
「ポイントは、損得を考えなくてもいい居場所を作ること。習いごとをしたり地域のボランティアに参加してみるのもいいでしょう。職場や友人とは別のコミュニティに身を置いて、『人と人は互いに利益がなくても思い合えるもの』という感覚を養ってください」
タイプ4  自己犠牲タイプ
「ひと言で言えば頑張り屋さんです。相手に寄り添いたい気持ちが強いので、他者評価は気にせず『相手に尽くせればそれでいい!』と考えます。そして、『もっと自分を大事にして!』と気遣われても『ぜんぜん大丈夫だよ』と遠慮するのがこのタイプ。周りの人ファーストになりすぎて自分でも気づかないうちに心と体のバランスを崩しやすい傾向にあります」
意識したいことは…?
「心身のコンディションにちょっとでも違和感を感じたら、1人になる時間を取ってひと呼吸置くこと。冷静に自分を俯瞰して見て、本来理想としている他者との関係性やコミュニケーションの取り方を見直しましょう。自分で自分を認める自己承認力を高めることで、本来のあなたを大切にするきっかけにもなります」
タイプ5  執着タイプ
「人や物に対する執着心や自分へのこだわりも強い人。特徴としては、人からどう見られているか気にする人が多いですね。自己犠牲タイプと同じく他者に寄り添っているように見えますが、そこで自分が期待しているレベルの評価が受けられないと、気にしすぎてしまう傾向にあります。相手から認められたいという欲求が強いのが特徴です」
意識したいことは…?
「相手に寄り添う気持ちはとても大切ですが、このタイプは特に執着心をコントロールする必要があります。たとえば家に友人を招いておもてなししたときに、自分が期待していた通りの褒め言葉やお礼がなくても気にしないようにするなど、自分を俯瞰してみることを意識するといいでしょう」

上に挙げた5タイプに加えて、慎重派だったり繊細な人は特に人間関係で傷つきがち。そんな人はどのようにストレスを軽減していけばいいのでしょう?

「傷つきやすい性格って、裏を返せば人の痛みが分かるということですよね。なのでその繊細さを長所だと捉えてみてください。『××(短所)だけど、〇〇(長所)な自分』というポジティブで終わらせる考え方を意識し、人と比べず、自分のいいところを認めてあげることからはじめましょう」

こんなときどうする?
場面別のコミュニケーション対処法

職場や家庭、SNS上に至るまで、現代人が人と関わる場面はさまざま。続いては私たちにとってよくある身近なシチュエーションをピックアップし、各シーンにおける人付き合いのコツを教えていただきました。

仕事でコミュニケーションをとる3人のイラスト
Q. SNS上でのコミュニケーションに疲れたら…?
「気軽に人とつながれるのはSNSの魅力ですが、“いいね”をしてくれた人が自分の本質を認めてくれているとは確信できないもの。SNS上では自身も表面的な部分しか見せていないことが多いため、演じている自分に反応が来ても本質の部分が満たされなかったり、やはり生身の人とつながっていたいという欲求が生まれたりすることもあるかと思います。そういったときに有効なのは、小一時間でもSNSと距離を取ってリアルな世界に目を向けること。そうすると、ほかにも自分の興味関心や居場所があることを実感でき、SNSへの執着を手放せるようになっていくと思います」
Q. 友人や家族など心を許している相手に対してもストレスが溜まってしまうときは、どうすればいい?
「身近な人だからこそ、受け入れなければと頑張ってしまいますし、相手にも期待しすぎてしまいますよね。友人や家族は、心の距離感が近いからこそ、感情コントロールが難しいともいわれています。もしささいな言葉にイラっとしたり疲れることがあれば、『ちょっと疲れちゃったから今日は帰るね』と話を切り上げたり、LINEのやり取りなら『また後で連絡する!』とひと言添えて、一度コミュニケーションを遮断してください。近しい間柄だからこそ、無理にその場で軌道修正しようとせず、そこで離れることが効果的ですよ。1人になってからイライラした理由を考えたり、気持ちを落ち着かせればなおよいです」
Q. 仕事をする上で人間関係にモヤモヤしたときは、どのように気持ちを落ち着かせればいい?
「離席してコミュニケーションを断ったり、一度外に出て深呼吸をするなど、物理的に離れるのが一番。そもそも人間の性格傾向は、生まれ持った『気質』、家庭環境などによって12歳までにできあがる『気性』、社会との関わりによって形成される『習慣的性格』、そして社会的な立場としての『役割性格』があります。つまりシチュエーションによって、性格が変わるんですね。そのため仕事上の人間関係でストレスを感じたときは、気質・気性の自分に立ち戻って、一旦落ち着くのが効果的なんです」

なおかつ、会社での自身の立場は『役割的性格』と認識できていれば、より気持ちの切り替えがスムーズに。

「後輩から不満を聞かされている状況でたとえるなら、『いまは不平不満を受け止める上司という“役割”として自分はここにいるんだ』と、客観的に置かれている立場を認識できます。個人(気質・気性)ではなく上司という役割として彼らを受け止めていると思えれば、心の持ちようもだいぶ変わるのではないでしょうか」

性格の4層構造のグラフ
性格の4層構造は、生まれ持った『気質』、12歳までの成長過程で形成される『気性』、社会との関わりや習慣によって作られる『習慣的性格』、そして社会に適応するための『役割性格』の4つで成り立っている。

今日から取り入れたい
ストレス発散方法

ただ人付き合いの心得を分かっていたとしても、どうしたってストレスは溜まるもの。そんなとき、どのようにストレスを発散するべきなのか? 日常に取り入れやすいストレス発散法としては、自分のネガティブな感情を思うままに手書きする「筆記開示法」が小高先生のおすすめだそう。いわば、心の内を確認する作業です。

心の中を可視化する女の子のイラスト

「心の中を可視化することで、自分がどんなときに落ち込んだり、イライラするのかを知ることができ、負の感情の傾向や原因がはっきりします。そうすることで、ネガティブなループに陥るのを防ぐことに。
気分によって殴り書きでも、ゆっくり書き出してもOK。繰り返すうちに自分の思考の癖も分かってくるので、ストレスを感じたときに『またこの思考パターンに陥っているな』と自身の状態を理解しやすくなり、自然と適切な改善方法を取り入れられるようになります。理想は1日1回、難しい場合は週に1度の振り返りとして実践してみて」

また部屋の掃除をしたり、そのときの気分に合った映画やドラマを見ることもストレスの軽減につながるとか。

「部屋の掃除は心と頭の整理整頓になると同時に、必要なものと不要なものが明確になることで、俯瞰力(物事・事態・思考など全体的に眺めることができる力)も身に付きます。あとは映画を見て、泣いたり笑ったりするのもおすすめ。感情を発散させるとリフレッシュできますし、涙はストレスホルモンの『コルチゾール』を体外に排出する作用もあるんです」

居場所”を持って
無理せず自分を労る

公認心理師・メンルトレーナーの小高千枝先生の写真

人付き合いは三者三様。その理想形はお互いを必要としながらも、きちんと尊重できる関係性です。

「そんな人間関係を構築するために、他人軸と自分軸のバランスを保ちながら人と接していきましょう。そしてやはり、目の前の嫌なことばかりにフォーカスするとストレスが溜まるので、一度ストレスの原因から離れたり、逃げ場となる居場所を設けておくこともカギ。居場所は『空間』だけでなく、一緒にいると安心できる『人』、リラックスできる『時間』も居場所です。お気に入りのカフェ、楽しい習いごと、素の自分が出せる友人、リラックスできるお風呂時間など、日ごろから『自分には安心安全な居場所があるから大丈夫』と思えるだけで心にゆとりが生まれ、人との関わりがより豊かな時間になるはずです」

INFORMATION

小高千枝
公認心理師・メンタルトレーナー。学生時代より乳幼児心理学などを学び、幼稚園教諭に。子どもたちとの関わりを通して親業の在り方に疑問を感じたことを機に、心理カウンセラー(公認心理師)を志す。その後、社長秘書やキャリアカウンセラーを経て現職に。現在は個人のカウンセリングや企業のサポート、講演を主とするサロン運営も行っている。
URL/https://odakachie.com/

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